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カメレオンDAYS


「今日は何色の服を着ようか」


鏡にうつるぼさぼさのくせ毛に傾いたメガネをかけた自分をぼんやり眺めて
まだしっかりと機能しない脳みそで今日の服を考える。

私の毎日はいつもここから始まる。




私の朝は戦争である。

ただでさえ早起きが苦手で、
毎日毎日出社時間を守ることは、私にとってすごく難しいことだ。

本来であれば前日の夜に着る服を用意して寝た方がいいに決まっている。
朝は一日の中でもっとも余裕がない時なのだから。

それでも私は朝起きてから服を選ぶ。

朝の服選びが、その日一日の「わたし」を決めることだと
私自身よくわかっているからだ。



昔から服が好きだった。
正確にいうと服でも靴でもアクセサリーでもなんでも
とにかく自分自身を飾り立てる装飾品の類が好きでたまらなかった。

幼いころはフリフリピンクが大好きで
どこにも出かけない日だというのに
フリルたっぷりのピンクのワンピースを得意げに着て
しずしずと裾を両手でつまみながら、おごそかに家の階段をおりてきて
よく母を笑わせたそうである。

当時の私は、自分はお姫様なのだと信じていた。多分。



しかし少し成長した小学校高学年のある日
突然自分が「ブス」だと気づいてしまった。


まあそもそも「ブス」という概念って不明瞭なもので
人によってその答えは違うはずなのに
不思議と美的感覚は皆大体同じだという常識が
暗黙の了解として日本中にまかり通っており
誰もが同じような答えを持っている、という感覚でいるから
その「存在しない正解の美しさ」に振り回される人が多い

と、今なら持論を繰り広げるところですが


小学生の私は自分を改めて見た時に

ちりちりのくせっ毛
細くはれぼったい目
ぽっちゃり体系
瓶底のような分厚いメガネ

これって皆がいうカワイイ女の子には程遠いのではないか
つまり自分ってもしかして
いわゆる「ブサイク」ってやつじゃないか

と認定してしまったわけです。


今では愛してやまない大好きな妹ですが、
その妹の

くっきり二重の大きな瞳にぽってりした唇
華奢なスタイル
さらさらのストレートヘア
特に何もしてなくても誰からも愛される雰囲気

全てが自分と正反対なことに気づいて
驚愕したし、卑屈な気持ちすら抱いた。

小学校高学年になるまで「自分が周りからどうみられているか」
ということにおそろしく無頓着だったのだと思う。

ある日突然気づいて、
ある日突然色のついた服を着ることが出来なくなった。


自分で作り出した偏見のかたまりでがんじがらめになって
「ピンクはかわいい子が着る服の色」
「明るくて淡い色は美人しか着れない」
という想いが私の脳みそを支配していったのだと思う。

毎日黒か、くすんだカーキ色しか着なくなって
さらにフリルのついた服やスカートは絶対嫌がって
ジャージしか着たがらなくなった、と母から聞いた。

この頃の記憶、実は今はもう曖昧なのだけど
うすぼんやりと「ブスだから似合わないし、何を着ても意味がない」
と思っていたことだけは覚えている。



そのまま中学校に進学。

私の地味女っぷりはさらに加速し、磨きがかかっていた。
地味を極めすぎてむしろ浮いていた。
逆にすごい。

でも思い返せば、変わりたいと足掻いていた部分もおそらくある。

たとえば
分厚いメガネのレンズを薄型レンズに変更して
とにかく当時はメガネが嫌いだったから
なるべく存在感がなくなるようにフチなしのメガネに作り替えた。

嫌で仕方なかったチリチリのくせ毛を撲滅しようと
縮毛矯正とアイロンでまっすぐにのばしてみた。


でも何をやっても「自分はブサイクだ」という想いが消えずにいた。

当時の自分はどんな服を着ていたのか、
どんな服が好きだったかすら思い出せない。



暗黒の中学時代をなんとか終えて高校に進学。

ここで私は運命の出会いをするわけです。


おおよそ人付き合いをまともにしてこなかった私が
音楽が好きという気持ちにひっぱられて
勇気を振り絞り、初めての「部活」に入部する。
この吹奏楽部に入ったことがひとつの転機だったのだと思う。

以前にもここのnoteの別記事でふれましたが
部活の直属の先輩が超ギャルだった。

大好きな先輩についての詳細はこちらで
「部活の先輩が教えてくれたこと」~WEBラジオくるみの日々酒、第十三夜~


私が通っていた高校は
厳しい校則をかかげ、ルールでぬり固められた少々息苦しい場所で
その中にあっても彼女は
全力でルールすれすれのオシャレを楽しんでいた。
これがギャルマインドってやつなのかしら。

先生にはしょっちゅう怒られていたけど。

引っ込み思案で自信がなくて
とにかくブスな自分の全てを隠せる服しか着たくなくて
真面目すぎて先生に怒られるのが怖いし
自分のぽっちゃり体型を気にしてスカートはずるずるに長くて

そんなウジウジ真っ最中の私にとって彼女は
それはもうキラッキラに輝いてみえた。

これは大げさじゃなくて、当時は本当にそう見えた。


そしてそのモノ好きなギャルは
自分と正反対であろう私のことをとてもかわいがってくれた。

部活でもずっと気にして面倒をみてくれて、
さらに真面目キャラなくせに勉強がからっきしダメという
がっかりメガネの私の勉強までみてくれた。

彼女はいつも校則すれすれ(なんならアウト)で
先生に怒られる常連なのに、しっかり勉強はできちゃうという
漫画にしか存在しないようなハイスペックギャルだった。


もう先輩の全てに憧れるのに時間はかからなかった。


友達と買い物に行ってキャッキャする。


なんてイベント
当然当時の私には発生するべくもなく
服のブランドや流行りにも疎かった。

そんな私を「買い物に付き合ってよ」とデパートのセールに連れ出し
これ絶対似合うから着てみなよ!と
かわいいシャツワンピースと一緒に半ば強引に試着室につっこまれ
おずおずとそれを試着した私をみて

ほら、やっぱり似合うじゃん!
そういうのも着てみたらいいよ

と満面の笑みでほめてくれた。
私はそのワンピースを一瞬も迷わずに購入した。


とんでもなく物覚えがわるい、
というのが私の長年の悩みだけど
何年も経った今でも
そのワンピースの色もデザインもはっきり思い出せる。

私が初めて自分で買ったワンピース。


彼女は部活の隙間時間に私にメイクをして
可愛いヘアアクセサリーで癖っ毛を結んでくれた。


自分がいつもしているメイクをしたから
くるみが私と同じ顔になっちゃったね。
でもこっちの方がずっと可愛いじゃん!

と、笑った。


私は鏡で自分の顔をみて、
文字通り生まれ変わったような気持ちになった。


それからは
何を着ても楽しくなった。


怖くて何年も挑戦できなかったのに
その後すぐコンタクトを作りにいった。

メガネも可愛いデザインフレームのものに買い替えた。

フチなしフレームで存在を消すより
可愛いフレームで主張した方が可愛いかもと思えた。

何年も嫌いだったメガネを初めて好きだと思えた。



服に顔を合わせていける
私は、どんな服でも着ることができる


私が私に禁止していただけで、

私はどんなデザインの服でも
どんな色の服でも自由に着ることができるんだ


そんな当たり前に気づいた瞬間に
笑っちゃうくらい突然世界が色づいた気がした。


彼女との出会いや思い出が衝撃的すぎて
親に勧められていた大学をやめて
美容専門学校に進学した。

実は服飾の学校も迷ったけど、
服は作りたいというより、着たかったから。


私みたいな子が他にもいるかもしれないから、
そういう子にもしもこの先出会ったら
あの日の先輩みたいに可愛いヘアアクセサリーで
コンプレックスの癖っ毛を素敵に飾ってあげられたら

さぞかしや、良いだろうと思った。

そのために勉強したくなった。


美容専門学校は刺激の塊だった。

私のコミュ障は直ったわけじゃ全然なかったから
ガチめの強めのクラスメイトのギャルに怯える日々だったけど
(先輩は本当にモノ好きで変わったタイプのギャルだったんだとよくわかった)


でも皆好き勝手にカラフルなカラーの服を
心の底から自由に着ていた。

あの独特の雰囲気と環境は
美容学校ならではだったのだろうと思う。


彼らは似合う似合わないじゃなくて、
ただ好きだから着ているし、

その好きに強いプライドをもっていた。


好きだから、その好きに自分をはめ込んでいくような
そういう作業が上手な子が沢山集まっている。
そんな空間だった。

まだそういうはめ込み作業が未発達な子も
上手な子をみて刺激を受けて
目まぐるしく日々変化しているようだった。


私も刺激を受けた1人だったのだと思う。



ありとあらゆるジャンルの服をたくさん着てみた。

レディース服、メンズ服の垣根を越えたのもこの時期だ
違うのはサイズだけで、別に着てはダメというわけではない

男の子みたいとされる格好
女の子らしいとされる格好

そういうイメージがあるだけで
禁止されているわけではない


ああこんなにも自由だったんだな。
服の力を借りて、何者にでもなれる。



選ぶ服や雰囲気を変えるたび
別人になれる気がした。

元々好きなジャンルをひとつに絞るのが
苦手なタイプだったのも手伝って

ひとつのジャンルに対するこだわりというより
とにかくいろんなジャンルを着まくっていた時期


学校に通って刺激を受けることによって
メイクやヘアアレンジのやり方も沢山知った。

学校で学ぶことは、
美容師として働くにはほんの一部にも満たない知識量だけど

それでも私にとっては毎日刺激の嵐で、自分はブスだとウジウジしていた時代を吹き飛ばすほどの情報量だった。


好きな服を着るために必要なスキルを装備した感じだ。




怒涛の美容専門学校時代を経て、社会人になった。


毎朝を服を選ぶことは、私にとって儀式のような何かである。



今日は憂鬱な月曜日だから、
締めつけが少なくて、
それでいてシルエットが綺麗で、
憂鬱さを隠してくれそうな優しい色の服を着よう。

優しそうな人にみえるような服を着よう。


今日は気合い入れないと片付けられなさそうな仕事量だから、
キャリアウーマンみたいなモードな服を着よう。
仕事ができて、それでいて意思の強い女になれるような、
そんな服にしよう。

そうやって、毎朝
その日なりたい自分にチューニングする。


カメレオンのように自分に必要な色を定めて
それに合わせて自分を調整していくのだ。


服は、ファッションは、
私の「こうなりたい」を叶えてくれる。
そういうパワーがある。


ブスな自分を救ってくれたとか
可愛くなれたとか
なんか、そういう大袈裟なことではないのだけど。

ただ私が、なりたい私になるための
気持ちのチューニングを手助けをしてくれる。

今は私にとってそういう存在だ。

ファッションは身近にずっとあって
特別にセンスがなくても、オシャレじゃなくてもいい
ただ、身近にあるもので、毎日着る物で、
私に寄り添ってくれる何かだ。


毎日の私に
ほんの少しの勇気をくれる。
ファッションが好きだ。



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