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パラグライダーで墜落した話

以前、私は趣味でパラグライダーをやっていました。その中で、高度100mほどから制御不能になり、墜落するという経験をしました。

結果は腰椎にひびが入った程度で、その後は完全回復しましたが(飛び仲間や病院の皆様にはお世話になりました)、これは貴重な経験でもありました。今回は、そのときの教訓をまとめてみました。

使用している写真と本文の内容に直接の関連はありません。

事故の状況

事故に遭ったのは夏の終わり頃、いわゆるゲリラ豪雨の時でした。
場所は、山沿いの上昇気流を使って、長時間のフライトが楽しめるエリアでした。

1時間ほど飛んだあと天気が悪化しそうになり、山から離れて降りようとしたのですが、平野部にも雲ができはじめて降りられなくなりました。
雲の下では全体的に上昇気流が発生するためです。

通常なら着地しているぐらいの時間が過ぎても降りられず、必死に高度を下げようとしているうちに、激しい雨が降り始めてずぶ濡れになりました。

何とか高度100メートル付近まで降りたところで、突然、機体がロールに入って制御不能になりました。一瞬、軽く持ち直したものの、再びロールが発生して最終的に空き地横の塀に衝突しました。

常識が覆されたときの対処

そもそもパラグライダーは雨の中で飛ばないのが常識ですが、雨に遭った場合にどうすれば安全か、知識がありませんでした。

パラグライダースクールや教本では、豪雨の中で安全に飛ぶ方法は取り上げていませんし、仲間とのパラ談義でも話題に出たことはありませんでした。

今でも正しい対処方法はわかりませんが、おそらく、豪雨の中では飛行速度を維持することが最も重要だったと思っています。
生地が濡れて重量が増すと、失速速度に対する余裕がなくなるため、通常では問題ない程度の速度低下が事故を招いたと分析しています(これは個人の見解なので、正しいかどうかはご判断ください)。

パラグライダーでは、翼の後ろから出ているひも(ブレークコード)を手で引いて左右に曲がります。通常は全く引かない状態で飛ぶのですが、このまま乱気流に入ると、翼が前に突っ込みすぎて翼の前縁部が潰れる「フロントコラップス」を起こしやすくなります。

低高度での潰れは事故に直結するため、両方のブレークコードを少し引いて安定させるべきと学んでいました。しかし、これは速度低下を起こすため、雨の中では危険であったと考えています(これも個人の見解)。

常識は一定の確率で覆ります。起こりうる事象には、思考停止することなく対策を練っておきたいものです。

飛んでいる皆様には、豪雨の中で安全に飛ぶ方法を議論しておくことをおすすめします。

余計な遠慮は無用

もう1つは、余計な遠慮は無用だっということです。
パラグライダースクールでは、一通り飛べるようになると、緊急降下手段としてビッグイヤー(翼端折り)を習います。しかし、翼の中央部が生きているため、雲の吸い上げのような状況では役不足です。

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事故以前、別のスクールでは、より強力に降下できるホースシュー(翼の中央前縁部を潰して馬蹄形にする)を試していましたし、事故後、Aストール(翼の前縁部全体を潰す)も容易に習得できました。

これらの降下方法は目立つうえ、当時のスクールでは習わない飛び方だったため、スクール生の私は使用をためらいました。
しかし、これらを躊躇なく使えば、豪雨の前に降りられたかもしれません。

パラグライダーに限らず、日本では「習ったこと以外は実践すべきでない」という暗黙のしきたりがあるように感じます。
スクールから禁止されていたわけではありませんが、空気を読んで余計な遠慮をし、事故を回避できなかったのは大きな反省点です。

忖度によって不利益を被るのは自分自身。自己責任という言葉の意味を知った気がします。

現在

様々な娯楽を経験する中で、パラグライダーは究極の趣味でした。
自然に囲まれて空を飛ぶという非日常に加え、飛行技術、航空力学、気象学などのあらゆる知識を駆使する、非常に奥が深い世界が待っていました。

しかし、現在は引退してしまいました。転職で首都圏に引っ越したのをきっかけにエリアから遠のき、機材を処分してしまいました。

今後も高高度を飛ぶことはないと思いますが、地上練習で風と戯れて浮き上がる楽しさはもう一度味わいたいものです。
今でも日常生活で階段や急斜面を駆け下りると、テイクオフのときに翼が前にかぶってくる感覚が全身にみなぎるあたり、もはや病気です。

日々、タイムラインを眺めていると、様々なフライトレポートが目に入ってきます。ついカッとなって(?)、この記事を書いてしまいました。
オレ、世の中が落ち着いたら、どこかの地上体験コースに行くんだ……。

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