MIU404を見て情緒を滅茶苦茶にしてくれ


※これより先は2020年放送終了したTBS金曜ドラマ「MIU404」のネタバレしかない感想文です。まだ読んでない、これから読む予定の方は注意して下さい。

ネタバレ一切無しで見るとちょっと情緒が滅茶苦茶になる可能性があるので、どちらにしろ見る時は心して見てください。まぁこちらは情緒を滅茶苦茶にして欲しいのですが。




https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/


恥ずかしながら私はこのドラマ放送中に見ることはしなかったです。一話見逃しちゃったので、あ〜もういいか〜みたいな気持ちになっちゃって。
その後、2021年に一挙放送があると聞き、いい機会だからと視聴。
そして、本編を見る事により完成される主題歌「感電」の素晴らしさ、一話完結のエンターテインメントの楽しさ、世の不条理への怒り、警察官とは正義とは赦しとは、というとんでもねえ概念情報量を流し込まれ「なんで私は今までこれを知らずに生きてきた…!?」と頭を抱えた次第です。下手したら死ぬまで知らずに生きてたかもしれないの?怖っ MIU404を教えてくれた方、この場を借りて感謝申し上げます。


「MIU」とは機動捜査隊(MOBILE INVESTIGATION UNIT)という主に凶悪犯罪や緊急案件発生時における初動捜査・その機動力を生かした追跡捜査などを担当する部署との事。比喩でも何でもなく24時間働いてたりする。お、お疲れ様です…。
そして「404」、これは本来は第三機動捜査隊までしか無いところを架空の「第四機動捜査隊」を舞台にした物語だからだ。フィクションの「本来存在しない組織・人々」と「404 not found(存在しないページ)」を掛け合わせてる。もうこの時点で凄く面白い。いやまだですまだ面白さのつま先しか入ってないからこれ!


主人公コンビが面白い

主人公は、運動神経と感覚神経は犬並みに鋭いがとにかくありとあらゆる言語化が下手な見た目元ヤン生身も元ヤンちょっと彼について語ろうとすると悪口の羅列みたいな事になる野生の馬鹿こと伊吹藍と、見た目は穏やかで優しげだが口を開けば正論で人を殴り嫌味を言いなんだかんだでマウントを取り1話で車を廃車にしたやっぱり何故か悪口の羅列みたいになる志摩一未の二人がW主人公。
伊吹藍を演じているのは綾野剛さんで、志摩一未を演じているのは星野源さん。コウノドリでワイワイやってた二人がまたタッグを組んだという事だ。

この二人の凸凹コンビ感がまた見事で、物語の合間合間に入る二人の小気味いいやり取りが非常に気持ちいい。
1話で志摩のわんぱく(非常に柔らかい表現を用いています)により機捜車がブッ壊れ、その後二人はメロンパン号(誇張表現では無くメロンパンを販売してそうな見た目した車です)に乗り24時間密行をしているのだが、2話で車内の二人の会話が大変楽しい。

「メロンパンいくらにする?」
「は?」
「おかしいじゃん売ってないと」
「どこの世界で刑事がメロンパン売ってるんだ」

いや本当だよ。
その後、隣を走る車の異常を察知した伊吹は完全にこの話を忘れるのだが志摩は忘れず、

「…310円」
「何が?」
「メロンパンに400円以上は出せない」
「いつまでメロンパンの話してんだよ!」
「お前が言い出したんだろ!!」

いや本当だよ(二回目)
伊吹と志摩のこんなやり取りは全話ほぼ必ずと言っていい程登場するのだが、このボケツッコミは大体事件が始まる前、または息抜きのシーンが多く、捜査中は至って真面目なのだこの二人は。
とは言っても捜査中の真面目なシーンでも伊吹の軽口は止まらない。が、ギャグになり切らない絶妙なラインなのでシリアスなシーンを変に壊したりしない。上手いな…。
例外で7話は捜査中にもボケツッコミのやり取りをしているのだが、逆にそれまで緊張感のある物語が多かったので7話の全体的にコミカルな物語に上手く当てはまってる。上手いな…(噛み締める絵文字)

シリアスばかりだと疲れる、ギャグばかりだと緊張感が無くてダレる、そんな我儘な視聴者(というか俺)に優し過ぎる。どうなってんだ!?


架空の存在でありながらリアリティがあるエンタメ


先ほども言った通り、第四機動捜査隊とは存在しない部署だ。しかしこの存在したい第四機動捜査隊を軸に展開される物語は非常にリアリティがあって面白い。
おそらく物語の題材に現代社会の問題を取り上げてるからだと思われる。ざっと並べるだけでも

・煽り運転問題
・機能不全家族問題
・違法薬物問題
・外国人労働者問題

などなど、誰でもニュースで一度は見た事ある問題では無いだろうか。
むしろその被害者になっている人も少なくないかも。そういう、どこにでもある現代社会のリアルな問題に存在しない彼らが切り込んで最悪の事態に「間に合わせる」と走りまわる姿が、どうにも見てるこちら側の心を揺さぶっていく。頑張れ!と応援したくなる。
そしてドラマでありながら「なんとかなりました!ハッピーエンド!」みたいな終わりに決してしない。これらの問題はそう簡単に終わる訳が無い。だから現実ではずっと社会問題として終わらないのだから。
どんなに彼らが間に合わそうと走っても間に合わず、手から零れ落ちてどうしようもなくなってしまう人々もいる。「フィクションだから」というご都合展開で終わらせたりしない。これは確かにフィクションだが、この不条理な世の中は現実なんだぞとこちらに突き付けてくるような展開なのだ。

私が個人的に「聞いてないんですが!?」となったのは2話。
とある会社で起きた殺人事件。その容疑者は逃走中。物語の展開的に、容疑者と思われてた加々見は実は犯人では無いのでは…?と思われたが、どっこい本当に加々見が犯人だった。

彼は幼い頃から父親の支配的な抑圧にずっと我慢し続け、そして上司の威圧的な態度に父親を重ねてしまい、とうとう最悪な方向でその我慢が爆発してしまったのだ。
自分がこんな事になったのは父親のせいだと復讐する為に実家に戻り、その復讐相手が既に他界していると知った時の加々見の慟哭は見てて苦しい。

「あいつの!あいつの!あいつのせいで!」
「事故で死んだ?自分の子供が人を殺した事も知らずに!復讐にもならない!」
「まだ一度も、あいつに、謝ってもらってない!」

たった一度きりのゲストキャラクターだが、2話でこれをブチ込まれたので私の情緒は滅茶苦茶になった。
ただMIU404さんの凄いところは「フィクションだから、で終わらせない」「これは現実の問題だ」と突きつけてきた上で、「それでも、ほんの少しでも、救いがあってもいいじゃない」と一瞬の煌めきを提示してくる。
加々見に寄り添ってくれた老夫婦、「ごめんね」と謝ってくれた田辺さん、現実の問題だから加々見の最悪に間に合う事は出来なかったし零れ落ちてしまった、それでもそれだけで終わらせない。
この微妙かつ絶妙な匙加減…五臓六腑に染み渡るな………!


「正しい」という事に真摯に向き合った物語


ところで復讐についてなのだが、フィクションで復讐する事を選んだA、殺したい程憎い相手Bが居るとして、AがBを殺そうとしている時、「復讐なんてやめて!」と止めにくる第三者Cが居るとする、あなたはどう思います?
ネットやってるとつくづく思うのが、この Cへの風当たりって物凄く強いなと思う。「なんで止めるんだ」「殺せよ」「こういう奴ムカつく」とかだろうか。よく見るよね〜。
けれど、これってAの事を思えば止めるのは道理なんですよね。だって殺して救われる話なんてあった?それから先、Aは幸せに暮らすなんて物語あった?むしろ悪人であれ人を殺してしまったAはその罪を償わないといけないよね?
やられたら泣き寝入りしろって事かよ、とかそういう話じゃ無い。ただ、一度でも道を踏み外してしまった人間にこの世の中は驚く程優しく無い。「人を殺す」とは「道を踏み外す」の中でも最悪中の最悪だ。そんな苦しむような道をAに選んで欲しくないとCが止めるのは当然だ。
CはAを慮ってる。ぶっちゃけBなんてどうでもいいだろう。ただAのこれからを祈ってる。
そしてMIU404とはそういう物語だった。

8話、伊吹の恩人ともいえる蒲郡元刑事、通称ガマさんが罪を犯してしまう。
自分が昔逮捕し、正しい道に戻してやろうと奮闘した相手が、腹いせに蒲郡の妻を殺したのだ。
蒲郡は「刑事としての自分を捨ててでも、許せなかった」と語り、その犯人を殺してしまう。
伊吹は刑事としての蒲郡に救われて、刑事になったにも関わらず。その蒲郡自身が刑事である事をやめてしまった。
伊吹は目の前で恩師に手錠をかけられるところを見送り、涙する。
ちなみにこの涙があんまり美し過ぎて、私は伊吹藍の父であり母であり姉であり兄であり妹であり弟であり祖父であり祖母であると勘違いしてしまった。伊吹……泣くな……俺が″″″守護″″″る……!!!!

閑話休題。

それに手を差し伸べたのが志摩だった。
8話の前、6話で志摩は「正しい警察官」で居る事に重きを置いた結果、元相棒である香坂が死んでしまう。それからの志摩はずっと「自分のせいだ」と考え自罰的に生きてきた。それを救ったのが伊吹だったのだ。
「お前のせいじゃない、事故だった」と香坂の死の真相を突き止め、香坂が最後まで刑事で在り続けたと志摩に語る。それに志摩がどれだけ救われた事か、多分伊吹は知らないな……(突然のメランコリーキッチン)
MIU404では「人は簡単には変わらない」と語るので、志摩はまだ香坂の死を引きずる。それでも前よりは息がしやすくなっただろう。
そんな志摩が、伊吹がどうしようもなくなった時に「間に合う」事が出来たのだ。今度は間に合った。相棒の、どうしようもなくなった時に。

さて11話。最終回だ。

久住という諸悪の根源たる男との対峙、伊吹と志摩は色々あって単独行動を起こしてしまっている。
最初に言ってしまうがこれは全部違法薬物によるバッドトリップだったのだが、そこで伊吹は志摩を、志摩は伊吹を失ってしまう夢を見る。

伊吹の目の前で志摩が殺された結果、伊吹は久住を殺してしまう。あんなにも正しい警察官でいる事を夢見ていた伊吹が。これはちょっと、いやかなり衝撃だった。

つまりだ。
人って、条件さえ揃ってしまえば簡単に道を踏み外してしまうのだ。道を踏み外さないって、正しいって、難しい。MIU404に登場する加害者たちは概ね元被害者だ。もしも別の人に会っていたら、スイッチが違っていたら。こんな罪は犯さず、正しいままでいられたかもしれない。
そっちに行かないでと言ってくれる人が居たら。
止めてくれるCが居てくれたら。
でも現実はそうじゃなかった。Cはどこにも居てくれなかった。このCという存在が、どれだけ得難い存在なのか。私はしみじみそう思った。

復讐は簡単だ。道を踏み外すのも簡単だ。条件が揃ってしまった時、どれだけ恩師が正しい道に導こうとしても、過去の自分がどれだけ正しい道を掲示してても、落ちる時は一瞬だ。今落ちていないのは、単なる幸運でしかない。
MIU404はそういう「誰でも加害者になりうる」という、正しくいる事の難しさをとにかく語っていた。

けれど、伊吹には志摩が居たし志摩には伊吹が居た。この「止めてくれるC」がお互いだった。
伊吹と志摩が相棒を組んだのは偶然だ。そもそも第四機動捜査隊自体が人員確保のためでしか無いので来年再来年に存在するのか分からない。
それでも出会えたしお互いを相棒と認め、一緒に走る事を決めたのだ。
確かに人は簡単に道を踏み外す。道を踏み外していないのはただの偶然で幸運だ。それを尊いと思うのだ。
ここで感電の「たった一瞬のこの煌めきを 食べ尽くそう二人で くたばるまで」が響くし「そして幸運を 僕らに祈りを」がクリティカルヒットする。

世の中「正しくいる事が当たり前」みたいな雰囲気あるし「復讐する事の何が悪いの?」みたいな危うさを抱えてる。
それでも大多数の人間が道を踏み外してない。正しくいようと生きてる。それって凄い事だし、尊い事だよ。道を踏み外した人間に優しく無い世の中だから、みんな振り切れないって事もあるんだろうけど、そういうの含めて「正しくいよう」って思って今日まで罪を犯さずに生きてる人たち、みんなみんなすっごいんだよな。みんな気にしてないけど、みんな本当に苦しい世の中を必死に生きてんだよな。
私は………すごく………そういうのに………感動して………。MIU404さん、最高……………。

すごい人類讃歌でした。ありがとうございました。

伊吹は最後、久住を逮捕する時「許さないから、殺さない」と言い。
志摩は久住に「生きて、俺たちとここで苦しめ」
と言う。
久住という「道を踏み外してしまったもう一人の自分」を前に、二人は苦しくても「正しい警察官でいる」事を選ぶ。
正に「たった一瞬のこの煌めき」なのだ。


うーーーーんすみません相変わらず文章が滅茶苦茶です。申し訳ない。
とにかく米津玄師「感電」を″″″″完成″″″″させたい場合はMIU404を見るしか無いんです。MIU404は感電であり、感電はMIU404なので…(?)

パラビで二週間無料で視聴出来るし円盤も三万くらい出せば買えます。
2020年を走り抜けた彼らの物語、このしみったれた世の中だからこそ是非見てくれよな!!

https://www.paravi.jp/title/57007?utm_source=tbs&utm_medium=groupsite&utm_campaign=banner&utm_content=miu404&argument=unrHYTyS&dmai=a5fdab5102e1ca


あとついでにMIU404見た後にヒッデェツイートしかけたけど最後の理性で下書きに保存したオタクの汚え断末魔見てってくれよな

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ここで上げてる時点でもう何もかもアウトですが。問題あったら消します

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