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バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (2)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (2)

 翌日、緊急の戦略会議が開かれた。メンバーの中にはあのジージーも加わっている。テーマは勿論「シングルスのレベルアップ」である。

 総体は2ダブルス3シングルスの組合せで行われる。実はこの組合せが非常に深い意味を持っている。それは「選手層の厚さと伝統の証明」を求めてくるからである。組合せの第一シングルスはダブルスと兼ねることができない。因って、シングルスの専門職が第一シングルスを担当することになる。しかし、最強シングルスが一人いたとしても団体戦では、第二、第三シングルスの存在はそれと同等の意味を持つ。つまり「選手層の厚さ」が求められることになる。となると「三名以上のシングルス選手の育成はどのように!」という難題が持ち上がる。そして、そこには「伝統」という重い二文字がのしかかってくるのだ。昨日、今日という次元ではない。

 一方、組合せの戦術として、第二・第三シングルスをダブルスのメンバーで重複させるという手法がある。しかし、そこにもスタミナというキーワードがついて回る。そのことは上位校だけが体験する過酷で贅沢な悩みとなっている。

 戦略会議は荒れに荒れ、激論が交わされた。いままでにこんな事はなかった。それだけ皆の意識が「勝つこと。優勝してインターハイに出場したい……」という同じ方向のベクトルであることが確認できた。

 会議に出席していた顧問の川島は、一度も発言する機会がなかった。なかったというよりも、皆が議論しているテーマの意味を理解できなかったのである。川島はひとり孤独を噛みしめながら、決心して、田崎知美にこっそりとお願い事を託した。

「田崎、トレーニング方法と、練習計画の考え方とか、分かりやすく書いてある教科書を教えてくれないかい……」

 と言うと、知美はもったいぶった態度でそれもきつい言い方で即座に回答をした。

「先生、今更しょうがないわね。じゃ、いいものを紹介しましょう。これは、高いわよ―」

 と言っていくつかのツールの中から、次の教科書を教えた。

○「バドミントン教本(応用編)」 (財)日本バドミントン協会 編集

 川島は、一晩で250ページを熟読した。読み終えた瞬間、四天王が目の前に現れた。「先生、お疲れ様です。私たちが目指しているところが分かりましたか?」というのだ。川島は漸く顧問としての正式なポジションに立ったような気がした。

 応用編は、練習計画の全てが驚くほど分かりやすく、系統立てて掲載されている。そして、基本編とは補完関係にあって、バドミントン・プレイヤーのバイブルとなっていることも分かった。

 最終的に会議では、重要事項が決定された。ダブルスとシングルスの強化選手の人選、専門鍛練期のメニューの再構築、競合校選手の再分析方法などである。

 突然、副部長の知美が発言した。

「ビデオの分析をして、実際のプレイの再現をやってみない……」

「はぁー、何それ、どういうこと……」

 皆は首を傾げた。そして、多くの部員が意味不明の知美の発言に身を乗り出した。四天王は暖めていた強化練習方法をついに暴露したのである。そして、そのことが後のクラブの運命を大きく変えていくことになったのである。

                                  つづく