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バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (9)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (9)

 四天王達は、千葉県総合スポーツセンター体育館の入口に立った。胸躍る過酷な戦場が彼女らを待受けている。空を見上げると、梅雨時にしては珍しく雲ひとつない透き通ったブルーが天井一面に広がっている。それは恰も悔いのない戦いを期待しているかのようだ。

「おはようございます。今日は宜しくお願いします……」

 皆が一斉に後ろを振り返る―。なんと西武台東高校の一団が、今にも襲いかかりそうな剣幕で睨んでいたのだ。

「おはようございます。こちらこそ宜しくお願いします……」

 と部長の志保が低姿勢で返すと、それに続けとばかり皆が軽やかに大声を上げた。

「宜しくお願いします―」

 挨拶も負けたくないという「根性」を見せつけたいようだ。こうして運命の戦いの火ぶたは切って落とされた。

 開会式が終わり、いよいよ団体戦が始まった。シード校の四校は、大会運営規程に従ってトーナメント組合せ表の四隅に配置されている。県船は第二シードの位置にいた。試合は、シード校が気持ちよく順当に勝ち上がっていった。ところがベスト8で全く予想だにしない番狂わせが起った。間違いなく準決勝で対戦するはずの、千葉女学館が2-3で京葉学園高校に敗れたのである。皆は、目の前で起こった悪夢の一部始終を見届けた。そして「明日は我が身―」という反面教師を体験した。

 顧問の川島は、一人で応援席を右往左往して落ち着かない。

「田崎さん、京葉学園のデータ、あったっけー。無かったら、どうしよ―」

 副部長で戦略担当の知美は、呆れ顔で口をとがらせ即座に言い返した。

「先生、いい加減にして下さい。まだ分からないんですか―。データは打合せ通りちゃんと持ってきています。優勝のチャンスは絶対に逃しません。それよりも、先生、じっとしていてくれませんか。みんなの気が散って迷惑です……」

「はい、はい、ごめん、ごめん、そうします」

 顧問の川島は、改めて四天王達の冷静さに感銘を受けた。するとちょうど「ただ今から、女子団体戦の準決勝を行います。第二コートに県立船橋中央高校と京葉学園高校はお入り下さい―」と大会本部のアルト声の軽やかなアナウスが響いた。

 県船のオーダーは、トップダブルスに部長の志保と知美の最強ダブルを置いた。そして、きららと百花をそれぞれ第一と第二シングルスに指名した。確実に相手のトップを潰す戦略に出たのだ。

 高校総体の組合せは、レベルによる駆引きが原則、禁止されている。フェアプレイに徹したオーダー提出が求められている。そして、大会本部には、不正な組合せを防御する強い権限が付与されている。

 県立船橋の京葉学園高校に対する戦略はズバリ的中した。2ダブルス、3シングルスは結果的に3-1という圧勝であった。プロジェクトのG-G作戦の大勝利である。

 両者はコート中央で労いの挨拶を交わした。すると突然、京葉学園高校のキャプテンから「西武台を倒して―、絶対にやっつけてね……」と熱いエールが飛んできた。四天王達に、思いもよらない異様なエネルギーが注入されることとなった。                           つづく