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妄想物語「王様の真実」

男はゆっくり立ち上がると、スポットを浴び、壇上へ歩き、演説を始める。
 
「私はこの国の平和を願っている・・・(演説のようだ)
国の治安を守るためには、罪人には死を持って償わせる決断を・・・」
 
しばらく続いた演説が終わり、執事が男を玉座の前にうながす。
 
「王様こちらへ…」
 
「おう、これが私の玉座か…」
 
執事から喉の渇きを潤す水、続いて食事も運ばれた。
 一時して接見者が現れ、王様と打ち合わせなどしていた。
王様の日常は忙しいようだ。
 
タイミングを見計らって執事が声をかけた。
「王様、刑を執行した罪人は、不当に死んだと民が騒いでおります。」
 
「不当ではない!やつは敵国のスパイだった。巧みに私に近づき、情報を盗んだ。可愛がり、愛情を注いだ私を裏切った。だから罪を償わせたのだ。」
 
「それには何の根拠もないと…」
 
「根拠?私は彼女を愛した。すべてを知っている。」
 
「しかし、あなたの歪んだ愛情だとの噂でございます。」
 
「黙れ…私のせいではない…」
 
「いや、彼女が悪事を働いた証拠はありません。お前は無実の民を殺しただ。」
 
「お、お前とは無礼なっ!」
 
「何様のつもりだ!」
 
「王だ。私は悪くない…」
 
話が進むにつれ、王様と執事の会話がどうもおかしい。
実はその男、自分が王様だと思い込んでいる殺人者であった。
執事と思っていた男は看守。接見人は弁護人だった。
 
そして男は玉座、いや電気椅子に座らされることになり、手、そして、足を執事により拘束されて行く…
 
 
その王様は、思い込みが激しく、現実とバーチャルの世界との境が解らなくなった男で、バーチャルゲームの中では、自分の国を築きプレーしていた。
ある日、その男の王国ゲームに女が現れ、親しく敵国と戦っていた。
ネット事情に精通している男は、その女の言動から近所のマンションに住んでいることに気が付いた。
バーチャルの中の女に恋をし、現実社会でも接触するようになった。
始めは、女に自分がバーチャル王だとは気づかれないように注意し、遠くから見る程度で満足していたが、しばらくしたある日、共にプレーしていたゲーム内で女が面白半分で敵国に回り、王国が崩壊(ゲームオーバー)することになった。しかし、その時すでに男はゲームと現実の区別がつかなくなっていた。王国を破滅に追いやられたと思った男は女を現実の世界でストーカー殺人をした・・・という妄想をしていたってお話し。

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