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バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (3)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (3)

 副部長・知美の提案の「プレイの再現」は、以前から四天王の間で議論が重ねられていたテーマである。そして、その制作は参考資料の中から志保のジージーが密かに編集を進めていたものである。参考資料は膨大であった。モデルとなる連続プレイを抽出して次のカットでスローに編集していくのである。

 会議終了時、部長の志保が少し間を置いて緊張した顔つきで宣言をした。

「この作戦を『G・G作戦』と名付けます。機密扱いとしましょう……」

 すると「了解!」という全員一致の雄叫びが上がった。部員たちは益々、連帯感を深めていった。午後から、総体までのスケジュールに従って早速、練習が開始された。八週間に亘るプロジェクトのスタートである。皆、気合い充分である。特に一・二年生はまるで別人のように先輩のフォローに動き回った。

 専門鍛練期の特徴は、試合に向けた専門の練習とトレーニングが中心となる(バド・教本・応用編)。運動量、運動強化ともに最大限に設定し、競技力を直接向上させる期間である。他方では、試合期に向けて疲労を残さず勝利への意欲と集中力を高めていくことになる「超回復(Super Compensation)」というキーワードがある。運動量と運動強度の高い練習・トレーニングを行ったとき、身体は疲労状態となり、活動レベルが低下する。その後、休養など適切な回復手当により身体の機能が前のレベルより向上するというものである。つまり、その選手に合った負荷をかけ、休ませることによってパワーアップが期待できるというものだ。しかし、一部のクラブではこの生体機能の知識に乏しく、S・Cを設定しないプログラムを運用した結果、活動レベルが低下し、オーバートレーニングに陥ったという事例も多い。

 応用編にはS・Cを利用するための週間計画モデルが載っている。金曜日、土曜日、日曜日に一つのピークを設定し、月曜日に完全休息をとり、水曜日に二つ目のピーク、木曜日を積極的休息日とするモデルがある。

 県船は、シングルス育成メンバーをこの「S・C」と「G・G」作戦の併用で進めることにした。そして、その目標は、コート内の移動スピードのアップとスタミナの向上という位置付けにした。

 千葉県高等学校総合体育大会バドミントン競技は、6月17日から三日間の予定で開催される。成績上位の団体1チーム、個人シングルス2名、ダブルス2組がインターハイに出場となる。

 各地区では予選会が行われていた。上位16校が高校総体に参戦する。決勝戦までは4試合の戦いとなる。

『G・G作戦』の企画にはあるプロジェクト・チームが動いていた。一切部員にも公表されていない。メンバーは顧問の川島、四天王と志保のジージーであった。チームは決勝戦までをシミュレーションして、そのデータを構築していた。その上で戦略会議に臨んでいたのである。しかし一点、顧問・川島の知識レベルのアップは喫緊の課題となっていた。

 そのことを何となく感じた川島は、田崎へ突然のお願いをしたのである。実にジャストなタイミングであった。こうして県立船橋中央高校バドミントン部は、八週間に亘る専門鍛練期に入っていったのである。           つづく