2020年・改正個人情報保護法の概要(情報の「利用」編)

1 はじめに

前回の全体像編では、2020年6月5日に成立した改正個人情報保護法の全体像をざっと紹介しました。各論編の第1回目となる今回は、情報の「利用」の場面における改正事項を見ていきます。

全体像編については、以下のnoteをご覧ください。

2 情報の「利用」の場面における改正事項について

以下では、情報の「利用」の場面における従前の個人情報保護法の規制内容(ルール)を簡単に復習した上で、今回の改正で追加された規制を見ていきます。

⑴ 従前の規制内容

従前の個人情報保護法においては、情報の「利用」の場面では「利用目的による制限」に関する規制が存在しました。
これは「個人情報取扱事業者」は「個人情報」を取り扱うに当たり、その利用目的を特定しなければならず、原則として、その特定された利用目的の範囲内でしか「個人情報」を取り扱うことができないというルールです(15条1項、16条1項)。
なお、「個人情報取扱事業者」は「個人情報」を取得した場合、取得前にあらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかにその利用目的を本人に通知・公表等する必要があります(18条)。

⑵ 今回の改正によって追加された規制

今回の個人情報保護法の改正によって「不適正な利用の禁止」に関する規制が新たに追加されました。
これは、違法・不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法による「個人情報」の「利用」を禁止するものです。
追加された条文では以下のように記載されています。

改正法16条の2(不適正な利用の禁止)
個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない。

⑶ 「不適正な利用の禁止」の趣旨

正確な制度趣旨については立法担当者の解説などが待たれるところですが、改正法の前提となっている「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し制度改正大綱」(令和元年12月13日・個人情報保護委員会)では以下のように述べられています。

適正な利用義務の明確化
〇 昨今の急速なデータ分析技術の向上等を背景に、潜在的に個人の権利利益の侵害につながることが懸念される個人情報の利用の形態がみられるよう
になり、消費者側の懸念が高まりつつある。
〇 そのような中で、特に、現行法の規定に照らして違法ではないとしても、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれのある方法により個人情報を利用するなど、本法の目的である個人の権利利益の保護に照らして、看過できないような方法で個人情報が利用されている事例が、一部にみられる。
〇 こうした実態に鑑み、個人情報取扱事業者は、適正とは認めがたい方法による、個人情報の利用を行ってはならない旨を明確化することとする。

⑷ 「不適正な利用の禁止」に関する規制の対象となる事業者

規制の対象となる事業者は「個人情報取扱事業者」です。
「個人情報取扱事業者」の定義は、今回の改正では変更されておらず、従前どおりです。
すなわち、「個人情報取扱事業者」とは「個人情報データベース等を事業の用に供している者」のことをいいます(なお、国の機関や地方公共団体などは除外されています)。

⑸ 「不適正な利用の禁止」に関する規制によって禁止される行為

禁止される行為は「違法又は不当な行為を助長し、または誘発するおそれがある方法による個人情報の利用」です。
対象となる情報は「個人データ」よりも範囲が広い「個人情報」とされています。
また、違法・不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法による利用とされていますので、その行為自体が違法ではなくても規制対象となる可能性があります。
なお、規制対象となる行為は「利用」に限定されるため、情報の「取得」や「第三者提供」については本規制の対象外と考えられます。

3 感想

不適正な利用を禁止すること自体は個人の権利・利益を保護することにつながりますので望ましいものと思います。
一方で、不当な行為を助長・誘発するおそれがある方法による利用を禁止するという条文の書きぶりだけを見ると、かなり幅広い行為を禁止することも可能なようにも読めてしまいます。
そのため、規制対象となり得る具体的な利用方法については今後ガイドラインなどで具体例を示していただくなどして明確化されることを期待します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?