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加川良さんのはなし。 2015.12.27
平成29年4月5日 大好きな加川良さんがお亡くなりになりました。
以前noteに書いた短いエッセイを再掲させていただこうと思います。
忘れがたいエピソードがある。
ある年のある町でのライブでのこと。
お酒が入っていい気分になったお客のひとりが、曲の合間のトークを遮って「おい、あの歌をやれ!(代表曲のこと)」とやりだした。
強面で大きな躰の男性だった。
加川さんはあとでその曲も披露するつもりだったはずなのだが、その男性の大きな声で会場が一気に緊張した。
―――加川さん、どうするつもりだろう。
場合によっては、その男性がさらに声を荒げることだってあるだろう。
会場が一瞬凍りつき、周囲の客は思いがけない展開に固唾をのんだ―――。
すると、加川さんは
「すんません、彼、弟ですねん」
と、いつもの笑顔で言った。
えっ? まさか。と客の誰もが驚いた。
しかしやがて、それが加川さんのスゴさなのだと悟ることになる。
「今日、何十年ぶりかの再会ですねん。あいつ、嬉しすぎてちょっとおかしくなってしもたんですわ。おい、弟よ。いまはちょっと静かにしとけ」
件の男性は「おっ、おう」と照れ臭そうに口をつぐんだ。
ハメを外したかもしれないが、彼とて加川良が好きでライブに来たのである。弟と言われて嬉しくないわけがない。男性はその後、良い観客のひとりとしてライブを楽しんだはずである。
加川さんは誰の気分も害することなく、まったくの自然体を以って、まるで息をするように事態を収めたのだった。
そしてライブはいっそう盛り上がり、盛況のうちに終了した。
ぼくは(他の観客も)加川さんの歌声や軽妙なお喋りはもちろん、百戦錬磨の経験に裏打ちされたプロのテクニックにただただ感動した。
いつもニコニコしていて、誰に対しても平等に、丁寧な関西弁で優しく語りかける加川さんを、長年のファンは「男の中の男」と称する。
おそらくもっとすごいエピソードも星の数ほどある所以であろう。
そんなめっちゃええおっちゃんの、めっちゃええ歌。
若い人にも聴いてほしい。
ずっとずっと憧れの人の話。
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