老親と散歩と杖
母が左膝を痛めたのは、1年前の9月のこと。
その後、左膝を庇って動き回った結果右足に負担がかかりすぎ、どっちの足も痛くなって歩くのにも難儀する冬を過ごした。
少し良くなっては動きすぎてまた足を痛め、治り切らぬまま1年が過ぎてしまった。
その間の私は、土日の外出時は母に腕を貸し、家の中では2階への荷物の上げ下ろしや重い物を運ぶのを請け負う毎日だった。
整体の先生に、左側凝ってるよと言われるのも道理である。明らかに、片側にだけ負担が集中して体が歪みそうになっている。外出時には常に母が左に寄り添って歩いているから当然だ。
(はたから見たら介護離職した8050問題親子に見えるだろう。
安心してください、介護のために離職するような心優しい娘ではありません。職場がなくなったただの無職です。早くしたいな再就職。)
とはいえ、このままでは共倒れだ。
なんとか自力で歩ける体力と体のバランスを取り戻してほしくて杖を使うことを提案してみたが「杖はおばあちゃんみたいでイヤ!!」と拒否された。
ええい、私の体ももたん時が来ているのだ!
あと世間では80歳は立派なおばあちゃんなんだ!それをわかるんだよ!
(「逆襲のシャア」はいいものだ……)
頑なに杖を拒み、上品な小型のキャリーケースを支えにして外出していた母だが、つい先日外で杖を使う機会があった。
渋々ながら紅葉狩りをしながら土の地面を歩いてみたところ、思っていた以上に歩きやすかったらしい。休み休みではあったが、1.2kmの道のりを歩くことができた。
健康な状態と同じように歩くためには体の少し前に杖の先を突いてから重心を移動させ、後ろに蹴り出すように送り出す必要がある。母はずっと「身長に対して杖が長すぎる!」と言っていたが、少し長いくらいがちょうどいいようだ。摺足でしか歩けなかったのが嘘のように、自分のペースでしゃきしゃきと歩いていた。
思えばこれまでの人生の中で、杖の使い方を知る機会はなかった。
もしかしたら保証書兼取扱説明書に書いてあったのかもしれないが、パッと見てわかるような書き方ではなかったから気づかなかったのかもしれない。
杖が1本あるだけで、母がこんなにも安心して歩けるようになるとは思いもしなかった。杖さまさまである。
災いを転じて福となす。
無職になって時間もあることだし、毎日母の散歩に付き合うとしよう。
来年の今頃には、以前のように歩けるようになりますように。