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【小説】CryptoNinja:二次創作【短篇】

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※この短篇小説は
『CryptoNinja』(https://t.co/d50MqNYSUf?amp=1)の二次創作です。

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咲耶

 影を追っていた。
 敵対する陣営のなかである。
 蒼い月夜に息を潜めた森にはかすかに霧が流れ、気配だけが咲耶さくやの肌を打つ。秋口の夜気は冷たく、這い寄る孤独感を際立たせるようだ。
 夜闇に生きる道へと踏み入り、月だけが味方となった。
 大樹の幹に背を預け、息を整える。夕刻に放たれた斥候は、自陣に戻ったころだろう。
 なにごとを成すにもまず、知ることからはじまる。そのためにはまず仮説を立て、探りを入れることだった。土地を調査せずに、杭は打てない。
 それでも、咲耶はまだ戻れない。戻るわけにはいかなかった。
 血がにおう。そのわりに戦場いくさばの乱れた気配はなく、足はにおいのもとへと向かった。
 屍体。目立つ外傷はなく、五人、いや六人が表情ひとつ変えずに、絶命している。手練てだれの業だ。いずれも野盗の身なりで、一人だけ鎧を身に着けた男が転がっている。その眉間に、月明かりを受けて光るものを認め、咲耶は歩み寄った。
 手裏剣である。咲耶には、それがどこのものかわかる。たとえ闇のなかであっても、間違いようはなかった。死の間際、父が手にしていた伊賀の手裏剣。
 やはりまだ戻れない。咲耶は、改めて思った。
 先を急ぐ。はじめから遅れをとっているのだ。霧に濡れた森のなかを駆ける。枝葉が頬を打つが、構わなかった。
 咲耶のやろうとしていることは、命じられたことではなかった。いつでも、自分のやりたいことが求められるわけではない。やるべきことと、やりたいことは別だ。それはわかっていた。しかし、頭でわかっていることと、心の求めるものはまた違う。
 咲耶は自分で、あまり忍耐強くはないと思っていた。勘に頼りすぎる。それが大きく外れることもないので、ことさら直そうともしてこなかった。
 森を駆ける。張り出した樹の根などに、足をとられずに駆ける鍛錬は、嫌というほどやった。はじめは、自分には無理だと決めつけていたが、いつからか見えるようになったのだ。眼で見るのではない。研ぎ澄ませた感覚の針先に、触れてくるもので見るのだ。それは、教わればできるというものではなかった。
 結局は、やるか、やらないか。それだけである。
 大量の落ち葉を積もらせた一画を過ぎ、森林を抜ける風のごとく進む。あしうらに感じる土の感触が、硬い岩肌へと変わりはじめたところで、歩調を緩めた。
 黒く大きな影が立ち並んでいる。岩場に根を張る、松の影である。潮のにおい。潮騒も耳に届いているので、海が近いのだろう。松林の向こうは、崖になっているようだ。近づき、確認する。
 月明かりに輝く海は、魚鱗ぎょりんのようにぎらついていた。下方の浜に、小舟がひとつ。崖は、人が跳べる高さではない。普通の人間ならばだ、と咲耶は自嘲をこめて鼻先で笑った。
 浜に人影がないか確認しながら、結いあげた髪の結びに手をやる。咲耶の癖だった。幼いころの記憶は、いつも母に結わえてもらったこの髪の結びとともにあった。本当は、髪をまとめてもらう間に、母と話すひとときが好きだったのだ。
 崖を離れ、陣営を目指した。
 夜闇に浮かびあがるように、数多くの幕舎が並んでいる。出入りに使えそうな箇所には槍を立てた者、近くの櫓には弓を携えた者。容易に忍びこむことはできないだろう。
 しかしその厳重さが、重要なものの場所を教えているようなものだともいえる。
 咲耶は、堂々と陣営の周囲を歩き、ぐるりと調べた。見張りは気づいていない。揺曳ようえいする篝火に闇は深く、光のなかに立てば、かえって闇が見えなくなるものだ。
 人の気配は異常に多い。どこから集まってきたのか。
 秋夜の羽虫はかがりに誘われ、その身を焼かれる。薄翅うすばねほむらに包みながら、一瞬の命を美しく燃やすと見るか、ただ銭に群がり、無用な怨嗟えんさの声を生む、人の愚かさと重ねて見るかは、おのれの心向きひとつだ。
 裏手の柵に、壊されたところがあった。先客がいる。
 驚きはしなかったが、ここから習って立ち入るのは、どう考えても上策だとは思えない。敵陣の真中である。じっと待つべきだ。すぐに、都合よく好機が訪れるわけはない。
 出てきたところを、押さえればいい。そう思い直した。先客の狙いはわかりきっているのだ。むしろこちらに、一分の利がある。
 考えていたところ、不意に火の手があがった。幕舎のひとつが燃えあがり、周辺をあかく照らしている。
 揺動ようどう。咲耶はすぐに見てとり、踵を返した。
 騒ぎが広がりはじめた火の手と反対に、駆ける。前方の樹間に人影。気配はないが、確かに見た。
 陣は大変な騒ぎだったが、とにかく影を追う。
 松林に差し掛かったところで、ざわりと肌が粟立ち、とっさに跳び退すさる。すぐさま、樹の幹を打つ音が響いた。
 手裏剣だった。互いに駆けながらも、正確に狙っている。洗練された技倆ぎりょうである。遅れて、冷や汗が背を伝う。膝も、かすかにふるえていた。
 本当に深追いすべきだったのか、という思いと、しっかりしろ、とおのれを叱咤する思いが交錯し、咲耶のからだを硬直させていた。
 このままでは、殺られる。ふくろうの鳴き真似をして、ごまかせるような相手ではない。
 闇から浮き出るように、影が咲耶の前方に現れる。紛れもなく、追っていた影だった。
 うるしを撒いたように、濡れて艶のある夜。月下の霧は晴れ、影の姿を浮かびあがらせていた。
 闇のなかの対峙。耳には、かすかな海鳴りが聞こえている。伊賀の男。咲耶には、どうしても訊きたいことがあった。
 背の刀を抜く隙はない。互いに息を読み、空気が張り詰める。まだ、踏みこむときではない。
 こめかみの横を、汗が流れ落ちていく。いくらも経たないうちに、咲耶は口を開けて息をしなければならなくなった。
 いつの間に動いたのか。はじめより間合いが詰められている。
 影の男が、不意に動いた。咲耶は動揺し、横に倒れるように跳びながら、手裏剣を放った。素早く抜刀した男は、手裏剣を薙ぎ払って打ち落としたかと思うと、そのまま跳躍し、闇を斬るように刃を振りおろした。くぐもった叫び声とともに、血が飛ぶ。
 咲耶には瞬間、なにが起きたのかわからず、上体だけを起こして見ているだけだった。追手である。松林から流れこむように、武装した者たちが姿を見せる。
 伊賀の男は、続けざまに射かけられた矢をかわし、左右の同時に振りおろされた太刀を躰を捻ってかわす。背後から浴びせかけられた太刀をねあげると、流れるような動作で相手の胴を横薙ぎに斬った。次々と襲いかかる殺意を、踊るようにかわし斬り捨てていく姿に、咲耶は思わず見惚れるような恰好で見ていた。
 法螺貝を吹き鳴らす音が、森の静寂を呼び覚ますように響き渡った。さらなる追手が、ここに殺到するはずだ。
 咲耶は這うようにして場を離れようとしたが、追手の一人に見つかった。刀を抜き、あの男と同じように矢を払い落とす。得意とするのは口寄せの術だが、刀を遣えないわけではない。
 しかし、気づけばすっかり囲まれていた。
 伊賀の男が陣から持ち出したのは、山吹色の菓子、そして巻物だろう。群がっていた銭の篝火を盗まれ、追手は必死の形相である。
 さらに悪いことに、咲耶もその一味だと思われているのだった。伊賀の男と甲賀の女が共闘するなどとは、相手方も考えてはいないだろう。当然のことだった。
 足で地を掴むように、じりじりと詰め寄られている。袋の口を絞るようなものだ。また一人、二人と斬り結ぶうち、浅傷あさでは受けたが、この程度なら手持ちの薬でどうとでもなるだろう。
 それよりも男はこの状況を、どう切り抜けるつもりなのか。動じた様子など、微塵も感じられない。
 法螺貝を聞いた連中が、さらに集まりはじめていた。どうすべきなのか。
 そのとき、伊賀の男が懐に手を入れたところを、咲耶は見逃さなかった。取り出したのは玉で、男はそれを地を打つように素早く放った。
 爆発音。閃光と煙が、一瞬であたりを包む。咲耶は一瞬、出遅れたが、身をひるがえした男を追って駆け出していた。構えのなかった者は、音と光と煙で、すぐに追うことはできない。
 火遁かとん。伊賀の、火薬を利用した術は、確かに強力だった。
 男の背が、遠ざかっていく。
 待って。訊きたいことがある。父の死の真相を、あんたならなにか知っているはず。咲耶は駆けながら、声にならない声で叫ぶ。
 そしてあんたの強さ。前に一度だけ眼にしたときから、あたしは影を、そう、あんたの影を追ってきた。指笛ひとつで草地に配下が現れる、あんたのような忍になりたいと、父の遺したものを継ぎたいと。去来する思いばかりがたかぶり、涙が浮かんでくる。
 松林が途切れた先に、男の姿が見えた。崖になっている場所だ。咲耶を待っていたかのように、男は崖の縁に立っていた。
「待って。訊きたいことがあるの」
 呼吸を整え、言う。
「俺にはない」
 地を這うような声だった。
「娘。太刀はいまひとつだな。だが、手裏剣の腕はなかなかのものだった」
 口調は変わらないが、なぜか男が笑っているような気がした。
 闇に、またその姿が溶けていく。
 まさか、と思ったとき、男の姿は消えていた。咲耶は崖に駆け寄り、這いつくばって下を覗く。
 小舟に向かって浜を悠々と歩く、男が見えた。
 この高さを、自分は跳べない。だから、あの男のようにはなれない。そうは思いたくなかった。道は、ほかにもある。
 咲耶は、崖に巻きつくように続いている道を、一気に駆けおりたが、浜にたどり着いたとき、男の姿は小舟とともに夜の海へと消えていた。
 男の低声が耳もとで蘇り、はらの底に響く。
 咲耶は一度、髪結いに手をやり、大きくうなずいた。
「あいつの影を追う。遅れをとるわけにはいかない」
 舟がなければ、泳ぐだけだ。開けた海は、どこまでも通じている。そのはずだ。
 闇のなか、いまはやはり、あの月だけが味方だ、と咲耶は思った。


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後書-あとがき

お読み頂きありがとうございます。

▼この短篇の展開には、新たにNFTに臨む人が抱くであろう

・「目標となる先駆者」
・「マーケティングは市場調査→仮説検証が必須」
・「自分のやりたいことが、求められるものとイコールではない」
・「成功者と同じことができなくても、違う道はある」

……などの裏設定に加え、

そして最後には「開けた海(OpenSea)」へ泳ぎ出す……。
といった要素を忍ばせました。忍なだけに。

愉しんで頂ければ幸いです。


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