独裁者 小学校編 3話
「いない!いない‼」
どこに行ったんだ?走って逃げた?いや、それは不可能だ!走り出したとしても見失わない様に絶妙な距離を保って尾行してたんだから!あたりを見渡してもそこに制覇の影は無い。
「いや、消えるわけがない!どこかに隠れたんだ!探そう‼」
そう言葉に出して正義は気が付く。自分の言葉を耳にして気が付く。隠れたってことは制覇は自分が追われてるってことに気づいたってことだ!
「やっぱり間違ってなかった!」
制覇は普通じゃない!普通のヤツが尾行に気が付くわけがない!やっぱり、只者じゃなかった!
「ハハ!」
つい笑い声が出てしまう正義。
楽しい!
今の正義の頭の中にあの忌々しい退屈の文字はなかった。楽しい、面白い、心からそう感じていた。心から自然と漏れてきた笑い声だった。
「あ‼浸ってる場合じゃない‼探さないと!逃げられるかも‼」
気持ちを切り替え制覇のことを改めて探し出そうとした。
そん……瞬間だった‼
「動くな!」
制覇に背後を取られていた。背負っているカバンをがっしりとつかまれている。カバンを下して離れることはできる。いや、そんなことはどうでもよかった。問題は……首元にカッターナイフを突きつけられていることだ‼
「今から僕の言う通りに動いてもらえるかな?いいよね?」
正義の耳に制覇の声は届いていなかった。物理的に音は耳に入っているのだが脳には届いていなかった。正義は今。興奮状態にあった。
何なんだコイツ!ありえない‼カッターナイフ首元に突きつけるヤツがいるか?考えられない!普通じゃない!面白い!何なんだコイツ!
自分の置かれている状況をすっかり忘れて初めて出会う自分の予想を超えてくる人間に対して興奮していた。
「イッッ‼‼‼」
首に痛みが走った!
赤い液体が一滴、正義の首筋を流れた。
「僕の声聞こえてるかな?ねえ?言う通りに出来るよね?」
痛みが走ってようやく正気に戻った正義。
「大丈夫、聞こえてる」
「よかった!ビビりすぎて声出せないのかなって思っちゃったよ‼」
「大丈夫、声は出る!ビビってもいない‼」
「そっか!じゃひとつだけ目的を話して!」
「オレが誰か言わなくていいのか?」
「状況わかってる?言う通りにしてって言ってるよね!首元にカッターナイフ突き付けてるんだよ?わかってる?」
「さっき言っただろ!ビビってないって‼」
「クク……面白いね、君。いや、出席番号24番・日向正義くん‼」
「オレのこと知ってるのか?」
「知ってるに決まってるでしょ。同じクラスなんだからクラスメイトの出席番号と名前と顔ぐらい一日で覚えるでしょ。」
「ハハ!」
正義は思った。
コイツは、いや‼
国本制覇は自分の中にある退屈を壊してくれる面白い人間(ヤツ)だと‼
「いいから目的を言ってくれるかな?日向正義くん!人気の少ない公園に誘い込んではいるけど、さすがにいつかは人が通るはずだから!」
やっぱり、尾行に気づいてたのか、しかも人気のないところに誘い込まれてたんだなオレ!あ~~本当に面白い(予想を超えてくる)ヤツだな。正義はこの状況が楽しくなっていた。そしてその楽しさ、これまでに感じたことがない刺激でおかしくなっていたのだろう。この状況に最も相応しくないと言ってもいい一言を制覇に返すのだった‼
「友達になってほしい‼」
「は?」
「は!いや‼今の無し!待って!」
「ハハハハ(笑)?君、今の状況わかってるの?脅されてるんだよ?」
笑いと同時に制覇の拘束が解けた!それと同時に慌てて制覇の方に体を回す正義!
「待って!今のは無し!違うんだ!勝手に声が出てて‼」
「首にカッターナイwフ、突きつけられながらw!ともw友達にwなってほしいって!ホントにw‼」
「あ~~もう!そんなに笑うことないだろ!」
あまりに笑われるので正義は恥ずかしくなってきた。
「ごめんね!こんなに笑ったのは初めてかもしれない(笑)‼いいよ、友達になっても」
「もういいよ!馬鹿にしやがって‼……は?」
「だから!友達になろうと言ったんだ!日向正義くん!」
自分でも、まさかあんなセリフが口から出るとは思ってい無かった正義はそのセリフに対しての返事がイエスで帰ってくるとは思っていなかった。予想外の返事に驚いてが、ただただ単純にうれしかった。この面白い人間(ヤツ)と、もっと話が出来る!そしてまた自然と言葉か漏れてきた。
「ありがとう」
「クク……少し話そうか」
少し離れたベンチを指さす制覇。
ベンチに向かい歩き出す2人。
制覇はカッターナイフをポケットにしまった。
その時には正義の首筋を流れた血は固まりかけていた。
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