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地域医療 研修医と歩む飛騨市民病院

国民健康保険飛騨市民病院 管理者兼病院長 黒木嘉人

飛騨市民病院ってどこ?

飛騨市民病院は岐阜県最北端で、周囲は北アルプス山脈の峰々と清流高原川に囲まれた自然豊かな飛騨市神岡町にあります。神岡町は古くは鉱山の町として繁栄しましたが、現在は過疎化人口減少が急速に進んでいます。しかし二つのノーベル賞受賞につながったニュートリノの研究施設スーパーカミオカンデのある町として全国に名が知られるようになりました。

飛騨市の人口は約23,000人ですが、神岡町は人口約7,600人、高齢化率が46%を超えている、時代を先取りした高齢社会最先端の地区です。当院を受診される患者さんは、神岡町と旧上宝村(現在の高山市上宝町と奥飛騨温泉郷)を合わせた「高原郷」地区が中心であり、対象人口は約11,000人です。同地区では当院以外には病院がありません。

オールインワンの地域包括医療・ケア

飛騨市民病院は令和3年度現在、一般病床54床(うち地域包括ケア病床20床)と医療療養型病床27床の合計81床で運営しています。常勤医師5名で内科、外科、小児科、総合診療科を担当しています。その他に主に富山大学からの非常勤医師により、循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科、糖尿病内科、整形外科、脳神経外科、婦人科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科、泌尿器科、心臓血管外科の診療体制となっています。

当院が地域に果たす役割としては、

  1. 急性期医療(一次・二次救急)

  2. 地域密着の回復期病床機能(地域包括ケア病床)、医療依存度の高い療養病床機能

  3. 在宅医療及び在宅療養支援、プライマリケア、慢性疾患に対する医療提供

  4. 病気予防や保健事業があげられます。

つまり当院は小規模ながらも飛騨北部の医療の砦として、救急、外来、急性期医療、回復期から慢性期医療、病気予防・保健そして在宅医療までとオールインワンの機能を果たしつつ、生活に密着した「地域包括医療・ケア」を実践しています。

教育研修事業 神通川プロジェクト

最大の問題は医師不足であり、平成17年には12名であった常勤医師数が、平成25年度には3名まで減少しました。

そこで解決策への糸口を探る中、平成24年度から富山大学との地域医療実習事業(神通川プロジェクト)を開始しました。神通川プロジェクトとは、富山大学と協力し医学生や研修医の受け入れをし、その資金には岐阜県地域医療確保事業費補助金が充てられ、県を越えた協力体制による事業です。富山大学医学生の受け入れは令和3度まで合計のべ145名となっています。同時期に岐阜大学の医学生実習も開始して、令和3年度までM3地域配属実習(1ヶ月間の実習)は14名、短期間の夏季地域医療実習9名を受け入れました。

研修医の受け入れで医師増加に

さらに初期研修医の地域医療研修の受け入れに力を入れ、現在では富山大学の他にも岐阜県(岐阜大学、岐阜県総合医療センター、岐阜市民病院、大垣市民病院、木沢記念病院、高山赤十字病院)、富山県(富山県立中央病院、富山市民病院、高岡市民病院)、愛知県(名古屋掖済会病院)の11施設の医療機関と連携を結んでいます。

図2

その結果、平成23年度は1名であった研修医の数は年々増加して、現在では年間30名前後にまで劇的な増加となり、初期研修医に人気の病院となりました。研修医が増えた結果、常勤医師に加えて単純計算で約3人医師が増加したことになり医師確保の面でも大きな成果となりました。

図3

人気の要因と研修プログラム

図4

研修医の人気の一番の要因は、研修医派遣元病院では経験する機会が少ない「入院主治医」を担当して主体性が尊重された研修となっていることです。また現在の初期研修医教育制度では必須となっている一般外来の経験も派遣元では困難なところが多いのが実情ですが、当院では以前より一般外来の経験を組み込んでいます。これらの経験を確かなものにするために、上級医の丁寧な指導体制をとっています。毎朝、担当患者の状態についてカルテを見ながら全員でカンファレンスを行い、一日の終わりには全員集まって振り返りミーティングをしています。その日に経験したことはポートフォリオに記載して毎日提出し、指導医がコメントをつけて返します。研修医が主治医となった患者さんには上級医がサブ医として共に担当し、いつでも疑問があれば上級医に尋ねやすい雰囲気となっています。

整った学習環境も大切です。研修医と学生の専用の研修室には各自に机とパソコンを配備し、各種医学書やオンライン検索ツールも備えています。宿舎については病院から徒歩一分の場所に令和2年新築のワンルームマンションがあり快適に過ごして頂けます。そのうちの一部屋は共有スペースとして研修医や学生同士が自由に交流し親睦を深めることができます。

小さい病院ならではの多職種連携も学べます。週1回の病棟総カンファレンスでは、多職種のそれぞれの立場からの情報を全員で共有し、緩和ケアやNSTなどのチーム医療にも関わります。期間中には検査技師、放射線技師、薬剤師、リハビリなどのコ・メディカル業務の体験も組み入れています。

地元の住民はとても人情味があり優しいです。とくに当院の医師不足が危機的になった頃「飛騨市民病院を守る会」が住民の皆さまから自発的に設立され、研修医との食事会なども催され、とても暖かく迎えて応援してくれます。飛騨の豊かな自然や味覚も大変魅力があります。特に、廃線となった神岡鉄道のレールの上を特殊な自転車にて走りながら町並みや渓谷の景色を楽しむ「レールマウンテンバイク ガッタンゴー」は大変な人気で全国から予約が殺到していますが、研修期間中に楽しんでもらえるようにしてあります。

そして、じっくりと患者さんの人生に寄り添って頂くために、「ライフストーリーレポート」を作成して頂きます。患者さんがこれまで生きてきた人生の物語を聴いてまとめながら、忙しい診療の中でつい忘れがちな患者さんの人生そのものに触れ、全人的に患者さんを診る学びを持っていただきます。

研修医受け入れ開始から10年が経ち、ようやく今のような体制となりました。今後は当院で研修された医師が常勤医師として就職・赴任してくれることを願うばかりです。