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水中写真と構図について考える⑧ ~トリミングのメリットとデメリット~

こんにちは、上出です。
今日は構図コラムの第8回です。

「トリミングについてはどう考えれば良いか?」

というご質問をいただきましたので、今回はそれについて考えていきます。


■何のためにトリミングするのか

そもそも、なぜトリミングするのかということを考えてみましょう。
僕が思いつく理由は以下の3つです。

①構図を整えたい
②余計なものを画面から外したい
③被写体を大きく見せたい

人によっては他にもあるかもしれませんが、まあこの3つは皆さんある程度共感してもらえるのではないでしょうか。
ひとつずつ見ていきましょう。

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①構図を整える

一般的には、これがトリミングをする一番の理由ではないでしょうか。
水中写真に限らず、いつ最高の瞬間が訪れるかわからないネイチャーフォトという分野においては、「構図は必ずしも第一優先ではない」というのが僕の考え方です。

例えば下の写真、シャッターチャンスは一瞬だったので、構図のことは細かく考えず、ピントとライティングを優先して撮りました。
トリミング後の写真とトリミング前の写真を載せますね。

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僕が水中で、○○構図的な意味での構図を無視して撮影するのは、ハッチアウトは特殊な例として、マクロで動きの速い被写体を撮る時です。
スズメダイやハナダイの幼魚なんかがいい例かなと思います。
どんな風に動くか予想がしづらいので、フォーカスポイントを真ん中に置いて撮影して、後から構図は調整するという感じです。
一眼レフのAFの性能は真ん中が一番高いので、まあ理にかなっているのかなと思っています。

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マクロで動かない被写体、動きの遅い被写体を撮影する時は、撮影時に構図を作ります。
どういう考え方で構図を作るかについては、これまでの記事をご覧ください。

水中で完璧に構図を作りこめればいいのですが、被写体が動かないとは言ってもウネリで体が動いてたりしますし、時間も限られています。
なので、「水中である程度構図を作っておいて、お家でゆっくり構図を完成させる」というのが、僕はほとんどなんですよね。
(あんまり変わらないように見えますが、上が僕なりの完成系です。)

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じゃあワイドはどうかと言うと…

「ワイドはトリミングしない。撮影時に勝負する。」

と言えればカッコいいんですが、実際には僕はほとんどトリミングしています。

ただ、スズメダイを撮る時のように、「構図を無視」することはないですね。
○○構図とかはあまり意識していないですが、ファインダーの四隅まで見ようという意識は強いかもしれません。
何を入れて何を入れないかは、できるだけ細かく見ています。

ワイドのトリミングは、マクロの動かない(動きの遅い)被写体と同じで「水中である程度構図を作っておいて、お家でゆっくり構図を完成させる」パターンですね。
人によっては「ワイドはトリミングしない」という方もいると思うので、ここは意見(というかポリシー?)が分かれるのかもしれません。

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②余計なものを消す

これも皆さんたまにやりますよね?
僕はしょっちゅうやります。

「色が暗いこの部分だけ消したいな…」

マクロでは特に、そう思うことありませんか?

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ワイドだと、「せっかく最高の瞬間だったのに、変なおじさんが入り込んできた」みたいなことありますよね。
そういうおじさんは、遠慮なく切り落としましょう。

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もちろん、トリミングでなんでもかんでも消せるわけじゃありません。
当然、被写体から近い部分を消そうと思うと、大きく切らなければいけなくなりますし、構図のバランスも取りづらくなります。
「ここだったら後から切れるかな」と想像しながら撮影することで、トリミングはだいぶしやすくなると思いますよ。


③被写体を大きく見せる

これは、僕はあまりやらないかもしれません。
やるとしたら、「寄り切れなくて被写体が小さくしか写らなかったとき」とか「SNS用にパッと見のインパクトを大きくしたいとき」ですかね。

僕がこれをあまりやらないのは、
・マクロではクローズアップレンズを積極的に使うから結構大きく撮れてる
・小さく写ってるなら小さく写ったままでいいと思ってる(SNSでは使わないけど)
というのがあるからだと思います。

作例がなかったので、イメージ画像を…こういうのは、トリミングして大きく見せるという選択肢もありなのかもしれません。

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■トリミングのデメリット

トリミングがただただ最高の技だったら、どんどんすればいいわけですが、そうでもないからここで議論しています。
デメリットと言うか、トリミングする時に気を付けないといけないことがいくつかあります。

A:画素数が少なくなる(画質が悪くなる)
B:歪曲が強いレンズで撮影した写真のバランスが崩れる
C:被写体が大きくなりすぎる

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■デメリットを理解した上で撮影する

トリミングのデメリットを理解するというのは、すなわち「撮影時に意識すべきことがわかる」ということです。

僕自身は「トリミングは良くないことだ」とは全く思っていません。
僕が世に送り出している写真で、トリミングを全くしていない作品はおそらく3%くらいです。

じゃあ「後からトリミングすればなんとかなる」と思っているかというと、そうも思っていません。
なぜなら、「フォトグラファーの姿勢としてどうか」という話とは別に、トリミングには現実的なデメリットがあるからです。

デメリットをひとつずつ見ていきながら、対応策を検討してみましょう。

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A:画素数が減る

当たり前ですが、トリミングすれば画素数が減ります。
SNSで見てもらうだけならあまり気にする必要はありませんが、印刷して展示する場合はけっこうシビアです。
興味があればググって欲しいのですが、印刷サイズによって必要な画素数はある程度決まっているんですよね。

僕がNikonのD850を使っている理由の一つが「高画素(約4600万画素)だから」です。
これなら、画面を半分にトリミングしても、2300万画素残ります。
横写真を縦にトリミングしても、約2000万画素残ります。
つまり、僕は大胆にトリミングができるから高画素機を使っているのです。

以下のような合同写真展があったとします。

「A2サイズで展示するので、1500万画素以上の写真データを送ってください。」
(実際A2で解像度200dpiで印刷するには約1500万画素必要です。)

例えば、僕が初めて水中で使ったD7000というカメラは、元々の画素数が1600万画素なので、この基準を満たすにはほとんどトリミングできないということになりますよね。
なので、トリミングしなくていいように、撮影時に構図を完璧に決めなくてはいけません。
それができたらフォトグラファーとしてはめっちゃ優秀ですが、中々難しいのは皆さんもご存知だと思います。

水中という限られた環境でできることは限られています。
構図のことだけを考えればいいわけじゃありません。
僕は実際、構図は後回しにすることもあります。
これは、高画素機を使っているからできる考え方と言えるということです。

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「自分が使っているカメラの画素数」
「最終的に写真を見てもらう媒体と大きさ」

まずはここを押さえておかないと、後からどれくらいトリミングできるかわからないということです。
実際には、撮影時には写真を何に使うかなんてわかっていないことが多いですよね。
なので結局は、撮影時にできるだけ構図を決めて、後から画素数ができるだけ減らないようにするのがベターということになります。

「画素数」という切り口でトリミングを考えるなら、高画素機を使うことで幅をもたせたり、撮影時に構図を決めたりすることで対応できるという話ですね。

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B:歪曲が強いレンズで撮った写真のバランスが崩れる

マクロ撮影で使う60㎜や100㎜のレンズでは、基本的に歪みはありません。
一方、ワイド撮影で使うフィッシュアイや14-24㎜、16-35㎜というレンズは独特の歪みがあります。

「マクロはトリミングするけどワイドはしない」という方は、ここを気にしている場合が多いのかもしれません。
実際僕自身も「ワイドはできるだけトリミングしたくない」と思っています。
なぜなら、トリミングすることで、歪みが不自然になることがあるからです。

上の写真がトリミングなしで、下の写真は右側だけ少し切っています。

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特にフィッシュアイで撮影するケースで、水面が入るような場合には、撮影時に水平を取ってあげないと後から中々整えられません。

あえて水平を取らずに、水面を斜めに切ってあげることもありますね。
この方がまあ楽と言えば楽です。
下の写真はトリミングしないで完成です。

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歪曲とはちょっと違いますが、水中ワイド撮影の場合、レンズとポートの収差を考慮することがあります。
細かい話は割愛しますが、いわゆる「四隅が流れる」というやつです。

これは、撮影時にはどうにもならない時もあるので、「四隅をトリミングする」という前提で撮影するのもありです。
フィッシュアイではあまりやりませんが、14-24㎜でサンゴの撮影をする時なんかは、後から四隅を落とすこともありますね。

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C:被写体が大きくなりすぎる

これはトリミングをする理由③の「被写体を大きく見せる」の逆です。
例えば、画面いっぱいに日の丸構図でハゼを撮ったとします。
これを後から三分割構図にしようとしても、トリミングしたら被写体がさらにでかくなって、窮屈になりかねません。
場合によっては、被写体が画面からはみ出してしまいますね。

やはりこれも、撮影時に「どうトリミングしようかな」とぼんやりとでも想像しておくことで対応できるのではないでしょうか。

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■まとめ

今回は、トリミングをする理由とトリミングのデメリットをひとつずつ確認しながら、水中写真とトリミングに対する考え方をお話してきました。

個人的には、水中で優先順位をつけることがとっても大切だと思っています。

今構図を固めるのか、あるいは構図は後回しにしてピントやライティングを優先するのか。
優先順位は落としつつも、ぼんやりとでも構図を意識して撮影できるか。

という感じですかね。

ちなみに、僕自身はLightroomでRAW現像する過程でトリミングをするわけですが、トリミングだけで何日も悩むこともあります。
もしかしたら人生の1/1000くらいの時間をトリミングに使っているかもしれないので、これは人生を無駄にしているとも言えますね。

全然まとめになっていませんが、トリミングをするもしないも自由です。
柔軟な発想で、色々試してみてください。

次回は「水中写真と余白」について考えていこうと思います。
お楽しみに!

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