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能登の復興願い演奏会

輪島伝統 御陣乗太鼓 石巻・女川で鳴り響く

 石川県輪島市名舟町なふねまちは、元日の能登半島地震で甚大な被害を受けた地域。ここで400年以上の歴史を持つ伝統芸能「御陣乗太鼓ごじんじょだいこ」の保存会が6日、石巻市と女川町であった演奏会に招かれた。保存会メンバーは全員被災しているが、苦境をはねのけるように勇壮な舞を披露。大観衆は息をのみ、大きな歓声と拍手を送った。保存会の槌谷博之代表(57)は「同じ被災地である石巻地方の皆さんの応援で私たちも元気をもらえた」と語った。【山口紘史】

400人以上の市民が足を運んだ

 御陣乗太鼓は1577年、能登に攻め込んだ上杉謙信の軍勢を退けるため、住民が鬼や亡霊の面をかぶり、太鼓を打ち鳴らして追い返したのが起源。おどろおどろしい姿の男衆が雄叫びを上げながら代わる代わる太鼓をたたき、即興で舞い狂うのが特徴だ。打ち手となれるのは名舟生まれの男性のみで、石川県の無形文化財に指定されている。

勇壮な太鼓の音色を響かせた
面をかぶった男衆が太鼓の音に合わせて鬼気迫る舞を披露した

 震災で被災した名舟町の住民は、約120㌔離れた金沢市などに避難を余儀なくされたが、幸い太鼓や面などの道具は無事。離散したメンバーも「伝統を絶やすまい」との思いで定期的に集い練習を続けている。

 石巻市、女川町での演奏会は「共に支え合おう」と旅行代理店の㈱ノースジャパンツアーズ=石巻市蛇田=が主催し、炭火焼肉牛仁=同市恵み野=が企画。石巻スコッパーズや雄勝町伊達の黒船太鼓保存会、女川潮騒太鼓轟会、日高見ちんどん倶楽部も出演した。

 石巻市のかわまち交流広場前であった午後の演奏会には、400人以上の市民が足を運んだ。大トリで登場した御陣乗太鼓のメンバー6人は、独特なリズムで激しく太鼓を鳴らし、時に奇声を上げながら鬼気迫る舞を披露。観衆の中には感動の涙を流す人もおり、約20分間の演舞が終わると会場は拍手と歓声に包まれた。

演奏後、市民から握手を求められる保存会メンバー
募金箱も設置され、両会場合わせて57万円が集まった

 同市大街道北の植松哲夫さん(75)は「大変な状況の中で、この素晴らしい演舞に感動した。他人事と思えないのでなおさら。伝統の灯を絶やさず頑張ってほしい。同じ被災者として応援し続けたい」と話していた。

 会場には募金箱も置かれ、石巻と女川会場で計57万円の善意が寄せられた。全額、御陣乗太鼓保存会の口座に振り込まれ、同会は運営資金に充てていく。


今だ名舟戻れぬも伝統守る

保存会代表の槌谷さん「縁と応援励みに前へ」

 名舟町は、輪島市沿岸部にある人口180人の小さな港町。震災で建物は軒並み大規模半壊以上となり、多くは土砂災害による倒壊や火災だった。孤立集落となった同町を含む南志見地区の住民は発災後2週間でほぼ全員が金沢方面に集団避難し、町は封鎖。保存会員の多くは現在、金沢市内のみなし仮設で暮らす。

石巻と女川で育んだ縁への感謝を語る槌谷さん

 保存会員は現在18人。幸い会員や家族に犠牲はなかったが、避難生活でメンバーは散り散り。集落に続く国道は復旧に最低2年はかかるとされ、古里に戻れる日は分からない。保存会代表の槌谷博之さんは「戻れる日が来ても皆が必ず帰って来るとは限らない。ただでさえ少ない会員が離散してしまい、伝統の存続にも直結する」と危機感を募らせた。

 御陣乗太鼓ゆかりの奥津姫神社も拝殿や鳥居が倒壊。よく公演で使う旅館は休業し、祭り用の舞台も土砂にのみこまれるなど太鼓を打つ場所も失った。

 「震災がいかに苦しいか、3・11で被災した皆さんの気持ちが分かった。生活再建や太鼓存続など先を考えると不安だが、受け継いだ伝統は絶やしたくない。いつまでも落ち込んでばかりはいられず、その思いは皆、同じだった」と槌谷さん。

 太鼓や面など貴重な道具を安全な場所に運び出せたのは発災から約1カ月後。保存会は金沢市に近い白山市内にある太鼓楽器店に場所を借りる形で2月上旬に稽古を再開し、3月に同市内で2カ月越しの「打ち初め式」を実施。同16日の北陸新幹線開業イベントでも音色を響かせ、復興の機運を盛り上げた。

石巻の復興の姿見習う

 「石巻や女川の皆さんも復興した。その姿を見習いたい。多くの人に私たちの演奏を見てもらい、地元の希望になれれば。そして名舟出身者が1人でも多く古里に帰ってきてくれればうれしい」と期待を込めた。

 輪島市では先月末にようやく県内初の木造仮設住宅が完成し、今月14日に鍵の引き渡しが行われる。槌谷さんは「石巻地方の皆さんからいただいた縁と応援を励みに、前を向いて進む」と話していた。

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