偽物

ひかる♀
ひかり♀
心♀
高城 ♂


ひかる:(M)私の名前はひかる(光瑠)。一部のクラスメイトからは、ひーちゃんと呼ばれているが、私はこの呼び名があまり好きでは無い…。
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心:「おっはよー、ひーちゃん!」
ひかる:「…ぁ、おはよう、心ちゃん。」
高城:「お!おはよう!二人とも!」
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ひかる:(M)耳に入る『ひーちゃん』に、一瞬身体がビクついてしまう。けど、私をひーちゃんと呼ぶ人はごく一部…今呼ばれたのは、同じクラスにいるもう1人のひーちゃん『川嶋光璃(かわしまひかり)』。そしてこの流れで……
高城:「よ!ニセモノ!!」
光璃:「………。」
心:「ちょっと高城くん、やめなよ!…おはよう。」
ひかる:「おはよう、ひーちゃん。」
光璃:「……おはよう、2人とも。」
高城:「なんだよ、いいじゃねーか。ほんっとに似てるよな!川島光瑠(かわしまひかる)に川嶋光璃(かわしまひかり)。」
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ひかる:(M)漢字こそ違えど同じ名字に似た名前。もう1人のひーちゃんは…美人で優しくて、いつもクラスの中心にいる、ムードメーカー。私たちを比べて面白おかしくからかってくるやつが耐えない……。中でも高城駿(たかぎかける)。こいつが一番…うざい。
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ひかる:「ねぇ光璃(ひかり)……もうやめよう……。ややこしくて頭おかしくなりそう!!」
光璃:「えーー??面白いじゃん!!」
ひかる:「面白いは面白いけどさ…ややこしいの!!ただでさえ2人とも『ひーちゃん』なのに中身が入れ替わってたら反応できないわ!!」
光璃:「あはは!!確かに、さっき反応出来てなかったもんねー。」
ひかる:「もー、戻るよ!」
光璃:「しかたないなぁ、……楽しかったのにー!」
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ひかる:(M)私はハーフアップにしていた髪を下ろし、前髪をわしゃわしゃと散らして光璃から受けとった眼鏡をかける。
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光璃:「またやろうね!入れ替わりごっこ。」
ひかる:「やだよ…、ややこしい」
光璃:「ふふふっ…教室戻ろ。」
ひかる:「うん。」
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光璃:(M)私たちは一卵性の双子。でも、出会っのは高校入学試験の日。自分の席へと行くと、すぐ後ろに座ってたひかると目が合った。
ひかる:(M)何も知らなかった。私たちはそれぞれ、一人っ子として育ってきたから……。目が合ったその瞬間、“自分を見ている…”そんな不思議な感覚だった。
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光璃:「それにしても…あの時はびっくりしたよねぇ。目が会った瞬間、ビビビッと来たんだよねぇ。」
ひかる:「私も…。んで、調べてみたら2人とも養子で、双子の姉妹がいることが分かって…」
光璃:「絶対あの子だ!って思ったよね!」
ひかる:「うん……さぁ、教室だ。戻るからね。」
光璃:「何でわざわざそんな隠すの?」
ひかる:「……メンドクサイノ。ソレダケ」
光璃:「教室でも仲良くしたいのに……むぅ」
ひかる:「2人の時だけね。」
光璃:「はぁーーい。」
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高城:「……ぉ、戻ったか。早く座れ、先生来るぞ。」
心:「あれ、ひかるちゃんと一緒だったの?」
光璃:「うん。トイレで会ったから一緒に来たよ。」
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ひかる:(M)先生が教室へ入り「席に着けー!」と号令をかけながらピシャリと扉を閉めた。
ひかる:ここからの一日はいつも通り。
ひかる:ただ、たまに……光璃の暇つぶしでお互い入れ替わって周りにバレないように振る舞う、という遊びに付き合わされる。
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ひかる:正直私には苦痛でしかない。人と接するのが苦手な私には…光璃のように振る舞うことがなかなかに難しい。
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0:(場面転換、放課後の教室)
高城:「おい、大丈夫か??」
ひかる:(M)ホームルームが終わり、部活が終わったらみんなでパフェを食べに行こう、と光璃たちが話しているのが耳に入った。関わりたくなかった……のに……
高城:「おいって、聞いてるか??大丈夫か??」
ひかる:「……ぇ、あ、あっ、大丈夫!!大丈夫よ。ちょっと考え事してた…」
心:「ひーちゃん、大丈夫??パフェ、また今度にする??」
ひかる:(M)そう言いながら顔をのぞきこんでくる心ちゃん…バレてしまうのではないかと反射的に顔を背け勢いよく立ち上がる。
光璃:(回想)「断らないでね!ちゃんと私も行くからー。」
ひかる:(M)二人が集合する前に言われた光璃の言葉が頭をよぎる。
心:「わっ!」
ひかる:「大丈夫よ!い、行こっ!そ、その前に私、ちょっと職員室行ってくる!すぐ戻るから!」
高城:「……大丈夫なのか……?」
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0:(場面転換・廊下を歩いている)
光璃:「ひーちゃん!どこ行くのー?もう帰る時間じゃん。」
ひかる:「っ!!どこ行ってたのよ光璃!!ねぇもう無理!!私帰りたいんだけど!!」
光璃:「いいじゃん!楽しいし、みんなで寄り道しよーよ。」
ひかる:「楽しいのはあんただけよ!!眼鏡返して!」
光璃:「ヤダーーー!!(走って教室へ)」
ひかる:「ちょ!!!」
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高城:「……ん?誰だ廊下走ってんの……」
心:「ぇ……ひかるちゃん??」
ひかる:「ちょっ、と……!」
光璃:「……あの、えっと」
高城:「おっ、でたな、ニセモノ!(からかうように)てか……なんでふたりして走ってんだよ、怒られるぞ?」
ひかる:「……っ、……」
光璃:「ひーちゃんに、誘ってもらったんだけど、私も、その…一緒に行って、いいの、かな……」
心:「ぇ……うん!!もちろん!!」
高城:「人数多い方が楽しいか。な!!」
ひかる:「………」
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ひかる:(M)“偽物”と言われるたび、声が出なくなる……私の存在は、光璃の…光(ヒカリ)の影でしかない……
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0:(場面転換・ファミレス)
心:「ねぇねぇ、何食べるー???私……ハンバーグ食べたい!!」
高城:「お前……家帰ったら飯あんだろ??パフェ食いに来たんじゃないのかよ」
心:「んーーー……ねぇねぇ、ひーちゃん何食べる??」
ひかる:「………」
心:「ひーちゃん???」
光璃:「ひーちゃん??どうしたの?具合…悪い?」
ひかる:「……ぇ、あ、ごめん、なんだっけ」
高城:「…何食べるって聞いてんの!大丈夫かー??」
ひかる:「あ、そっか、ごめんごめん!えっと…チョコレートパフェにしよっかな」
心:「え…」
ひかる:「え?」
心:「あ、何でもないの!ひーちゃんいちご好きだから、てっきりイチゴ特盛パフェかと思って〜あはは!」
ひかる:「ぁ…」
高城:「いいんじゃねーの?たまに違うのだって食べたくなるだろ」
光璃:「んふふ…仲良いね。」
心:「ん?うん、小学校から一緒なのよ!私たち」
光璃:「そうなのね」
高城:「…ま、一緒だろうとなかろうと、楽しけりゃいいじゃねえか。早くメニュー決めよーぜ。」
心:「えー??何その言い方ー!!もぉー……、じゃあひーちゃんはチョコね!ひかりちゃんは??」
ひかる:「……っ」
0:(少しの間)
高城:「おいニセモノ!早く決めろ!!」
光璃:「うん!じゃあ、私はイチゴ…だけど特大はさすがに無理だから、普通のにするわ。」
高城:「よし、決まり!」
0:
ひかる:(M)関われば関わるほど、私の心に影が落ちる。“偽物”…私は偽物……。
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0:(場面転換)
ひかる:(M)入れ替わりが続いたある日、私は光璃に爆発した。
光璃:「ねぇひかる!今日は一日入れ替わろ!!」
ひかる:「……いやよ」
光璃:「いいじゃん!!近くにいるからさ!!ね??」
ひかる:「いい加減にしてっ!!」
光璃:「っ!!……ひかる??」
ひかる:「何が楽しいのよ!!もう巻き込まないで!!いい加減疲れた!!あんた何がしたいの???」
光璃:「ひかる??ごめん、そんなに嫌だった??ごめんね??」
ひかる:「もういい…悪いと思ってるなら関わってこないで。」
光璃:「ぇ、でも、そんな事言わないでよ!ごめんてば!!」
ひかる:「二度と入れ替わりはしないから。教室でも話しかけてこないで…」
光璃:「え、待ってよ!!ちょ、ひかる!!」
0:(場面転換・朝の教室)
心:「あ!おっはよー!ひーちゃん!」
光璃:「おはよ、心ちゃん。」
心:「ねぇねぇ、今日の体育男女混合でグループ作ってなんかやるって言ってたよね!」
光璃:「うん、そうだね…」
高城:「お!心、ひかり。おはっ」
心:「おはよー!」
光璃:「おはよう。」
心:「ねぇねぇ、高城!今日の体育グループなろうね!」
高城:「おう、4人だっけか…てか、光璃…どうした?」
光璃:「え?……なに?」
高城:「目、腫れてねぇか??」
心:「え??ほんとだー!どうしたの??」
光璃:「ん…そうかな??ちょっと昨日映画見て泣いちゃった、あはは」
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ひかる:(M)自分が座る席の後ろから聞こえる会話。朝のやり取りで泣かせてしまったのだろう…。光璃の力無い返事が私の胸を締め付ける。
ひかる:それでも知らないふりを決めて前を向いていたが、耳は会話を拾っている……。3人の会話が途切れ少し経つと、目の前に高城が居た。
高城:「川島!お前、体育の時俺らのグループな。」
ひかる:「ぇ…」
ひかる:(M)驚いて思わず後ろの二人に振り返りる。
心:「決まりー!!!よろしくねひかりちゃん!」
光璃:「……っ」
ひかる:「……なんで」
高城:「ん?」
ひかる:「なんで私なの。」
高城:「…なんでって」
ひかる:「私、体育には出ないから。他当たって。」
高城:「あ!おい!!」
光璃:「…………」
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ひかる:(M)もうすぐ朝礼が始まる…。分かってはいたけど勢いで教室を出てきてしまった。
ひかる:出てくる瞬間、俯いて今にも泣きそうな光璃の姿が目に入った。
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ひかる:「……知らない。関係ない。…何がしたいのよ……」
高城:「……何がってそりゃぁ、川島と仲良くしたいんじゃねぇの??」
ひかる:「!!」
高城:「喧嘩でもしたのか?」
ひかる:「何でいるのよ…」
高城:「そりゃ、断られると思ってなかったからよぉ」
ひかる:「私は断ったわよ。教室戻ったら??あんた、ただでさえ遅刻多くて目つけられてるんだから。」
高城:「川島が戻るなら俺も戻るわ。」
ひかる:「……」
高城:「なぁ、光璃と何かあったか??仲良かったろ??」
ひかる:「……偽物」
高城:「え?」
ひかる:「偽物って、呼ばないのね…」
高城:「……あぁ」
ひかる:「……」
高城:「だって今日はお前、川島光瑠(かわしまひかる)だろ?」
ひかる:「…………ぇ?」
高城:「……ん?だから、今日は入れ替わってないよな。」
ひかる:「…………………ぇ………ん?」
高城:「入れ替わってねぇから、ホンモノじゃん。」
ひかる:「え…まって………あのさ」
高城:「ん?」
ひかる:「もしかして入れ替わってるの…バレてた?」
高城:「ん、おぉ。そっくりでビビったけどな!」
ひかる:「……じゃああんたが偽物って呼んでたのって……」
高城:「お前らが入れ替わってる時は2人ともニセモノだな!」
ひかる:「……………マジか。じゃあ心ちゃんも……?」
高城:「んー、いや??どーかな??聞いてみよーぜ??」
心:「なになにー???呼んだーーー?」
ひかる:「え……」
心:「私初めてホームルームすっぽかしたんだけどー!あはは!」
光璃:「ちょ、ねぇ!心っ!!引っ張んないでよ!!」
ひかる:「……光璃」
光璃:「あ……えっと……」
心:「ねぇ、二人共喧嘩したのー???ひーちゃんなんか元気ないしー、ひかるちゃんもなんか避けてる感じだしぃ…」
ひかる:「それは…」
高城:「あー、心、あのな……?」
心:「いつものばくりっこはもうしないのー??」
0:(少しの間)
ひかる:「ぇ」
光璃:「ぇ?」
高城:「……だよなぁ」
心:「えー??なになにー??」
ひかる:「気づかれてないって思ってたの…私たちだけ?」
光璃:「ぇ…どういう……」
高城:「ずっと一緒にいたんだぜ?分かるわw」
ひかる:「光璃……二人にはバレてた。入れ替わり…」
光璃:「え……うそぉ」
心:「えー???分かっててやってたんじゃないのー??全然違うからすぐわかったよぉ??」
高城:「そーか?そっくりじゃね??」
心:「そー??んでも2人が楽しんでるならと思って〜私も楽しかったしー!」
ひかる:「なんか……馬鹿らしくなってきた……」
光璃:「ねぇ、ひかる…ごめんね……。ただ仲良くしたかったの。入れ変われば近くに居
れると思って…」
ひかる:「傷ついてた自分が馬鹿みたいだわ。高城に“偽物”って言われる度に劣等感半端なくてしんどいから離れようと思ったけど…バレてたのかよ……」
高城:「え、なんかごめん。悪気はなかったんだけど!!本気でバレてないと思ってたなんて思わなくて…え、マジでごめん。てか川島、そんなキャラなの??」
ひかる:「え?」
心:「ひかるちゃん、かっこいいよね!」
ひかる:「……ちょっと何言ってるか分かんない」
光璃:「ふふ、ふふふっ」
心:「あははは!!ねぇ!!体育のグループ!!絶対この4人ね!!」
ひかる:「わっ!ちょ急に抱きつかないでっ」
高城:「心はしつこいぞ〜」
ひかる:「やだよ、体育自体苦手なんだ!!私はサボる!!」
心:「じゃー私もサボるー!!!」
光璃:「ふふっあはは!!じゃあ私も!!」
高城:「えーじゃあ、俺もー」
ひかる:「ダメだろ!!!ふざけんなよ!!わかった!!わかったよ!!出るよ!!引っ張んなって」
心:「あははは!!」
高城:「てか、もう教室戻ろうぜ?」
光璃:「早く戻らないと1限目、数学だよ?」
高城:「げっ!!俺あの先生に目付けられてんだ!!」
ひかる:「あーぁ。ご愁傷さま〜」
心:「よし!!もどろーーーー!!」
0:
0:(場面転換)
光璃:「あーぁ、バレてるとはなぁ…」
ひかる:「思ってなかったわ」
心:「んふふ〜ぅ」
光璃:「そっくりだと思うんだけど…まぁ、付き合い長いもんねぇ」
高城:「まぁ、な。そっくりだけど雰囲気は少し違うんだよな!それと俺の見分け方は〜……ぁ〜……」
心:「んー?なになにー???」
高城:「いやぁ……その……」
ひかる:「何だよ、見分け方は??」
高城:「引くなよ……???」
光璃:「うんうん!!」
高城:「2人ともさ、片耳の後にホクロあるんだよ。左右逆に。」
心:「えー!気づかなかった!!」
光璃:「そんなとこ…見てたの…」
ひかる:「うわぁ…」
高城:「うわ!!そんな引かなくてもよくない??てか!!じゃあ心はなんで分かったんだよ??」
心:「えー??わたしはねぇ、2人を比べるとぉ……ひーちゃんはちょっとお胸が大きくて、ひかるちゃんはウエストがちょっと細いの!!」
光璃:「あー、よく抱きつくもんね」
ひかる:「そんなバレ方って…」
高城:「ちくしょう!羨ましいな!!」
ひかる:「うわぁ……」
心:「まぁまぁ!!取り敢えず…みんなでイチゴ特大パフェ食べいこー!!!」
ひかる:「えー?」
高城:「お!いいね!!」
光璃:「行こいこー!!」
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光璃:「ねぇ、ひかる。」
ひかる:「ん??」
光璃:「メンドクサイのも、たまにいいでしょ?」
ひかる:「…(微笑)…たまにならね!」

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