バド_ストーリー_四天王編Ⅱ_表紙

バド・ストーリー(四天王編Ⅱ) あとがき

医療ライターの三浦秀一郎です。バドミントンが好きで、前回の四天王編に続き、四天王編Ⅱを連載しました。四天王編Ⅱのあとがきです。


〇 あとがき

 バドミントン日本リーグ2015の最終戦が平成28年2月13日と14日に国立代々木競技場・第二体育館で行われた。私は審判員の委嘱により、目の前で可憐なプレイをする桃田賢斗と奥原希望選手を眺めることができた。バドミントン人生、同じフロアで有名選手の振動を肌で感じることができた一期一会は、嬉しいやら、自慢したくなるような、私にとっての画期的な大事件であった。さらに、審判員控室では平成22年1月、現役を引退表明した小椋久美子さんがテーブルを挟んだ向うで、化粧直しをしていた。ドキッとするその観音菩薩が陽光に照らされている横顔は、なんと言っていいのかただ、ただ、生涯忘れることのできない感動の出来事となった。

 日本の『バドミントン』競技の評価はいまだにマイナー・スポーツの領域にあると感じる。その大きな理由として、興業収益が獲得しにくいスポーツのグループに位置していることではないだろうか。

 社会人クラブチームの運営の維持には企業側の相応の費用充当が必要であり、選手自身もこの企業支援を強く肌に感じながら、極限のプレイに挑戦している。特に上位の選手にとっては、獲得ポイントの上乗せが人生を左右することから、その苦労は計り知れない。そしてその結果、選手にはストレスの累積が始まる。しかし、このことは特別、バドミントン競技に限定したものではない。世界を目指すどのスポーツ競技においても、アスリートには同様のプレッシャーが働いていると思う。

 そうした中でバドミントン界に激震が走った。平成28年4月7日、朝、全国紙一斉に『バドミントン新旧エース、裏カジノ賭博、リオ五輪絶望』が報じられたのである。記事は次の内容であった。

-『バドミントン界のエース、リオデジャネイロ五輪への出場が確実視されている桃田賢斗選手(21)と、2012年のロンドン五輪バドミントン男子代表の田児賢一選手(26)が違法な裏カジノに出入りし、金を賭けていたことがわかった。日本バドミントン協会は、桃田選手をリオ五輪に出場させない方針を明らかにした。(朝日新聞デジタル)』-

 非常に残念な報道記事である。そしてその後、調査が行われ、公益財団法人 日本バドミントン協会と所属企業から適正な処分と思われる対応発表があり、現在に至っている。

 敢えて今回の事件を身近な練習仲間に聞くと、コメントは一様に『バカな奴らだ。コンプライアンスがなっちゃいない。また、教育も聞いたことがないよねー』である。起こるべきして起こったという意見である。

 私は「バド・ストーリー(四天王編)あとがき」に、取材時に得た重要な問題点を三つ取り上げ、提起させて頂いた。それは大きく分けると金の問題と人(審判)の育成に関するものである。

 今回の事件は「個人のモラルの欠如だ-」という個人的批判をする選手もいるかもしれない。しかし、五輪代表選手である以上に、一般人であればコンプライアンスの遵守は基本事項ではないだろうか。一方では、私が前回指摘したバドミントン界に渦巻く二つの重要項目はいまだに、全くクローズアップされていない。水面下でうごめくデカい氷山ではあるのだが。

 さて『バド・ストーリー(四天王編Ⅱ)』を終わるにあたって、各プレイヤーと部を強くするための対策は、一般企業の「ものを売る」所謂、販売戦略と酷似しているのではないかと何となく感じたことである。マーケティング・ストラテジーの応用勉強は必ずや役にたつのではないかと、ある閃きを感じたのである。しかし、あくまでも私見であることから今後のデータ蓄積と理論展開が必要であることは否めない。

 県立船橋中央高校のバドミントン部は、関東大会予選会終了後、慰労会を行い、そして次のステップへと前進してゆく。「団体戦の難しさ」は予想していたものの、さらなる理論的・計画的な練習が必要となってゆく。

 そんな中で極秘プロジェクトの内容がリークされるという事件が勃発する。当然のことながら、仲間たちは疑心暗鬼に陥る。しかし原因が判明し、マネージャー一名が退部となる。そして、このことから部の団結力はさらに強固なものとなって発展してゆく。

「バド・ストーリー」は、実在した四人の高校生がモデルになっている。その進路は一人が医師となり、二人目は教師となり、三人目は天文学者となり、最後の一人は大学の放射線技師となる。「三者三様」という四字熟語があるが、まさにこの四人は「四者四様」のごとく、その能力にあった担当分野を分担して、専門領域を駆使したストラテジーの展開を目指してゆく。さらに、この四天王をバックアップする『ジージー』の存在も重要なポイントとなっている。

 ユニークなのは何といっても『顧問の川島』だろう。熱血漢であり、真摯な性格の持ち主らしい。実際のモデルの川島先生は、教職員全国大会と全日本シニア大会の上位に名を連ねる上級者である。知人でもあったことから、今回は、バドミントン音痴の役割を押し付けてしまった。書面で失礼ではあるが、一言お詫びを申し上げたい。

 決勝戦、シングルスでは歴史的な戦いが繰りひろげられる。大学リーグ、実業団リーグ、国体そして全日本シニア、と上位の選手になればなるほどその顔触れは、お馴染みとなる。高校時代でも、名の知れた小学校、強豪中学校からすでにバドミントン競技に参戦して、県大会レベルの経験を持っていれば、自然に顔見知りの関係が成立するのである。実に狭い領域のスポーツでもあるのだ。きららの相手もそうした相手であった。しかし、今回は負けるわけにはいかない。

 バドミントンコートには魔物が住んでいる。第二ダブルスの二年生は、その魔物に取りつかれてしまったといえよう。21本というスコアにも原因がある。経験が豊富な上級者であっても、相手という敵があっても、自己の中に魔物が住んでいるのだ。プレイヤーはこの魔物に取りつかれた瞬間から、プレイのやり取りを全て忘れてしまうことになる。

 また、この魔物は『棄権-』という一瞬の采配を下すときもある。実に残酷ではあるが、それは突然やってくるのだ。志保にそれが襲いかかってきた。もうどうすることもできない。次の最終シングルスに期待をするしかないのだ。

 いろいろなスポーツを見ていると、有名選手のコメントに『楽しみたい、楽しんでプレイをしたいですー』とよく耳にする。そして、バドミントン選手のコメントにもこの台詞が最近は多い。百花のファイナル・ゲームのプレイ姿はある種の『体がバドミントンを楽しみたい-』と言っているようにも感じられた。

 最後に、以前から温めていた『バド・ストーリー(四天王編・四天王編Ⅱ)』を発表する環境を提供して頂いた「株式会社ピースオブケイク」には、心から感謝と御礼を申しあげたい。また、最初に情報を提供して下さった「ライターズ・ネットワーク」の関係者にも深く御礼を申しあげたい。