独裁者 小学校編 7話
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「なんでやり返さないんだ‼」
制覇が約束の時間ピッタリに公園に到着したと同時に正義が制覇に言い放った。まるでご飯が我慢できない犬の様な勢いだった。
「いじめを受けてるのは僕なんだけどな~w」
自分が冷静な判断をできなくなっていることに気付いた正義は冷静になって一言「ごめん」と制覇にいった。少し気まずい沈黙が流れた……。
「大丈夫。やられたままには絶対にしないから……。必ずやり返すよ……。必ずね」
そう淡々と話す制覇の目は何の迷いもなくすんだ水の様な目だった。その曇りのない目に少し怖さを感じる正義だったが、その目に魅了されていた。
「それならいいんだよ!」
我慢できなくなっていた自分を少し恥ずかしく思いながら正義はそういった。その恥ずかしさを紛らわすかのようにそこからは正義が制覇に一方的に色々な話題をふって話していった。
制覇の話を聞いてから「人を操る」「場を支配する」ことに興味を持った正義はこの一週間制覇のいじめに対するイライラを忘れるためにこの二つの事柄について自分なりに色々考えていた。その自分なりの考えをまとめて制覇に話していった。その話をすべて聞き終わると制覇はこういった。
「やっぱり正義は面白いね」
一週間のイライラがすべて吹き飛ぶぐらいの甘い快感が正義の体をしはいした。「制覇が認めてくれた」嬉しくてたまらなかった。
すると制覇がある提案をしてきた。
「実際にやってみようか」
次の日、学校では委員会役員を決める時間が設けられていた。
「はい!順番に役員を決めていきます。まずは立候補してもらって決めていこうか!じゃ、体育委員から‼」
担任の京子ちゃんの声が教室に響くと同時に教室で生徒たちの話し合いが始まる。
「どれにする?」「体育委員いいかもね」「一緒にやろっか」「あ~何もやりたくないな~!」
その時、正義は昨日の制覇との話し合いを思い出していた。制覇と話し合った「支配の実践」はとても単純なモノだった。何かと言うと「狙った委員会に2人で入る」というものだった。そしてそのための方法は3つ。
1つ目、「待つ」。
目的の委員は決まっていた。放送委員だ。給食の時間やお昼休みなんかに音楽を流したり、学校からのお知らせなんかをする役員だ。
「なんで放送委員なんだ?」
と質問すると
「人気の委員を狙う方が楽しいでしょw」
まったくの同感だった。
本当に単純なたくらみなのだが正義は自分の心臓の鼓動が高ぶっていることに気付いていた。つまり、ワクワクしていたのだ。
そして放送委員を決める順番が回ってきた。
「それじゃあ、次は放送委員だね!誰か立候補する人は……」
と京子ちゃんの言葉が終わる前に一人の生徒が手を上げた‼
制覇が手を上げていた‼
これが2つ目、真っ先に制覇が手を上げる。
するとどうなるのか、それは単純明快。答えは「誰も手を上げない」だ!
「国本君、放送委員に立候補か!放送委員は2人なんだけどあと1人誰かいない?」という京子ちゃんの言葉が響いて、その後には沈黙だけが残った。
当然の流れ。いじめられっ子と一緒の委員会に入りたい奴なんてない。それが普通。
正義は笑いをこらえていた。自分たちの狙い通りの展開に、あまりにうまくいきすぎているこの状況がおかしくてたまらなかった。
それから5分間ぐらいたっても誰も手を上げることはなく。ただ時折、京子ちゃんが「誰かいませんか~?誰でもいいのよ!」と言うだけでまったく進展がなかった。
正義は教室の中にいつまでたっても決まらないという嫌な空気が充満し、教室にいる皆が息苦しさを感じてきたその瞬間に最後の3つ目の行動に移った。
正義が手を上げた。
3つ目は、「最後の最後に正義が手を上げる」。
これだけだった。
一瞬何が起こっているのかわからなくて、みんな正義が手を上げたということに気付かなかったが3秒ほど遅れて京子ちゃんが「日向君!日向君立候補するのね‼」と確認を取ってきた。手を上げてるのだから確認を取る必要はないはずなのにw。
「はい!立候補します‼」
正義の声が教室に響き渡る。
と同時に、教室の中が一気に騒然とした。
「何で日向君が~!」「嘘でしょ~!」という女子たちの声や「さすが正義だ!」「やっと決まった~!」といった男子の声、そして「クソ!」などの怒りの混じった色々な声が教室を埋め尽くした。
この時、クラスの皆が同じ考えに至っていた。
「いつまでも決まらない状況をみかねてクラスの人気者が救いの手を差し伸べた」と考えていた。2人の生徒を除いて……。
人気者は心の中でガッツポーズをし、あまりにもうまくいきすぎた自分たちのたくらみを喜んでいた。
そして、独裁者は周りに聞こえない小さな声で、クスクスと笑っていた。
「それじゃ、残りの委員も決めていこうか~!」と京子ちゃんが次の委員決めに話を進めていった。
この時の委員会役員の決定が何を意味しているのか……。
この時の教室で気が付いている生徒は誰もいなかった。
ただ一人、クスクスと笑う小さな独裁者を除いては……。
カウントダウンが始まっていたのだ。
学級崩壊が近づいていた。
小さな独裁者は笑っていた。
クスクス、クスクス……と笑っていた。
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