バド_ストーリー_四天王編Ⅱ_表紙

バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (4)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (4)

「きっつー、何とかしてくれよー、百花さーん、ちょっとやりすぎなんじゃなぁーい―」

 知美ときららが音を上げる。しかし、流石に自分が作ったプログラムである。百花は絶対ギブアップするわけにはいかない。実は、知美もきららもプログラムの重要性をしっかりと分かっていての発言であった。

 県船の専門鍛練期、総合練習は、例の『G・G作戦』が順調に進行していた。シングルスとダブルスともに対象である。しかし、その前に手を抜けない大切な作業があった。それは個々のプレヤーの分析によるプレイスタイルの把握である。プロジェクト・チームは、その点もぬかりなく完璧な下準備をしていた。

 体育館の片隅には、42インチのディスプレー二台とビデオデッキが数台乗った移動式のラックが準備されている。その画面には、強化選手のプレイが放映されていた。選手達は、驚きとため息から「ほおー、おぉー、あぁーあそこか……」と感嘆の発声を連発、皆がスクリーンにくぎ付けになっている。

「志保、後衛の左右のドロップ、もう少しネットに突っ込んでもいいんじゃないの。センターからのトップアンドバックはそのままでいいけど。それと、逆に左右の攻撃のときは、逆サイドが空くでしょう。絶対この対策が必要よ。この前の試合で速いアンダークロスの返球が三本あったわ。あのスピードで返されたら後衛はついていけないと思うの。ねぇー、ダイアゴナルの応用を考えてみない……」

 と知美が突然、対策案を提示した。確かに、指摘事項は的を射ていた。それもトップレベルの考え方である。

「よし、男子ダブルスにお願いして完璧なシミュレーション練習をやってみようぜ―」

 と志保はすぐさま行動に出た。志保の申し出に対して、男子のトップダブルスは、二つ返事で協力を承諾してくれた。

「志保のためだったら、しょうがねーな……」

 という言葉が返ってきた。そして、男子の二人は、攻撃パターンの画像を頭に叩き込んだのである。暫くすると、一人がぼそっと呟いた。

「この戦術、俺達もやってみようぜ。なかなかいけるかも。あのいつも俺たちが敗れているダブルスを徹底的に研究してみようぜ……」

 女子のトレーニング・アイディアがこの時、県船の男子バドミントン部の運命も大きく変えることになるとは、だれしもが予想していなかった。

 女子強化選手は、男子ダブルスを相手に徹底したシミュレーション練習を始めた。課題のスマッシュ・レシーブのダイアゴナル戦法は、臨機応変に動く前衛のポジションを徐々に確かなものとして定着していった。

 そうしたある日、練習が終わると、突然副部長の知美が、志保を「ちょっと、相談があるのでつきあって……」と呼びとめた。志保には全く心当たりがない。プラベートなことなのか、クラブのことなのか少し不安を抱きながら指定のファミレスに向かった。

 そこで部長の志保は、知美からショッキングな報告を受けたのである。

「志保、『G・G作戦』が西武台東にジャジャ洩れよ。それも具体的な分析内容まで洩れているようよ……。やばくなぁーい……」

 県船にとって大事件が勃発したのである。          つづく