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バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (8)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (8)

 字幕タイトルの『癖、なー』は大いに部員たちにうけた。ゲラゲラの大爆笑であった。例のジージーは、マネージャーが収集した膨大なビデオ映像の中から、強化選手を中心に、ナレーション付きの『癖!』レポートを提供していた。プレイ中の無駄な癖は、強化選手にとって命取りである。綺麗で流れる様な理論的なフォームが求められる。

 映像の中に「次は、百花さんの癖を紹介します。実は試合中にポリポリとお尻を掻く癖があります。その理由は不明です。本人にお訊ねください―」と流れた。

「えー、私そんなことしてないよ―ひどい―」

 と百花は大反発。するとタイミングよく映像が始まった。コートの中には後ろ姿のダブルスペアが現れた。間違いなく百花ペアである。プレイは自動で早送りされた。そして、ストップすると、次に素晴らしいジャンプ・スマッシュの光景が映った。一発で決まった。着地した百花がなぜかポリポリと尻を掻いた。「キャー――」という悲鳴と同時に体育館に大爆笑の渦が巻き起こった。さらに、それを証明するかのごとく、同じ画像が幾度か繰返された。これでは事実を曲げようがない。

 ジージーの演出は、四天王と後輩たちの人生に確実にワンシーンを刻み込んだに違いない。百花は最初、本気で怒っていたが、もう事実を認めてあきらめ顔になっている。

 ジージーの『癖!』レポートは、実に多くの情報を提供してくれた。きららの右肩の問題、ショートサービスの癖、あるいは強化選手別のスマッシュ・レシーブの構え方等。皆は「目から鱗―」状態となった。映像の力は、他人が注意するよりもはるかに効果的である。

 いよいよ、千葉県高等学校総合体育大会バドミントン競技が始まる。6月17日から三日間のスケジュールである。県船中央女子は、船橋地区の代表として既に登録済みである。

 県内197校の中で勝ち抜いた16校が、高校ナンバーワンを目指し、インターハイの出場権を賭けて壮絶な戦いを繰り広げることになる。そして、それは二度と経験することのない貴重な青春の一ページに記録される。

 マネージャーから提供された貴重なビデオを編集していると、志保のジージーはふっと学生時代を思い出す。ラケットは木枠の合成であった。プレイの後は湾曲防止の目的から「プレス」と呼ばれる台形の木枠にボルトでしっかりと固定しなければならない。そして、汗臭い裸電球の部室も、まだはっきりと記憶している。

 志保のジージーは、青森県人会の事務局も担当している。都内には、青森県出身のバド経験者が沢山いる。働きながら各クラブに所属してプレイを楽しんでいる仲間がかなり多いのだ。その人たちにぜひとも情報交換の場を提供したいという熱い思いが結成の理由である。そして、大胆にもロンドン・オリンピックで準優勝した藤井・柿沼ペアにも、いずれは声を掛けたいとも考えている。

 大会前日、部長の志保はささやかな壮行会を企画した。八週間に亘るプロジェクトのケジメをつけたいのだ。志保は送られる立場であったが冒頭の挨拶で「みんな、よく頑張りました。立派です。しかし、これからが勝負です。いっぱい楽しんでナンバーワンになりましょう……」と檄を飛ばした。すると、皆は「うおー、うおー」と大合唱の狼煙をあげたのである。      つづく