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#習作 2人のタワー


【お題】信号機、カーテン、花火
【場面】東京
【制限時間】30分

 高校生のころに使っていたペンケースは,あれ、どの段ボールに閉まったんだっけ。この部屋は、富山の実家の物置程度しかない。20平米のワンルームなのだから、どこかにあるはずなのにな。別にどのペンでもいいのだけれど,高校生のときに使っていた、あのペンがよかった。翔太が教えてくれたゲルインキボールペンは120円にしては書きやすくって、私と翔太は授業で配られた藁半紙の裏に数式と落書きを交互にしていた。このまま、明日の大学の入学式までに、見つからなければどうしよう。私の心臓は、ちょうど信号機の青が点滅していくのと同じ速度で脈を打った。

 高層階に住むことには、数日で慣れてしまった。高層階といっても、30階や40階ではない。でも、5階建てのマンションの4階なのだから,高層階といってもいいとおもう。散々悩んだあげく,3階はちょっとなどと感想を言って、月5000円高い4階の物件を選んだ。不動産会社の担当さんは,「やっぱり4階がいいと思いますよ、ここからは花火こそみえませんが、タワーが遠くに見えますし」と、抑揚のない調子でいった。この部屋に来たお客さん全員に同じことを言っているのだと思った。
 初めてきたこの町に,私はいまだ慣れない。そうだ、翔太が来たら、テレビでみたことある場所をめぐってみよう。日本史を先行していなかった私にとって,すこしハンデはあるかもしれないけれど,それも十分だ。
 まるで当て物のゲームをしているかのように,積み重なった段ボールを順番に降ろしていく。床に置いた瞬間、何かがきしむ音がした。鏡が割れたのかもしれない。私は目を閉じ,体を収縮させ,そして,耳に神経を集中させる。それでも、いくら段ボールを開けてみてもペンケースはみつからなかった。段ボールを上げ下げしたせいか、部屋は幾分か暑くなっていた。

 カーテンを開ける。ビルの合間のはるか遠く七条の方には、誕生日ケーキの蝋燭のような京都タワーがみえる。もしも、私が、翔太と同じように東京にたら、一緒に段ボールを開けてくれたのかな。カーテンを開けると、昔、一緒にSHINeeのライブをみに行ったたときのように、遙か遠くに東京タワーが見えたかな。東京のタワーはどんな風なんだろう。                                                           
                                (了)

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