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立山における冷静と情熱の間、そして登山とリゾートの間

立山に登った

 ずっと前から行きたかった立山に登ってきた(正確には、立山連峰の中の、雄山)。富山県にある 3,000 m級の山だが、特徴的なのは、その道中のほとんどをケーブルカーとバスでショートカットできるという点だ。具体的にいうと、標高 2,450 m地点まではケーブルカーとバスでアクセスできる。なので、実際に登る必要がある標高はたかだか 500 m強。これだけ見ると完全に初心者コース。

 乗り物でその大半をショートカットできる高山といえば、他にも乗鞍が有名だし、富士山もその一種かもしれない。しかし、そのショートカットした先に、ホテルや山小屋(とはいっても、ホテル並のアメニティがある)やレストランがいくつも軒を連ねているのはやはり立山の特徴だろう。雰囲気ははスキーリゾートのそれに近い。

 登山そのものは、実にスムーズにことが運んだ。バスターミナルから 2 時間で頂上に辿り着いた。約半分までは広い石畳でスニーカーでも楽勝だし(実際にスニーカーで行ったという意味ではない、念のため)、頂上付近はさすがに岩場だが、それでもコースは迷わないように整備されている。苦もなく 3,000 mの世界に到達した。

至れり尽くせり

 至れり尽くせりっぷりは頂上についても変わらない。有名な話だが、頂上でカップラーメンが食べられる。ネットでは 500 円という話だが、私が行った時には 700 円だった。下界だったら暴利であるが、頂上で手ぶらで食べられるなら、この価格でも納得する人は多いだろう。私も納得したから料金を払って食べた。もちろん、納得できない人はカップラーメンを持ち込み、クッカーで湯を沸かし、ゴミをすべて持ち帰ればいい。

 ところで、登山の後には温泉に入りたいものである。もちろん、この一帯はそれも抜かりなく用意してある。タオルを忘れた? ご心配なく、レンタルタオルも用意しています。

 ここでは山を快適に登りたい人が求めるほぼすべてのサービスが提供されている。お金を払えば高所に一気にアクセスできる、お金を払えば手ぶらで食事ができる、お金を払えば手ぶらで温泉に入れる、etc。「自分のことは自分でなんとかする」という哲学は、ここでは不要なものとなる。サービスの暴力で以て、不快な要素を尽く不可視化するという態度は、ともすればややグロテスクかもしれない。

登山に何を求めるか

 そんなものは登山ではない、という話をしたい訳ではない。そもそも、私は登山初心者で、そんなことを語れる立場にはないが。私が見た高山植物、森林限界を超えた岩肌、眼前に広がる北アルプス連峰、それらは紛れもなく本物である。だいたい、いわゆる「普通の」登山だって、電車とか山小屋とかで、サービスの力で楽をしているのは一緒ではないか……とは言っても、やはりこのリゾート的山登りは、普通の登山と性格的に違う何かを感じる。これをどう整理すればいいだろうか。

 重要なのは登山に何を求めるかということだと思う。

過程と完成品

 例えば、プラモデルというものがある。あれは完成品を作るのが一応の目的だが、それを作る過程を求めて買う人が多いだろう。それとは別に、フィギュアみたいに、完成された立体物を売る商品もある。プラモデルとそれら(完成品)を求める人の目的は完全に別だろう。同様に、山登りで言えば、完成品(景色など)さえ得られれば途中の過程はなくても構わないという人と、その過程を楽しみたい人とでは、求めるものが違って当然だ。

お金がかかる

 また、現実的な問題として金銭的なトレードオフを考慮しない訳にはいかない。ここは下界から往復するだけでも 8 千円弱の金額がかかる。その後、こまごまとしたサービスに相応の金額がかかるのは上で述べた通り。ちなみに、更に数万円を追加で払えば、快適なホテルに泊まることさえできる。そもそも普通の山登りとは違う金銭感覚の出費が必要となる。(ただ、移動費以外については、トラディショナルな登山をすることももちろん可能であり、どちらを選ぶかは当人の自由だ)

立山が特殊

 現在、これだけ高い標高(2,500 m付近)においてこれだけ高いサービスを実現している施設は立山だけだ(と思う、たぶん。少なくとも日本においては)。登山というにはあまりにも快適で、高原リゾートというにはあまりにも山に近い。黒部ダム開発とかアルペンルート構想とかがあったからこそ、このような特殊な地域が生まれた訳で、今後同じような施設ができる可能性は極めて低いだろう。このような地域があって、快適な登山が楽しめるという、その事実に感謝するべきなのかもしれない。

最後に

雷鳥も見られた

 一応、最後に。登山道に入る場合は、登山届を提出する、登山用の装備をするなど、当然の準備が必要になる。本文で伝えたいことは、立山周辺では、通常の登山よりも幅広いサービスが用意されているという点であり、軽装での登山を励行している訳では決してない


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