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異世界探報期 人間不信の冒険者たち

が世界を救うようです。

不思議な味わい


あらすじ

ディネーズ聖王国に属する都市、テラネ。

一攫千金を狙う冒険者に目端が利く商人、歌い踊る吟遊詩人、貴族に神官、獣人族……。
職業と人種のるつぼ、都市そのものがまるで迷宮であるかのようなその街を人は”迷宮都市”と呼んでいた。
冒険者パーティー【武芸百般】を追い出され、恋人にも騙され失意の軽戦士ニックもまた、この街の住人だった。

全てに嫌気がさして立ち寄った酒場。不味い飯、周りの楽しげな冒険者たち、相席のパッとしない連中……。
うんざりする一切合切を、叩きつけるようにぬるい酒で流し込む……!

「「「「人間なんて信用出来るか!」」」」

思わず、苛立ちや不満は口をついて出た。自分だけの思いのはずが、その声は4人分だった──。
それぞれに傷を持つ彼らの、これが冒険の幕開けだ!!

公式サイトより

異世界技巧 長話

とにかく個性的で特徴が多い作品なのだが、一番印象に残った特徴を上げると長い台詞が多い。印象的なやり取りも多い。長い台詞でそれまでの人生を総括したり自分の価値観を述べたりするわけだが、だいたいこういうのはくどくなりがちで、独りよがりな印象を受けることも多い。小説の地の文のような語りをそのままアニメに取り込むにはテンポの意味でもリスクがある。漫画では吹き出しの都合で要領よく台詞を圧縮することが推奨される。

なろう系はだいたいはコミカライズを下敷きにしてアニメ化がされる印象がある(賢者の孫や異世界スマホなどでコミカライズの変更点がそのままであることなどから)。またなろうの連載もソシャゲのような会話台詞偏重と簡潔な説明と独り言ツッコミのような地の文で構成されるので構造的に長い台詞が存在しにくい。あるとしても啖呵を決めるシーンくらいだろう。

この作品の感想に戻るとあまりなろうでは見ない長台詞や独白をうまく使えているという印象を受けた。長い台詞の説得力を上げ下げする要素とはなんだろうか。説得力を下げるケースを考えると、キャラクターが作品で主張したいことを「いわされている」と感じる場合がある。描写された本人のパーソナリティと経歴から言いそうなこと、言わなそうなことが決まるので、そのような情報の量と合致度合いがいいそう/いわなさそうを左右する。

キャラクターの個性が分かり、その過去が描写される。その中に受け手が共感・理解ができる要素が多分に含まれていれば、長台詞と独白はそのキャラクターのものとして躍動感を得る。少なくともこの作品の長台詞、独白にはそういう生感覚を得ることができた。これって意外とレアなんじゃないでしょうか、DTBのバッティングデート回とか思いだしちゃった。

人間不信

タイトルにもあるし、あらすじにもある通りである。主要な登場人物は何かしらの挫折や裏切りを経験し、それが理由で人間不信になっている。この物語は再起する話ではあるが、それと同時に後ろ向きでもある。主人公パーティ以外の登場人物もだいたい何か挫折を味わって屈折している。そんな人物達と比べることで主人公たちが踏み出した一歩は強調される。1クールを通して様々なキャラに一人ずつフォーカスを当てながら、主人公たちの影響は徐々に他の人物に伝わっていく様が見られる。

当の主人公たちは早い段階で表面上気の合う仲間として触れ合えているが、心の奥底からの信頼にはなかなか至れない。重くて深い傷は安易に治らないからこそ、長台詞にそのキャラの人間性が大きく染み出すのだ。ゴムの木に傷をつけて汁を採取しているような構図。

シリーズ構成

1話…哀しき過去怒涛の三連発。追放系を3回やるようなものなので、ずっと重い。ここで配信見るのやめる視聴者めっちゃいそう。ここでしれっと競馬だのアイドルだのキャバクラだのが出てくる。後の展開を考えると伏線の一つだがアニメでの放映範囲には無関係だ!

2~4話…パーティが距離を深める回。会話に設定や世界観の説明を自然に紛れ込ませるのは丁寧な仕事。ここで手に入れた武器でフュージョンができるようになるのだが、人間不信を乗り越えた信頼から得るものとしてそれは流石にストレートすぎるだろ。

5~7話…挫折した悪徳冒険者たちとひと悶着する。ちょっとずつ外向き前向きになり始める主人公たち。7話ではパーティメンバーのパーソナリティが深堀りされる。

8話…主人公達の行為が巡り巡って誰かを立ち直らせる回。すき。

9~11話…文字通りの悪いやつが表れ作品全体での目的がハッキリとしていく。ここでも登場人物同士の触れ合いとかの方がメインに取られており、軸足をどこに置くのかがはっきりしている。

12話…部屋でダラダラし、主人公たちがこれまでを総括する回。やはり傷は癒えきってはいないけど、新しい仲間を素直に信じることはできるようにはなっていて、最後にはまっすぐと前を見据える。

「悩み事なんて…人間誰でもあるものじゃないですか。一つの悩みが解決してもまた一つ…時には同時に…(中略)」
「それでも前に進んでるじゃないか」
「そうですよね、前に…進めてますよね」

8話より

これを言ってるのは話が長いキャラ(そんなんばっかだが)で、中略の部分でも迂回をしている。しかし今までは陽気でおしゃべりに見えたキャラの影を見せた後でこの迂回を見るとまた一味違った印象を受ける。相手の話をしているようで、それと同時に自分に言い聞かせるようにでもある。この噛んで含めたような会話はキャラクターが過去とそこから続く現状を受容する過程そのものに感じた。

もうお分かりだろう。この作品の流れを簡単にまとめると、人ともう一度関わるためのリハビリなのだ。だから最後はマイナスからゼロに戻ったことを確認する回が必要になる。これを異世界を冒険する話だと思っていると、まるまる1話を部屋で寝転んだりプライベートに当てている光景にガッカリしてしまうだろう。というかそういうレビューがその手のサイトに散見された。プライムのレビューは3件しかなく、アニメドットコムみたいなサイトには怒涛の「これよくわからない」レビューが乱舞していた。

1クールのアニメとしてはテーマとそこから帰結されるやるべきことに関してよくまとめていると思った。異世界とか世界を救うとか全く置き去りにしているので、タイトルを見て来た人は全員怒って帰ってしまったと思う。なろう内で裏をかこうとするとアニメ化する際に弊害を受けてしまうのか。悲劇である。

ちなみに作画は安定していない。自分は別に脚本がロジカルでしっかりしてるなら作画を気にしないのでこのレビューでは触れない。作画に触れるのは面白くない時に笑える箇所をなんとか探す時である。

キャラクターの個性

ドルオタ、キャバ通い、ギャンブル中毒、ドカ食いと各々が見出したストレス解消法は完全に現代人のそれである。しかしこの設定もむしろキャラクターの悩みやそれとの向き合い方が現代人の我々となんら変わらないことを強調する形式に…

なってことはない。本当に主張したいのは自分が一瞬そう考えたことである。キャラクターに生感覚を感じたことでこのようにキャラクターの個性を違和感なく受け入れることができる。最終話では冗談が下手なキャラクターの冗談で笑ってしまった。冗談自体はちっとも面白くないが「ああこいつは冗談が下手なんだったな」ということをスッと思い出して、それほどキャラに好印象を抱いているのがおかしくて笑ってしまった。

まとめ

グロロ〜(アニメのネタバレ)

非常に満足度が高かった。ちなみに監督はいまざきいつき、そうあの『あいまいみー』を監督から原画、作画までほとんど全部かかわったマルチスキルマンである。この作品でも脚本監督原画にいる。すげー。



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