バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (14)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (14)
第一ゲームは、百花に軍配が上がった。相手の副部長には焦りが見え始めた。しかし、伝統校の西武台東である。決して侮れない。120秒のインターバルの間、百花には多くのアドバイスがあった。相手がどのように攻めてくるか、どのような戦略でくるかのアドバイスであった。仲間にこんなアドバイスってあるものなのだろうか。敢えていうと、それは「S・C」と「G・G」作戦で鍛えられた部員の成長の証である、と百花はとらえた。
「第三コート、20秒・20秒―」
第二ゲームがスタートする。百花はメラメラと燃え上がる闘志を感じながらも、相手校、副部長のプレイの一挙手一投足を冷静に監視しながら進めていくことに決めた。11ポイントのインターバルに入ったとき、百花は相手・副部長のリターン場所のデータ解析をマネージャーに尋ねた。やっぱり、百花の左バック狙いの比率が多いことが分かる。
取り敢えず、狙わせておいて、戦術を変えるタイミングとその具体策の方針に集中することにした。相手は、第二ゲームを正念場と考えている。後がないからだ。また、第二ダブルスで相当の体力を消耗しているはずだ。彼女の冷静さが興味のポイントである。
第二ゲーム、15オールとなった。ここからは一打一打に、少しのミスも許されない攻守が続く。相手のサービスがロングハイサービス主体からバックハンドショートサービスに変えられた。目的は不明だが、微妙なタイミングのズレを狙ってきているのだろう。すかさず、高いロビングで相手コート、バックバウンダリーラインまで返球する。そして、相手のスマッシュを警戒する。しかし速いクロスのドリブンクリアが返ってくる。タイミングをとるためにストレートのハイクリアを送った。すると、今度は速いクロスカットがコートの端ラインに届く。「そうか、この戦術があったか―」と百花は即座に分析をした。
左右の違いはあったが2本先取されてしまった。バックハンドショートサービスにはスピンネットでいくしかないと即座に戦術を変更する。
第二ゲームは、結局19-21で百花が落とすことになった。しかし、百花は全く動揺していない。それどころか突然、百花の体全体に異変が起こった。「楽しい……、試合が楽しい―」。頭でコントロールしている訳でもないのに、五体がこの決勝戦・第三シングルスの試合を楽しみたいと言っている。こんな経験は今まで味わったことがない。「私って、どうなっちゃったの……」と百花は湧いてくる闘志とコートの中だったら、どこでも飛んで行けるという不思議なパワーを感じた。
「ファイナル・ゲーム、ラブオール、プレー」
と主審が最後の戦いの宣言を出した。百花の動きは、まるで別人のようであった。いくら打たれてもコートに隙間が生じない。ラリーも楽しく遊んでいる。百花は5ポイントリードした。19-14である。
相手の副部長は、バックバウンダリーラインから激しく、連続でスマッシュを打ち込んできた。三発目は、ネット右端にストップで返球する。しかし、相手は高いロビングを返してこない。
「ゲーム……、マッチ ワンバイ 中原さん21-18、19-21、21-18……」
勝利の大歓声とともに全てのストーリーは漸く終わった。顧問の川島は全員の顔を眺めた。光輝いた、いい顔をしている。不思議と涙を流している者がいない。彼女らは、もうすでにインターハイへの道という未知の新しいスタートを切ったにちがいない。 完