あなただけが天使だったのに


“どうしてなの?

この広がりのなか

美しいものほど 壊れやすいなら”

“救いだして

あなたが魂に変わってしまうならば

いっしょに連れていって”



わたしの天使が、いなくなったよ。

ずっと側にいたのに。

いつだって、天使だったのに。

———

君がほんとうに笑ったとき、僕は透明になる。

僕は君を守るよ。

〈必要でなくなる〉そのときまで。

———


わたしの髪を乾かしながら小さな声でそう言ったの。

聞こえないふりをしたけれど。

ほんとうにその日がくるなんて、

想像することもできなかった。


派手かなって笑った赤いネクタイ。

部屋に転がる化粧瓶。見覚えのないコンドーム。

ほんとうに愛していた。

子供みたいに、無垢な振りをして。


“それ”には前触れがあると思っていたよ。

だって、何度も天使はわたしの前から姿を消した。

ちょっとお散歩って、アイス買って帰ってきたね。

だから、

天使の嫌いなチョコミント味のアイスクリーム。

いつも冷凍庫に並んでいた。

キスをすると嫌な顔をしたけど、

何度も同じことをした。


わたしたちは似たもの同士で、

お互いの嫌がることを何度も繰り返した。

だからこれも、

天使の悪戯なんじゃないか、って考えてしまうよ。


大天使になんて、ならないで。

わたしに堕ちて、帰っておいでよ。

お土産なんかいらないから。



今度はわたしが天使になるから。


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