バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (10)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (10)
京葉学園高校の熱いエネルギーは県立船橋中央の皆を、さらに一回り大きいバドミントン戦士に変身させていった。それは、今までのトレーニングで身に付けた強固な鎧と鋭利な剣を振回す俊敏な身のこなしに、強梁な精神力を合体させるものであった。
大会本部から場内アナウスが流れた。センター内に響く女性の声は心なしか興奮気味で、震えているようにも感じられる。
「ただ今から、決勝戦を行います。西武台東高校と県立船橋中央高校は本部前、第三コートに集合してください―」
それを聞いて川島は、顧問に就任した一年間が走馬灯のように思い浮かんだ。いままでこれほど興奮した出来事があっただろうか。この子たちと出会い、バドミントンというスポーツに出会ったことは既に決まっていた運命であったのだろうか。それを考えると、なぜかジーンときて、川島の心のダムは今にも決壊しそうになった。
「先生、川島先生、何をボーとしてるんですか。本部前に集合ですよ……」
とマネージャーの森が不機嫌そうな顔つきで呼んでいる。川島ははっと我に返った。ほんの一瞬の出来事であった。川島は迷うことなく勝手に決め込んだ。「今日、必ず彼女らが優勝するー」と不思議な自信が湧いてきた。
決勝戦は、予想をはるかに超えた大激戦となった。第一ダブルスの志保と知美は、千葉県ナンバーワンダブルスに立ち向かってゆく。第一ゲームは18ポイントまで競ったが、惜しくも落としてしまった。しかし第二ゲームの11本のインターバルあたりから流れが変わり始めた。それは、ドライブ中心の試合運びから、ハイクリアとドリブンクリアの戦術に切替えた為である。相手の強烈なスマッシュは、左右のネット前にストップさせた。バックに返されてもハイクリアと方向を変えたドリブンクリアを組合せる。まるで全日本シニアの試合を見ているような錯覚を起こす。
ラリーは30~40本と続き、緊張感のないクリアの連打は、特訓練習のようにも見えた。
結局、第二ゲームは21対18で志保達の勝利となった。そして、2分間のインターバルがあり、今度はファイナル・ゲームに入ってゆく。すると、西武台東高校のトップ・ダブルスは戦術を変えてきたのだ。カットドロップの多用化である。沈み込み動作ではなかなか合わせが難しい中間の速さの攻め方である。加えて瞬間的に面の角度を変えるラケットさばきも入れてきた。このタイプのプレイヤーは県船にはいない。
「ねー、志保、ラケット一本分前へ出てみない。ハンドル1㎝ほど短く持ってさ……」
「グッド・アイディア。了解、流石……」
と志保が返す。激戦はエンドレスで続いた。そして、一球一球、プロジェクトで磨かれた魂が16枚の羽根に乗移っていく。長いラリーは、圧倒的に志保のダブルスを優位に導いていった。そしてチャンスとばかり強烈なスマッシュを炸裂させる。二人のシャトルは恰もコントロールされたミサイルのように白いライン上に着弾するのだ。
西武台東高校の第一ダブルスはもう成す術がなくなった。
「ゲーム……」
主審の溜息のような終了宣言がコートに流れた。試合の関係者、皆が呆然として立ちすくんでいる。 つづく