渡辺直美とcisco
朝、エレベーターで同僚と一緒になった。その同僚はオフィスのドアの取っ手にコートの袖を引っかけた。
「俺もよくやる。ネックストラップとか、バッグとか」
帰り、下りるエレベーターに乗ったら、その同僚が乗っていた。
「間違えて上るのに乗っちゃって。朝といい、マヌケなところを見られちゃいましたね」
「いやあ、それって誰かが引き留めてるんじゃない? 行くなって」
「あ、昔そういうのがありました。ファッションショーで、あるモデルが、出番が近づいても服が届かなくて、イライラしていたんだけど、いざ出番が来たらランウェイが抜け落ちたっていう。メイクさんが『わたし、実は見えるんだけど、おばあさんとか3人くらいであなたを引き留めてたよ』って」
「おお。なんか涙出てきた」
一緒に電車に乗る。
「俺、バッグのベルトのココ(長さを調節する留め具)が網棚に引っかかって取れなくなったことがあって。京浜東北線は『板』だけど東海道線は『バー』で、その隙間にちょうどハマるんだよね」
「バッグを作った人もまさか網棚にハマるなんて思わないですよね」
「そう言えば、網棚ってもう『網』じゃないよね。アレ、なんだっけ? そういうの。『固定電話』みたいな」(『レトロニム』のことを言いたかったのだが『網棚』はちょっと違う)
そのとき、車内の動画広告に渡辺直美が映り、『固定電話』をバッグに入れ始める。
「こういうことってあるよね」「あります!あります!」
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