私とテクトツゥーウェイライト

テクトツゥーウェイライト。愛用しているゼブラのシャーペンだ。愛用しているわりについさっきまでテクト「ツー」ウェイライトだと思っていた。すまんテクトツゥーウェイライト。
この間ペンケースをなくした。中にはテクトツゥーウェイライトが4本、ナノダイヤが1つとナノダイヤカラーが3つ、消しゴムとミリペンがいくつか。テクトツゥーウェイライトは0.3が1本とピンク、水色、オレンジにそれぞれの色のナノダイヤカラーを入れたものが1本ずつ。これをなくした。買い直そうにも地元ではどれだけ探しても見つからなかったので、通販で探して初めてカラー軸は生産終了だということを知った。
悲しすぎるので、テクトツゥーウェイライトとの思い出を吐き出そうと思う。あわよくばこれを見てゼブラの偉い人とかがよっしゃほならテクトツゥーウェイライトのカラー軸再販しよか!とかならねえかなあとも思っている。まじで。それほどまでに、私にとってなくはならないものなのだ。

ぶっちゃけ、出会いはあまり覚えていない。いや覚えているのだけど、中学だったか高校だったかうろ覚えなのだ。すまんテクトツゥーウェイライト。どちらにしろ10年ほど前で、その日は中間試験の1日目だったのは間違いない。
当時から私は0.3のシャーペンを愛用していて、細い線で細い字と細かい絵を描くのが好きだった。ノートも、テストも、全部0.3のシャーペンだ。たしかパイロットのS3を使っていた。安かったしカラバリも豊富だしデザインもなんだかしゅっとしていてかっこよかったし、当時流行っていた持ち手がゲルになっているやつが苦手だったのでゴムすらついていないボディは最高だった。
間違っていたら恥ずかしいが、当時は書くときに疲れないという売り文句が流行っていたように思う。だからアルファゲルとかドクターグリップとかの持ち手がやわらかいシャーペンが流行っていたし、振りシャーが大流行していた。アルファゲル、ドクターグリップ、クルトガ、この3つのどれかを使っている人がほとんどだったのではないだろうか。しかし私はやわらかい持ち手も振りシャー機能も苦手で、クルトガは書き心地が合わなかった。それに当時0.3のシャーペンはまだ少ない。ノック式で軽すぎず重すぎず0.3のシャーペン、そんなわがまま大魔人の私の理想だったのがS3だ。
そんなS3だが、テスト中に壊れてしまったのだ。幸い予備のシャーペンを友人から借りていたのでテスト自体はなんとかなったが、1本しか持っていないシャーペンが壊れては帰ってからテスト勉強ができない。というか1本しか持っていないこともまずい。仕方がないので地元のショッピングモールにある文具屋で2本くらい買おうとシャーペンコーナーを覗いたとき、テクトツゥーウェイライトがあった。
S3にも似たしゅっとしたデザイン。持ち手にはゴムがついているが、ゲル状のものではなくリングタイプのゴムが3つ、ボディと一体化するようにさりげなくあるだけ。振りシャーは苦手だがこれはロック機能があるので普通に使っていても中でかちゃかちゃ鳴らず、またロックすることで低重心になるという。
何が低重心じゃプークス、とは思ったが、見た目がとにかくドタイプだったので試し書きしようと手に取った。すると低重心とはいっても重たいわけではなく、書くときに安定感があるなと感じる程度のほどよいものだった。最高やん、私の手のひらはドリルのようにくるっくる回る。
しかしテクトツゥーウェイライト、とにかく高い。S3は200円くらいで買えたと思うが、テクトツゥーウェイライトは600円くらいした。3倍だ。いや世の中に2000円とかするシャーペンがあるのは知っていたが、バイトもしていない学生のお小遣い的にはめちゃめちゃ高い。これ1本買うよりもS3を3本買ったほうがよくないか? テスト期間中であまり悩んでもいられないというのに、右手にS3左手にテクトツゥーウェイライトを持って悩み続けた。
結局、私はテクトツゥーウェイライトを1本だけ買った。初めてのテクトツゥーウェイライトはピンクだった。友人には悪いが、でもこのシャーペンの魅力を語れば明日もシャーペン貸してくれるだろうと思っていた。完全に友人に甘えているくずである。しかし事実友人に話したところ「それは買って正解や」という言葉とともにシャーペンを貸してくれた。あのときはありがとうな友人。

数年が経ち、私は服飾系の専門学校の学生となった。製図をしたりデザイン画を描いたりとシャーペンを使う必要のあるときは必ずテクトツゥーウェイライトを使っていた。
私はあまり多くの文房具を持ちたくなくて、ペンケースの中には必要最低限だけ入れるようにしている。というのも、整理整頓が苦手ですぐ物をなくすからだ。それに気づいたのは高校のときだったので、テクトツゥーウェイライトを買って以来シャーペンを買い足すことはなかった。卒業までテスト中に壊れることはなく、なんなら初めて買ったテクトツゥーウェイライトは今も使っている。もちろん、専門学生だった頃に使っていたのもこのテクトツゥーウェイライトだ。
買ったときは知らなかったのだが、テクトツゥーウェイライトは製図用シャーペンだ。今調べたらS3もそうらしい。普通のシャーペンとの違いはいろいろあるんだろうが、私が製図用と知ってから一番違いを感じたのは先端の形だ。普通のシャーペンは横から見たとき▽のような形をしているが、テクトツゥーウェイライトはTのような形をしている。このおかげで定規に当てたときに線がぶれず、きれいな線が引ける。それを想定してのデザインかは分からないが、ミリペンもそういう形をしているから多分これが製図に適した形なんだろうな。
専門学生時代にも何度かペンケースを忘れて友人に借りることはあったが、借りといて失礼な話だとは思うけど普通のシャーペンは線がぶれるし寸法もずれるしでやはりテクトツゥーウェイライトが最高だなと思った。
そして学校の近くの文具屋にテクトツゥーウェイライトが全色揃っており、そこで初めてカラバリが豊富だということを知った。ユニのナノダイヤカラーの存在を知ったのもこの文具屋だ。なんとなく水色で下書きするのがかっこいいと思っていた私は(形から入るのが好きなのだ)ナノダイヤカラーの水色と、芯の色と揃えて水色のテクトツゥーウェイライトを買った。既に同じシャーペンを使っているので色を変えたほうがペンケースの中で分かりやすくていいだろうと思ってのことだ。

専門学校を卒業してからいろいろあり、客に水をかけられたりして心が折れた私は就職先を半年で辞め、友人の紹介でゲーセンで働き始めた。そのゲーセンは手書きでPOPを描くことがあるとこで、絵を描けると知られてからは給料据え置きでPOPを描かされるようになった。
事務の仕事を紹介してもらったのでゲーセンは一度辞めたが、その後パワハラモラハラに耐えきれず勤務時間を減らしたので出戻りした。今は事務を週5勤務、ゲーセンを週4勤務の計週9勤務(?)をこなしている。
出戻りしてから、POPを描く人がいないことを知っている私は別の人に仕事を任せてPOPを描きまくっている。いややることがあるときはちゃんとそっち優先しているぞ。ただ日によっては勤務時間いっぱいPOPを描いている日もある。描けないほど忙しい日もある。
POPの用紙はビレバンのやつを想像してもらったら分かりやすいと思うんだけど、黄色い。黄色い紙にシャーペンで描くと下書きが目立ってしまうので消しゴムをかけないといけない。原則POPは30分以内で描かなければならず、消しゴムをかける時間は惜しいしぶっちゃけめんどくさい。そんなときに思い出したのが、ナノダイヤカラーだ。黄色い紙にオレンジで下書きをすれば目立たず、消しゴムをかけなくても気にならないのではないか。その日のうちにナノダイヤカラーのオレンジとなんとなくかわいいからピンクを買ったのだが、テクトツゥーウェイライトのオレンジは地元では手に入らず、また学生時代によく行っていた学校近くの文具屋は既に潰れてしまっていたので仕方なくネットで探した。そのときはピンクや黄緑は取り寄せになるとしか書いてなかったので、はぇ~人気なんやな~くらいにしか思っていなかった。ツイキャスで「お気に入りのシャーペンがどこ行っても売ってへんからさー通販で買うたわははは」とか笑っていた時期だ。ピンクのテクトツゥーウェイライトは地元で買った。
届いてからさっそくPOPを描くときに使ったら最高すぎて最高やんけとしか言えなくなった。おたくなので語彙力はすぐになくなる。10年近くテクトツゥーウェイライトを使い続けてきた手に、新品ではあったがとてもよく馴染んだ。

そして5日ほど前、ペンケースをなくした。4本のテクトツゥーウェイライト、3つのナノダイヤカラー、消しゴム、いくつかのミリペン。多分自転車のかごに入れていたバッグから落ちたんだと思う。いくら探しても見つからなかった。
オレンジのテクトツゥーウェイライトを買うついでにピンクと水色と0.3も一緒に買おうと思って通販サイトを見て愕然とした。そこには生産終了の4文字があったのだ。もうパニックだ。かろうじてオレンジだけはまだ在庫があったので慌てて購入し、地元の文具屋にピンクと水色を買いに行った。しかしそこにはもうわずかしか置いておらず、ピンクに至ってはもう売り切れていた。とりあえずあるやつだけでも買っておこうと0.3と水色は買ったが、どうしてもピンクが見つからない。いくつか文具屋をはしごしたが、売り切れたか取り扱いがないかのどちらかだった。血眼で様々な通販サイトを探し、ようやく見つけて金曜日に注文したら「うち在庫ないしメーカーも生産終了してるらしいからキャンセルしとくね」ってメールが月曜日になってから来た。今もう一度調べたらまだ通販ページに載ってるんだけどどうなんこれ。他ではもう在庫がなく、一応アマゾンにはあったがまとめ買い5本で3000円だったのでさすがにためらった。最後の手段だ。
もう二度と手に入らないかもしれないと半泣きな私に、母が冗談で「メルカリやったら中古であるんちゃうん」と言ってくれた。正直、壊れてさえいなければ中古でも構わん私は藁にもすがる思いでメルカリで探した。

あった。あったのだ。しかも新品。
見つけた瞬間メルカリに登録して購入した。最愛のテクトツゥーウェイライト。まだ届いていないが発送の連絡は来たのであと数日の我慢だ。今めちゃめちゃ踊りたい。喜び。サンキューメルカリ。ハレルヤ。

テクトツゥーウェイは廃盤になっていない。ライトのカラー軸が生産終了しただけで、テクトツゥーウェイ自体はカラー軸があるしテクトツゥーウェイライトも白と黒はある。だが、私が愛しているのはテクトツゥーウェイライトのカラー軸なのだ。
あのクリアなボディが大好きなのだ。軽やかな見た目と愛らしいカラーリングが大好きなのだ。光に当たるときらきら反射する、あのボディ。メタルボディのテクトツゥーウェイとは違う爽やかさ、一目で色が分かる視認性の高さ。差し色ではなく全体で色を鮮やかに、かわいらしく、まるで春の日の光のようにきらめいて表現するあの姿が、私は大好きなのだ。
いつかテクトツゥーウェイライトは廃盤になってしまうのだろう。それは私にとって愛する人がその人生を全うするに等しい悲しみなのだ。せめてそのいつかが、私が死んでから訪れてほしいと思う。

頼むからゼブラはテクトツゥーウェイライトのカラー軸を再販してくれ。

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