バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (12)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (12)
百花のパートナーである二年生は、極度の緊張と今まで経験したことないプレッシャーで身も心も押しつぶされてしまった。
ファイナル・ゲームは20-20となり、2点先取に入っていった。バドミントン・プレイヤーにとってこの経験は夢にまで出てくる悍ましい、辛い領域である。たったの1点が人生を変えてしまうのだ。実に悲しい残酷なスポーツでもある。
「ゲーム……」
主審の冷たくあっさりとした終了のコールが流れた。24-26で第二ダブルスは終焉を迎えたのだ。パートナーの二年生には厳しい結果となった。百花は、震えながら茫然としている二年生に「よく、頑張ったわね―」と肩を優しく抱いて激励をした。
決勝戦はまだまだ終わらない。激しい戦いは続くのだ。そして、きららの第一シングルスが始まった。
「また、会ったわね―。今日はあなたを徹底的につぶしてやるから……」
ネットを介して、握手の瞬間、西武台東高校のトップシングルは、きららに恐怖の挑戦状を叩きつけてきた。だが、きららはなぜか動じない。無言で彼女の瞳の奥を透視していた。きららはもう巨人になっていたのだ。
ゲームは、2‐0できららの完勝であった。「S・C」と「G・G」作戦のプログラムの成果は、きららを実力的にも千葉県ナンバーワン・シングルに育てていた。
試合が終わると西武台東のトップシングルは「ご免なさい、インターハイは頑張ってね。私も応援するから―」と言いながら、激励の握手を求めてきた。きららは「あれ……」と不思議な違和感を持った。握手した右手の中に『勝ち守』が張付いていたのだ。
第二シングルが始まった。両部長同士の戦いである。意地とプライドを賭けた壮絶な試合である。西武台東は絶対に負けられない。もう後がないのだ。二人の過去の対戦成績は二勝二敗となっている。力は全くのイーブンであった。
第一ゲームから気合の入ったラリー合戦となった。スマッシュを使わないクリアとドロップの応酬である。しかし、両部長とも体力には自信がある。観客は、固唾を呑んでその試合に没頭してゆく。それは突然で、全く予期していないアクシデントであった。ファイナル・ゲームの前半、部長の志保が11ポンイト先取という場面であった。
バックからジャンプ・スマッシュを放ち、左足から着地した瞬間「ドサッ―」という鈍い音とともにバランスを崩してコートに崩れ落ちたのである。応援席は全員総立ちとなった。「ギャー」という悲鳴が聞こえる。素早く主審はストップを宣言、選手の状況把握に入った。そして、本部席に合図を送ってレフェリーを呼んだ。
レフェリーは医療役員を呼ぶ必要ありと判断。早速、医療役員が呼ばれ、治療の可否が判断された。バドミントン・ルールには如何なる場合でもプレーの不当な遅延を引き起こす医療措置も認められてはいない。
診察の結果、「捻挫(外側靭帯損傷)」の可能性があると志保に伝えられた。すると「棄権しますか?」と冷たい主審の問いかけがあった。そばでは、既に医療役員の指示でアイシングが始まっている。部長の志保は皆の顔を見回し、最後に顧問・川島の視線を確認した。
「よし、棄権しろ―」と上下にうなずいている。部長・志保の判断は即決であった。 つづく