独裁者 小学校編 5話
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「おはよ~!正義‼」
朝の登校時、校門付近で後ろから声をかけられた。友達の元木栄太だ。
「おはよう。元木!」
「正義!今週のジャンプ読んだか?ボクアカがめちゃくちゃ面白くてさ~~‼」
「ごめん、昨日はジャンプ読んでないんだ!」
昨日はそれどころじゃなかった。ジャンプ以上に興奮する出来事があったから。家に帰ってからも興奮が冷めずに部屋の中で悶々としてた。何をするでもなくとにかく新しく出来た友達について考えていた。小さな独裁者について!
「そっか~~!じゃ話すのは我慢するよ‼」
「別に話していいんよ!」
「いや‼正義が読むまで待つよ!人の楽しみを取る様な真似はしない‼」
変なところで律儀なヤツだなw!
「正義、今日なんか機嫌いいな。何かいいことでもあった?」
「え!そうか?特に変わったことはなかったけど‼」
「ふ~~ん」
元木は感がいい。
頭の良さには大きく二つの種類があると思う。一つ目が勉強ができるとかそういった学習系の頭の良さ。二つ目が感がいいとか空気が読めるとかそういったその場に応じた対応ができる柔らかい頭の良さだ。どちらも大切なんだけど、オレは柔らかい頭の良さが個人的に好き。だから、意外とお笑いとかが好きだったりするんだ。
元木と仲がいい理由はたぶんこれだと思う。
元木は柔らかい頭の良さを持っているからだ。
元木と話しながら校舎に入ると下駄箱の前で固まる生徒が一人いた。
国本だ。
小さな独裁者、国本制覇がいた。
「何してるんだろ?」
耳元で元木がささやいた。
なんだ?何してるんだ?制覇のヤツ……。
固まった制覇をよそに、さっさと上履きに履き替えるオレと元木。
何も言わずに制覇の後ろを通る瞬間に制覇の下駄箱を覗きこむとそこには上履きが入ってなかった。
なるほど。そういうことか。
教室に向かう途中で元木が言った。
「上履きが無くなってたな!」
「たぶんやったのは……」と返事を返す前に元木が重ねて言った。
「たぶん、鬼頭たちかな?」
ホントに元木は感がいい。オレもそう考えていた。
「たぶんそうだな!」
鬼頭健、池田新、陣内雅人。
どこの学校にいっても必ずいる。悪ガキ。鬼頭を筆頭にした三人グループで、いつも何やらくだらないことをやっている。
制覇は鬼頭たちに目をつけられたんだ。
ま、自業自得とも言えるだろうけど……。だって、転校初日に「将来の夢は世界征服です!」って嫌でも目立つし……w。自分たちの縄張り(クラス)でいきなりそんな宣言されて鬼頭たちがほっとくわけないよな。
と、簡単な推理を頭の中で巡らせていると教室にたどり着いた。
教室に入り自分の机に向かう途中鬼頭たちに目を向けると。三人で何か話しながら笑い合っていた。そんな三人を見て正義はくすりと笑う。そして心の中で呟いた。
「バカだな!自分たちが何に手を出したか全くわかってない。お前らなんかじゃ手におえないよw」
そうこうしていると来客用のスリッパを履いた小さな独裁者が教室に入ってきた。
くすくすと不敵な笑みを浮かべながら……。
この時のオレは全く気が付いてなかったんだ。本当に何もわかっていないのは自分だってことに。この出来事があの事件に繋がっているなんて……。
そう。
気付いてなかったんだ。
既に自分が小さな独裁者に支配されつつあることに……。
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。