異世界四天王 5本勝負その2

2021年冬アニメ第二の刺客「蜘蛛ですが、何か?」みていきましょう。やるぞー。

全体の構成

この作品を構成する要素を説明し、それについてコメントを加えていく。

大まかなあらすじとしては、主人公を含むクラス一同が異世界に転移し、蜘蛛になってダンジョンの中であくなき闘争アンド逃走に励む主人公と人間に転生したので学園生活を送るクラスメイトサイドが交差し次第に両者の道は混じっていく…という話だ。

クラスメイトサイドは無味無臭というか蜘蛛さんサイドの伏線張りくらいの価値しかないので本題には絡んでこない。

蜘蛛さんサイドはというと、ステータスだのスキルだのいつもの奴があり、主人公がそれについてベラベラと独り言を喋りつつ、異世界ライフをハックしていく…

まあいつもの奴だ。前回のように力を持つ責任だのハーレムうっぜだのは主人公が生き残るのにも苦労して人間関係とは無縁の蜘蛛になったのでその二つは問題にはならない。

というわけでステータスの意味、主人公の独り言、異世界ハックについて感想を述べる。

ゲーム脳

一時期流行ったバッシング棒でおおよそは「人生に電源ボタンがあると思ってる精神異常者」などの意味で使われる。

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お帰りください。

とにかく、ゲームと現実をごちゃまぜに考えているということだ。ゲームでは経験値やアイテムのため、時にはできるからという理由でSATUGAIやスティールをすることができ、それをそのまま現実に適用されたら怖くないか?という恐怖を煽るワードである。

思うにゲームでは大抵の行為は取り返しがつく、だからペナルティのある行動でも犯せるわけで、現実の方はそう都合良くはできていないのだから危惧されているような事態はそうそう起こり得ない。

では急に現実が変わってゲーム的なシステムを導入されたら?強敵を倒すと本当にレベルが上がって、しかもその時点までのダメージを帳消しにしてしまえたら人はどうなるのか?

この作品はそういうところに目を向けている。並のナーロッパクソアニメではちょうど前の記事の『俺だけ入れる隠しダンジョン』のようにスキルだのステータスだのが当然に存在するがそれが存在する意味については微塵の興味も向けていなかったのに対し圧倒的な進歩を感じさせる。向けれた時点で偉いのだ。

インターネット百科事典によると作者は1年間なろうを読み漁り意図的な定石外しを行ったらしい。他の異世界アニメと比べて相対的に物事を客観的に見れていると感じた。ではアニメとしての絶対的な評価はどうなのかというと…ナオキです。

アニメ的な見せ方

なろうのキャラはよく喋る。酷い小説だと地の文がほとんどなくて大体は誰かの会話文だ(ソシャゲかな?)。なぜかみんな口で全部説明してしまうし独り言をよく喋るし、脳内でつまらないツッコミを入れている。

このツッコミが曲者で、主人公が自分の価値観に照らし合わせて出た感想…というよりは作者が状況でボケたことに主人公が脳内でツッコミを返すというギャグの意味合いが強い。大抵は本気でボケる気もないふざけた状況をわざわざ作ってそれに出来の悪いツッコミを返すから文章で見ると割と地獄だ。

仮に文章では面白くとも少しでも腰の入っていないアニメ化をするとダダ滑りになるので面白くなるには二重のハードルがある。フタエノキワミ

なろうは大して読んでいないのでアニメ化の工程について話を絞ると、この手の気が狂ったようなツッコミの嵐を解決するには大御所声優起用しかない。『慎重勇者』の豊崎愛生さんしかり、『魔王様、リトライ!』の津田健次郎さんしかりだ。喋るだけでお金が取れる一流のプロでないと務まらない。声優のキャリアが浅い主人公だと非常にキビシくなる。

前置きが長くなったが、本作の主人公の蜘蛛がひたすらくっちゃべっているゲーム脳と厨二丸出しの独り言は全て悠木碧さんが無害に処理してくれている。銀○育ちの女オタ○大嫌いな偏屈な人でも聞き続けることが可能だ。

しまいには脳内で人格が分裂して会議を始めて独り言から脱したりもする。『はめふら』のまれいたそ会議も面白かったなあと思い出したりした。

まとめるとアニメ化の際に頑張って手を加えたおかげで恒例のくっせー部分も一応は食事可能になっている。えらいぞー、独り言の内容はあんまり面白くないから結局はつまらないと感じるわけだが。悠木碧さんのファンのみが門を通ることを許される。

力の幻想

RPG、いわゆるロールプレイングゲームでは大体のゲームはレベルを上げて経験値を蓄積することで一定の力を手に入れることが出来る。プレイヤースキルというものもあるだろうけどこれの魅力はやはり鍛えた分だけ強くなりそれで勝てなかった敵に勝つことにある。努力は報われるのだ。

そんなRPGだが強くなってやることは、それで敵を倒しさらに強くなることという風な腕力依存症のスパイラルを抱えている。強くなればより強い敵と戦えるようになるのは長期連載化した少年漫画のごとし。

主人公のやりたいことが金暴力SEXから脱することのできないタイプのなろう作品は金暴力SEXの三つの面でRPGめいた不毛なインフレを起こす。だから最後はもう金暴力SEXのトライフォースを備えた神と戦うことになるわけだ。

今作は主人公が蜘蛛なので金とセックスはなしに暴力一択だ。RPG的な雰囲気も相まって大体の人が何かの不毛さを覚えるだろう。

主人公には感情移入しにくいし、強くなっていく主人公の肩書を見てクッキークリッカープレイ時のような喜びを得ようにもいちいち表示されるステータスの数値やシステムメッセージのフォントが見にくいので数値イキリ文章イキリすら成立しておらず、ただ不毛さばかりが目立つ。

冒頭で今作は客観視ができていると言ったが、それは主人公が「当たり前に受け入れてきたけど、RPG的世界観もおかしいしそれを敷いていた超越的存在もいた。では私はそれに従って動かされているのでは…?」と5分前仮説のような自分の地に足がつかない感覚を覚えるシーンに現れている。しかしこれの調理を失敗したがばかりに不毛という印象は決定づけられる。

主人公は操縦されている疑惑についてしばらく悩んだあと「思い通りにされないために→強くなるために→強い敵をしばきにいく」、という気づきを得る。開き直る前と目標大して変わらない純正脳味噌RPG言動なので結局根本的不毛さはそのままだ。それにゲーム的世界観を用意した神がいるのにゲーム的なステータスをいくら鍛えたところで紙面上の人物(2次元)が3次元の人間に危害を加えるように無駄に終わるだけじゃないのか?

結局最後は暴力とそれによる憂さ晴らしだ。置かれている環境が敵しかいない戦いの荒野だけに仕方がないのだが、今は力の幻想に乗るしかなくてもそこで手に入れた力でいつか本当の自由を…!くらいはちゃんと自分の口で言って欲しい。

そういう話題は今後でないのは流石にないだろうけど、そうと信じさせるような理屈運びの滑らかさが欲しかった。いまいち作者を信じきれない。それくらい主人公の開き直りのシーンは微妙な感触だった。あほくさ!

主人公の動機

貧弱。弱い。よわい。

クラス転移要素というと勘のいい人は現世でパッとしない主人公が…と展開に予想をつけるだろう。実際そうなのだが問題は脚本の都合か現世のシーンは主人公の動機付けとして必要になったタイミングで主人公が回想する形式を取っている。

無論現世のシーンをたくさんやれとは言わないし、後付け回想も使うなとは言わない。ただもう現世で少し準備してから異世界いけよ。

主人公が虐げられた現実をまず一瞬でも見ておかないと主人公の反骨心の発生に視聴者の感情の流れが同期することは難しい。視聴者は異世界ギフトでイキリ出してからしか見ていないのだからよほどそれが自分の願望に強く合致しないと嬉しくはなれないだろう。

また現世では極めて無気力無機的だった主人公が転生した直後はノリノリツッコミ躁状態になるのも何か変だ。導線がない。環境に合わせてキャラが変わるにせよ、主人公の中で何かが変わったことを画面に映せというのは当然の要求だ。

そんな導線ガバガバ躁鬱主人公だが、こいつが「自由に生きたい!奪われたくない!」という反骨心を得る契機になったのは「転生して過程環境やスクールカーストのしがらみが無くなり、自らを由としようとしたらまた邪魔者がいたので今度こそ邪魔されないぞ!」と決心するイベントによって発生し育っていく。

ここだけ切り抜くと理屈の流れとしては筋が通っているが、それと自由に生きることの邪魔でもない強敵を叩きのめそうと力の幻想に囚われることには上手く絡められないのでここでもワンポイント足りない感がある。迷宮から出るには最強モンスターが倒せないとか本当にそんなんで解決するのだが今作ではわざわざ探して自分から戦いを挑む。

原作連載でいつか強くなってより強いやつに絡まれることを延々と繰り返す中でなにか別の楽しみを見出すという展開になることをお祈りするばかりだ。

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だから帰れったら

開き直った主人公が12話で強くなり力を証明するためだけに戦うボスとは3話で一度遭遇しているのだがその圧倒的なパワーに3話時点で惹かれていれば、力を追い求めて鍛えるとかやっぱり叶わないとかもうただの暴力はいいやとかでもそれだと真の自由はないとか…色々と深みが出せたのではないか?実際の流れでは主人公が強くなりボス倒すタイミングが来たから雑に再戦しにいくだけだ。

今作の戦闘もレベル上げも主人公の情動もとにかくしょうもないのだが、以下ではそれが色濃く現れたこの中ボス戦を具体例に提示する。

まずボスに対する主人公の感情として、主人公は力が及ばないことを知った上で視察に行ったのだが視察中に敵に気づかれるがスルーしやがったんだあいつは…!と何故か倒す直前になって急に根に持ち出す。そもそも無理を承知で見に行ったんだろうが。

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初遭遇の3話時点でこういうイベントしてよね

その上自分の勝ちが決まったタイミングで急に「見下した雑魚に負けてどうでちゅか〜?」なんて感じで煽りだす。そのモンスターなにも悪いことしてないんですけど。

極め付けはモンスター側は負けだと分かった時点で抵抗を解き、高潔な死に様を選ぶシーン。主人公は発狂し、辛くても生き延びようと今まで頑張ってきた自分はなんなんだよ!と逆ギレする。自分は完全に撃つ手がなくなったこともないくせに上から目線で説教アンド発狂とはね。心の弱さやゲーム気分故のの慢心を描写するというよりはカッコつけようとしてついてないだけに見える。

そんな中ボス戦だが、戦闘としては面白いのか?と言いますと…

RPGする意味なし

中ボス戦闘は一旦置いておいて根本的なところに注目しよう。この作品ではRPGのフレームワークを用いること自体には視線を向けられていた。では視聴者とゲーム観を共有して、視聴者にゲームを遊んでいるかのような楽しさを伝えられていただろうか?

そんなものは…

そんなものは………

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そもそもゲームとして一切面白そうではない。序盤こそお役立ち異世界スキルをゲットできたと思ったらうわーはずれだー!などというお約束ずらしでチートコード攻略は避けられたかに見えたがある程度レベルアップして状況が整いだすとすぐに意味不明ぶっ壊れスキルが大量に出てくる。Lv20でいきなりクリア後の魔法を覚え出すよりひどい。

書いてあることがやたら強い()スキルがどんどん降ってくるようになるのでこうなるともう工夫の余地もない。チートコードのスイッチを端から順番にオンにしていくだけだ。

では何が欠如しているかを説明する。以下の二つをご覧いただきたい。

スキル達人芸(1/2/3):会心発生時に(20/40/80%)の確率で斬れ味の消費を0にする

スキル魔王の息吹:ちょーつよい魔王のパワーで全ステータスが5000上がる。相手はそのうち死ぬ。

達人芸が前もって提示されるとしよう。そこで現段階の会心率が0なのでまずそれをあげようという運びになる。会心率を鍛えた結果斬れ味の消費が抑えられたのでボトルネックが解消されて新しい敵にも対応できる目が…という流れはたとえ各工程がどれだけ簡単に実現されても面白いと感じられると自分は考えている。

実際の描写としては「SPめっちゃもらったしかっこいいから魔王の息吹取りました」で終わる。そもそもステータス差がどう影響するか視聴者は分からないし(画面には映らないし)、相手がそのうち死ぬ効果は戦闘後に初めてふぅ〜やれやれと明かされる。主人公の作戦が前もって全て明かされる必要はないが前フリが少なすぎるだろ。

一応主人公には隠し玉があることが前もって明かされていたが、作戦立案にも絡まず戦闘中のアレが決まれば…!なんて思考もないのでこれだけだとただの後出しジャンケンだ。主人公のしていた何気ない準備が実は重要な下準備だったとかの方が良い前振りではないのか?

加えてスキルレベルはいつのまにかマックスにしていましたと自己申告する「ました工法」も駆使する。節目のボス相手には今の水準では足りないから鍛えるくらいすればいいのに…そういう意味でも12話のボスを倒す過程は非常につまらない。前触れなく降って沸いたスキルを乱発するいつものクソ戦闘だ。

前もってスキルの効果がわかっていて、決して無敵とは言い難いそれらの使い道を読者に想像させたり、手持ちのコマを工夫してやり取りくらいはしてほしい。

叙述トリック

同時にクラス転移し並行して話が進んだと思いがちな主人公とそれ以外の転生に時間差があって、タイムスリップもののように時間の行き来を感じるさせるのが本作の珍しくまともなギミックだ。

これは上手く見せれてると思った。2期あるといいね!12話だけじゃ勿体無いよ

…と思っていたのだが編集時点で2クールものだと気づいた。マジかよ。後編の感想いるじゃん。

前編時点の総評

異世界アニメとしてはBくらい上げてもいいのだが、一般アニメとしては追試がいるレベルだと感じた。


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