バド・ストーリー(四天王編) (10)
医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、書きました。10回の連載です。お読み頂ければ、光栄です。
バド・ストーリー (四天王編) (10)
「セカンドゲーム、ラブオール、プレイ……」
と主審の冷やかなコールで決勝戦第1ダブルス、第2ゲームが始まった。相手チームはこのゲームを落とすわけにはいかない。ラリーは自然と攻撃的な配球となった。ネット際のヘアピン、クロスネットからロブを求めてくる。そして、何とかトップアンドバックの体勢に入ろうと狙ってくる。しかし、志保・知美組は百も承知で、肩の高さでネットすれすれに打つドライブにもち込む。
そして二人は、相手のジレンマゾーンをターゲットにしてサムアップのバックハンドグリップで強烈なホディ攻撃を繰返す。西武台東高校のトップダブルスは、羅針盤を失った巨大船のように攻撃の方針を立て直すことができない。見事な知美の戦術の勝利であった。結局、第2ゲームは21-15となり、2ゲーム先取で勝利をもぎ取った。
決勝戦はダブルスが1対1と別れたことから、優勝のカギは、全てがシングルスで決着することになった。第一ダブルス試合終了と同時に、第二コートのベンチを一人で暖めていた顧問の川島と、志保と知美は急いで交替をした。
「川島先生、お疲れ様でした。ありがとうございました―」
と言うと川島は「ふぅー」と息を吐き、後はブルブルと体中を震わせた。緊張の糸がほぐれ、途端に恐怖が襲ってきたのだろう。
ファイナルゲームは10-11でインターバルに入った。依然として大激戦である。
「きらら、頑張ってね。これからが勝負よ。でも焦らないでね。相手は相当バテてきてるから、時にはドリブンクリアーも有効よ。それと左右のネット下へのフェイントぎみのドロップをもう少し多くしてもいいわよ……」
「知美殿、きらら了解。それでは戦いに行ってきまーす……」
ときららは大げさな態度でコートの中に入って行った。しかし、きららの肉体は実は悲鳴をあげていた。いつ太ももの痙攣が起こっても不思議ではないほど疲れきっていたのである。20-20となった。ラリーポイント制では2ポイント先取が勝ちとなる。西武台東高校と船橋中央高校の応援団は、勝ち負けを度外視して、勝負を超えた二人の死闘の行方に、くぎ付けになった。
きららは、無心にシャトルを追い続けた。16枚の一枚一枚の羽根が光って見える。そしてより糸まではっきりと不思議なぐらい鮮明に見える。
「ゲーム!」
と主審が全ての終わりを宣言した。きららはコートの隅に崩れ落ちた。今まで経験したことのない満足感と徐々に薄れていく意識の中で「みんな、ごめんね……」と口元がつぶやいた。それを見ていた西武台のトップシングルはきららに近づいて行くと、火照った右手を握った。
「早川さん、ありがとう。今日は楽しい試合ができたわ。しょうがないからあなたを最強のライバルとして登録よ……」
と言いながらきららの傍に同じく倒れ込んだ。会場は「シーン」となった。
県立船橋中央高校は、関東大会予選会で準優勝という快挙を成し遂げた。同時に、高校総体とインターハイ予選という新たなスタートに立つことになったのである。
完