神様も知らない優しい願い。

神様も知らない優しい願い。

ヨル/人間
クロ/神様のような何か。

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0:(回想)
クロ:「オマエが死ぬのは、ワタシがオマエを喰らう時だ…」
ヨル:(M)言葉とは裏腹に…とても優しい声だった…
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0:
0:(本編)
クロ:(M)ここは…ドコなのだろう…私はいったい…。長い間眠っていたような気がする…だが、何も覚えていない……私は、何なのだろうか……
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ヨル:「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
0:
ヨル:「はぁ…はぁ…はぁ…っ、おかしいおかしいおかしいっ!!!なんでこの山で妖(あやかし)が出るんだよ!!はぁ、はぁっ…聞いてないっ!!隠れる場所を……!!ぁ!!」
クロ:「ん…?」
ヨル:「ちょっと失礼!!!!」
クロ:「んぁ?」
0:【しばらくの間】
クロ:「……おい、行ったぞ。」
ヨル:「え、あ!ありがとうございます!……んぇぇぇえええぇええ??!!!」
クロ:「オマエ、人間だな」
ヨル:「ソウイウアナタハ、ダ、ダ、ダレデスカァァァア!!!?」
クロ:「……わからん。」
ヨル:「……ぇ。」
クロ:「わからぬのだ、ワタシが何なのか…何も分からぬ…。」
ヨル:「では‥人を食べたことは…?」
クロ:「わからぬ…」
ヨル:「食べたいとは‥思わないのですか??」
クロ:「……オマエを食ったところで、腹が満たされるとは思えん」
ヨル:「んー…まぁ、私の肉付きじゃ足りなそうですね」
クロ:「暗くなる前に山を降りるのが懸命だ…」
ヨル:「(被せて)ありがとうございました。おかげで助かりました。是非、お礼がしたい!一緒に来ていただけませんか!!」
クロ:「いやいや……オマエ、ワタシが人間でないことは分かるだろう?」
ヨル:「んー、まぁ、ちょっと違いますね。ですが、あなた自身もわかっていないご様子!では、妖と決めつけるのもいかがかと!」
クロ:「いやいやいやいや、確かに分からぬとは言ったがぁ…お前はいい匂いがする……(スンスンする)」
ヨル:「ぁ……」
クロ:「なんとも魅力的な香り…喰らってしまうやもしれぬ…」
ヨル:「やだえっち。」
クロ:「……少しは怖がれ、警戒心のない」
ヨル:「まぁまぁ、とにかくいらしてください!!」
クロ:「引っ張るな!!ぐぬぬ…」
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0:(ヨルの家)
ヨル:「さぁさぁ、何もないところですが寛(くつろ)いでくださいね。」
クロ:「オマエは…(呆れ)」
ヨル:「…ん?」
クロ:「いや。なんでもない…」
ヨル:「心配せずとも取って食いはしませんよ!」
クロ:「それはワタシのセリフだな」
ヨル:「そうですか??」
クロ:「おかしなヤツ……」
ヨル:「んふふ」
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ヨル:「ところで、何故あそこに??」
クロ:「うむ…それが、何も思い出せんのだ」
ヨル:「はぁ……そうですかぁ……」
クロ:「そういうオマエは何をしにあんな所をウロついていた?」
ヨル:「ぇ、あぁ、私は、水をくみに!」
クロ:「水……」
ヨル:「えぇ。ここ数年、ここ近辺では…干ばつが続いておりましてね…。食うにも食材が手に入らず、飲む水なんてほとんどない。」
クロ:「日照りか……」
ヨル:「えぇ…ですので、水を求めて行ったはいいものの!あやかしに追い回されてしまいました、あっはっは!!」
クロ:「もう少し危機感をもてと言いたいな…」
ヨル:「まあまあ、ところで…私はヨルと申します。」
クロ:「……?」
ヨル:「私の名です。」
クロ:「名……」
ヨル:「はい。ヨル、です。」
クロ:「……ヨル。」
ヨル:「はい!……ぁー、貴方様は……」
クロ:「分からぬ。」
ヨル:「ふむ、なるほどぉ…」
クロ:「オマエの呼びやすいように呼べ」
ヨル:「……ヨル、です」
クロ:「……」
ヨル:「……」
クロ:「ヨル…の、呼びたいように!」
ヨル:「ふふ……よいのですか??」
クロ:「好きにしろ……」
ヨル:「でわ……クロ、と」
クロ:「…」
ヨル:「その立派な黒い毛並みと、漆黒の瞳が印象的ですので!」
クロ:「そうか…」
ヨル:「はい。」
クロ:「……好きにしろ。」
ヨル:「えぇ、そうします。クロ。」
クロ:「…ふっ」
ヨル:「あれ?笑いました??」
クロ:「なんの事だ。」
ヨル:「今、笑いましたよね??」
クロ:「さぁな。」
ヨル:「んふふ」
0:
クロ:(M)不思議な人間…。ワタシを怖がることはなく、同じ人間かのように接してくる。いや、それ以上に強引で…こちらが気劣りしてしまうほどに普通…いや、“おかしな奴”だ…。
0:
クロ:心地よく流れる時間…何をするでもなく、ヨルとの生活はとても心穏やかで、気付けばあっという間に日々が過ぎていった。
0:
0:【場面転換】
クロ:「ヨル……ん…出かけたか…?」
ヨル:「ゲボっ、ゴホッゴホッ…(咳き込んで蹲っている)」
クロ:「……、っ!!ヨルっ!!どうした!」
ヨル:「…っ、〜大丈夫、です…ケホッ」
クロ:「喋るな…抱き上げるぞ!」
ヨル:「ぅっ…くっ…はぁ、はぁ…大丈夫ですってば…ふふ」
クロ:「黙っていろ。」
ヨル:「ずるいことは、するもんじゃないですね…」
クロ:「…?」
ヨル:「おやつにと、隠していた大福をこっそり食べたら…喉に詰まってしまって…」
クロ:「…少し休んでいろ。布団を敷いてやる…」
0:【寝かせてる間】
ヨル:「ありがとう、クロ…」
クロ:(M)大福を食べた、というのは嘘だろう。床に落ちた赤黒いひと粒の跡…。血を吐いたのだろう。
クロ:とっさではあったが、ヨルはそれを隠した。だから、ワタシは見ないふりをした…。
ヨル:「クロ…??」
クロ:「ん、あぁ…いるよ。」
ヨル:「ふふ…もう大丈夫ですよ」
クロ:「あぁ…分かっている。」
ヨル:「ねぇ、クロ」
クロ:「ん?」
ヨル:「餅や大福では…死にたくないなぁ…」
クロ:「ふっ…何を言ってるんだ」
ヨル:「ふふ。そうなった時は…内緒にしてくださいね?」
クロ:「はぁ…(軽い溜息をつき精一杯の凄んだ表情と声で)オマエが死ぬのは、ワタシがオマエを喰らう時だ…」
ヨル:「…………ぷっ、くく、ぁははは」
クロ:「っ、んぐ…何がおかしい!」
ヨル:「いやぁ、すみません。なんか、その…似合わないなぁと思いまして」
クロ:「……ぐぬ」
ヨル:「ケホッ…」
クロ:「もう黙ってねてろ!!」
ヨル:「失礼しました、ぁはは」
0:
0:【場面転換】
ヨル:「あれ…クロ、最近随分と…毛並みが良くなりましたねぇ?」
クロ:「ん?」
ヨル:「ほら!…〜っフワッフワ!!」
クロ:「っ!おい、やめろ…。」
ヨル:「不思議ですねぇ、クロは何も食べていないのに…栄養はどこから??」
クロ:「…さぁなぁ」
ヨル:「ご自身のことは…思い出せませんか??」
クロ:「…………あぁ。」
ヨル:「そうですかぁ…」
クロ:「特別思い出そうともしていないしな。」
ヨル:「なーんでですか!少しは努力してくださいよぉ!」
クロ:「オマエの傍は心地が良くてな…」
ヨル:「え…」
クロ:「このままでもいいのではないかと思っているよ。」
ヨル:「それは…」
クロ:「あぁ、いつまでも居座られても困るさな。すまない、冗談だ。」
ヨル:「いえ!そうではなくて…いいんです。いつまででもいてください!!」
クロ:「…」
ヨル:「ただ…せめて、自分が誰なのかくらいは、思い出してくださいよ?」
クロ:「ふっ…あぁ、わかった、善処するよ。」
ヨル:(M)クロは気づいているだろうか…同じ時を過ごすことで、私がクロの力になっていることを…
クロ:(M)まだ、……まだ思い出せない。いや、思い出したくない。認めたくない…。
クロ:自分が何であるのか、ヨルがどうしてワタシと一緒に過ごしてくれているのか…。
クロ:思い出してしまえば、認めてしまえば…終わりを迎えてしまう。そんな気がした。
0:
0:【場面転換】
ヨル:「さ、今日は木の実を取りに行きますよ!!」
クロ:「あぁ、この前美味いと言っていた…あの実か??」
ヨル:「えぇ、そうです。この前、クロがくれたあの実。とても美味しくて!もう一度食べたいなと思いまして。」
クロ:「わざわざ一緒に行かなくても、食べたいだけワタシが取ってきてあげよう。」
ヨル:「いえ!…ぁ、いや、その、嫌とかではなく…独り占めしたい訳でもないんですよ!!ただ…自分の目で見てみたいなぁと思いまして。」
クロ:「…」
ヨル:「どんな木になっているのか、どんな葉をつけているのか…どんな所に成っているのか…色々見てみたいのです。」
クロ:「そうか…ワタシは食べないからな。取られる心配はないぞ。」
ヨル:「だから!食い意地を張ってる訳では無いんですって!」
クロ:「ははは。でわ行こうか。」
ヨル:「もぉ!」
0:
0:
ヨル:「はぁ…はぁ…。随分と山奥まで来てしまいましたねぇ」
クロ:「あぁ、もう少しだ。が、どうする?」
ヨル:「…いえ!!最後まで自分で歩きます!!」
クロ:「強情だな。乗せて登ると言っておるのに」
ヨル:「自分の足で歩きたいんです!!運動したあとのご飯は美味しいですし…ぅ、ゴホッケホ!!」
クロ:「っ、ヨル!」
ヨル:「ふふ、大丈夫、…大丈夫です。楽しみだすぎて…むせてしまっただけです」
クロ:「……っ」
0:【間】
ヨル:「わぁ……」
クロ:「どうだ?綺麗だろう??」
ヨル:「はい!!とっても!!それに、ほら!実がこーんなにいっぱい!!」
クロ:「ゆっくり採りなさい。危ないから、手の届くところだけだぞ。」
ヨル:「はい!」
クロ:「足りなければワタシが採るから。」
ヨル:「大丈夫ですよ。ふふっ…心配性だなぁ。」
0:
クロ:(M)少しなら問題ないと思った。ほんの少し…ここまで懸命に歩いてきたヨルに水を汲んできてやりたいと、…ほんの一瞬、傍を離れてしまった……
0:
0:【しばらくの間】
ヨル:「うぁぁぁぁぁあ…………」
0:
クロ:「っ!!?ヨル…っ!!!」
0:【駆けつけるクロ】
クロ:「ハァハァ…ヨル!!!」
ヨル:「ク、ロ……」
クロ:「ヨルっ!!!……(妖をボッコボコに蹴散らしてください)ぐぁぁぁぁあ!!!!ふん…ぉらぁ!!!!くそっ!!!はぁ…はぁ……ヨルから離れろ…雑魚どもがぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
ヨル:(M)実を摂ることに夢中になっていて気づかなかった…一瞬だった。背中に感じた激痛。とっさに振り返ると妖がいた……。
ヨル:全身の力が抜けその場に倒れ込む。意識を手放す間際の記憶は…背中に感じる激しい痛みと、耳に届いたクロの悲痛な叫びだった…。
0:
0:【場面転換 家】
ヨル:「ん…」
クロ:「っ……ヨル…」
ヨル:「…………ふふ、なんて顔をしてるんです?クロ。」
クロ:「ヨル…すまない。…すまない……」
ヨル:「よかった」
クロ:「へ……」
ヨル:「神様は、クロと話す機会をくださったみたい…ふふ」
クロ:「何を言っているんだ」
ヨル:「クロ、手を貸してください……縁側に座りたい。」
クロ:「無茶言うな!手当はしたが動ける状態では…!!」
ヨル:「星が見たいんです。」
クロ:「っ……お前は…我儘すぎる。」
ヨル:「ふふ」
0:
0:【縁側に寄り添って座る2人】
クロ:「無理はするなよ。」
ヨル:「ふふ、ありがとう。」
クロ:「……」
0:
ヨル:「ねぇ、クロ。私の話を聞いてください…」
クロ:「……あぁ」
ヨル:「私はね、もう長くないのです。」
クロ:「……傷は癒える。ワタシが看病するから…早く良くなれ…」
ヨル:「……違うんです。私は元々、そう長くは生きれない身体だったんですよ。」
クロ:「………」
ヨル:「治すことのできない病(やまい)にかかっていて…もう、いつどうなってもおかしくなかったんです」
クロ:「……」
ヨル:「ねぇ、クロ」
クロ:「……なんだ」
ヨル:「ありがとう」
クロ:「っ…」
ヨル:「私と一緒に居てくれて」
クロ:「やめろ……そんな言い方……」
ヨル:「ふふ。」
クロ:「っ!何がおかしい!…」
0:
ヨル:「ねぇ…クロ…」
クロ:「なんだ」
ヨル:「思い出した……?」
クロ:「……」
ヨル:「ふふ……クロはね……」
クロ:「やめろ…」
ヨル:「(深く呼吸し)クロ…私は貴方が好きです」
クロ:「…」
ヨル:「クロが何であれ、クロはクロだから。私の好きな、クロなんです。」
クロ:(M)目を細めながら笑うヨル。恥ずかしそうにどこか遠くを見ながらワタシを好きだと言い、小さなその身をワタシに預けてきた。
0:
ヨル:(M)身を寄せた私の背中に腕を回し、傷に響かぬよう、優しく包んでくれる。「貴方が好きです」。言葉以上の何かが伝わって欲しくて…願いながら身を寄せた。
クロ:「私は……ワタシは、なんでも無い、ただのクロだ。」
ヨル:「そうだね。私にとっては…」
0:
ヨル:「でも、このままじゃいられないよ、クロ…」
クロ:「やめろ…もういい…」
ヨル:「クロ、貴方は神様だ」
クロ:「……っ」
ヨル:「妖(あやかし)じゃない。この地を守ってくれている、神様だよ。」
クロ:「ヨルのことを、守れなかった…」
ヨル:「ふふ…大好きですよ、クロ。」
クロ:「…ヨル」
ヨル:「(思いっきり被せて最後の足掻き)ぁ、クロみて!!」
クロ:「っ、ん?」
ヨル:「星が流れた…ほらまた!お願いごとしよ!!」
0:【少しの間】
クロ:「何を願ったんだ?」
ヨル:「んふふ、内緒だよ。」
クロ:「そうか。」
ヨル:「うん。口にしたら…叶わなくなるかもしれないからね。」
クロ:「そうか。」
0:
ヨル:「ねぇ、クロ…クロにもお願いがあるんだ。」
クロ:「……なんだ」
ヨル:「あのね…ぅ、ゴホッ…ゲホゲホッ…」
クロ:「ヨルっ!!!大丈夫か、ヨル!!」
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0:
0:【少し長めの間】
クロ:(M)気づいていた。…同じ時を過ごすことで、徐々に体調を崩すようになったヨル。咳き込む回数が増え、起きている時間が減っていった。
クロ:対して、整う毛並み…空腹が満たされるような幸福感。共に過ごすことで…ヨルの全てを吸収しているのだと、気がついていた…
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ヨル:「(気がつく)クロ…」
クロ:「あ、あぁ、気がついたのか、よかった…。ヨル、何か欲しいものはあるか??喉乾いてないか??今、水を持って(きてやろう」
ヨル:「(被せて)私を食べておくれ…」
クロ:「何言ってるんだ!!…………大丈夫、お前はまだ大丈夫だ、だから!!」
ヨル:「クロ、自分の身体です…もう長くないことくらい、私でもわかります。」
クロ:「ヨル…だめだ、出来ない……」
ヨル:「クロ、聞いてください。」
クロ:「……」
ヨル:「貴方と一緒に、生きたいんです。」
クロ:「……っ」
ヨル:「貴方の中で…私を生かしてください、クロ」
クロ:「それなら…それならワタシと共に生きろ!!傷など直ぐに良くなる!!病になど負けるな!ヨル!!」
ヨル:「嬉しい…けど、もう時間が無いんです。私は、貴方のために…ここに居る。」
クロ:「やめろ…」
ヨル:「やまいに」
ヨル:「もう遅いんです…ねぇ、クロ、お願い…後生です……私の命に…魂に……はぁ、はぁ(息が荒くなる)」
クロ:「ヨル…ヨル……!!」
ヨル:「意味をください…」
クロ:「っ…意味ならある…オマエはワタシの友だ!!そだろう?!!」
ヨル:「ふふ…ありがとう……嬉しいなぁ……」
クロ:「オマエはワタシの、初めての友なのだ……!!」
ヨル:「…食べておくれ。クロと共に…在りたい……」
クロ:「ヨル……ヨルッ!!!!!」
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ヨル:(M)その夜、悲しみに覆われながら友の願いを聞き、その魂を食らった神が、涙を流した。
ヨル:ぽつり…ぽつりと、雨が降り始め、乾ききった大地に数年ぶりの雨が降り注ぐ。
ヨル:その雨は止むことはなく、しとしとと降り続く。まるで…悲しみに覆われた神様が、たった一人の友の死を悲しんでいるかのように。
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クロ:「ヨル…もう涙も底を尽きた…。なぁ、見えているか??…今日はお前の好きな…雲もひとつない、綺麗な星空だ。」
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ヨル:「ぁ、クロ見て!!星が流れた…ほらまた!お願いごとしよ!!」
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クロ:「……ふふっ、あの時お前は…何を願ったんだろうな。…なぁ、ヨル?」
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ヨル:「私の大好きな…優しい神様が、笑って過ごせますように。」

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