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バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (11)

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、小説を書きました。前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載します。お読み頂ければ、光栄です。


バド・ストーリー (四天王編Ⅱ) (11)

 奇跡の大事件が起った。会場は一瞬、沈黙に襲われた。そして怒涛の大歓声が沸き起こった。

「わーーい。やったー。すごい、すごいぞ……」

 怒涛の嵐はなかなか止みそうにもない。その中で両者は、ネットの下で熱い握手を交わして、お互いの健闘を称えあった。

「藤井さん、あんた達にダブルスのナンバーワンを譲るわ。ここまでよく強くなったわね。あんた達のプロジェクトを甘くみていたようだわ。私たちの完敗ね―」

 西武台東高校のキャプテンの言葉は、思いがけないものであった。瞬間ふーと、あのジージーの口癖を思い出した。「敵に褒められたとき、プロジェクトは完結する―」を。志保は心の中でそっと呟いた。「とうとう、やったね。西武台を超えちゃった。私には強い味方が三人もいるのよ。県船の四天王なんだから―」

 志保はあの苦しかったプロジェクトを思い起こした。求めていたのは西武台東のキャプテンの言葉だったのかもしれない。

「第三コート、次の試合を行います。第二ダブルスの皆さんはコートにお入りください―」

 交代となった主審の軽やかな呼び出し声がコートに広がった。死闘はまだまだ続く。すると 「第二ダブルスのお二人、大事なお願いがあるんだけど。よく聞いてね」と突然、川島が今まさに試合が始まろうとする二人に、とんでもないミッションを与えた。

「中原さん、部長達の試合を見て、お願いしたいことがあります。オーダー表の第三シングルスは君たちの片方です。体力が続く限りとことん戦って下さい。お願いします……」

 川島は、オーダー表を見たとき、ピーンときて何かを感じた。最近、度々起こる現象である。相手はトップダブルスの片方が第二シングルスにエントリー、第三は、セカンドダブルスの片方となっているのだ。

「了解。川島先生なかなかいいところ突いてるじゃん―」

 と、百花は逆に川島の感性を心から褒め称えた。しかし既に、四天王はオーダーシートの分析とその対策を完了していた。

 第二ダブルスの戦いは、第一ダブルス以上に両校の応援団を熱くし、観客が息もつけないほどの激戦となった。試合は、第一ダブルスの試合時間をはるかに超え、スタミナ勝負の領域に入っていった。

 ゲームは第一を18-21で落としたが、第二ゲームは逆に21-18で取り返した。問題は、ファイナル・ゲームである。百花のダブルスのリズムはほとんど変わっていない。一方、相手ダブルスの動揺は百花にも明瞭に伝わってきた。あの絶対的に最強の位置に君臨してきた西武台東高校に綻びが見え始めたのだ。ファイナル・ゲームは先に20ポイントで県立船橋がリーチをかけた。2ポイントを先取している。しかし、油断はできない。

 それは突然の出来事であった。百花のパートナーである二年生の態度がどこかおかしい。バックにいる彼女に「ファイト、慎重にね―」と声をかけようと振り向くとなんと彼女は泣いているのだ。これはどうしたというのだ。試合は中断ができない。遅延で「イエローカード」の可能性もある。

 百花は平常心を装って小声で「どうしたの……」と訊ねた。

「先輩、体の震えが止まらないんです。シャトルが見えないんです……」

                                つづく