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『スパイの妻<劇場版>』@MOVIX 三郷


鑑賞して、ヴェネツィア銀獅子賞受賞に一番驚いたのは清監督自身だったのでは?と思った。

黒沢作品としては正直平均的な出来で、たしかに現代劇ではない近過去劇という新しさはあるものの、ことに野心に満ちた作劇や画面構成・演出があったようには思えない。

731部隊に取材したなかなか面白い脚本に対して、清監督が手練れの職人モードで無難に応えたという印象だった。
いい意味で大作感のない、B級ノワールのプログラムピクチャー感……

たぶん前半のほうがよくできていて、後半日本からの脱出に活劇要素が加わっていれば、より面白くなったのではないかしら?(上から)

貨物船の甲板で聡子(蒼井優)と泰治(東出昌大)が短銃を構えて向かい合う……みたいなシーンを見たかったのである!(追加撮影きぼんぬ)


ま、そんな野暮はともかく、東出昌大氏が俳優としてものすごく最高で、なにが最高かというとあのひょろひょろの長身と体躯であって、「ゲイリー・クーパーかよ!」とニコニコしてしまった。
(軍刀最高!)

フライシャーの『バッタ君町に行く』〔1941〕は一連のキャプラ作品のタイトル込みのパロディなわけだが、劇中のバッタくんの足が長すぎて困るみたいな描写も、ゲイリー・クーパーやジェームズ・スチュアートといったキャプラ作品常連のひょろひょろ長身スターのパロディなわけで、『バッタ君町に行く』実写化の際には、東出氏も配役の最有力候補ではなかろうか(??)



↑ のインタビューで脚本の濱口竜介氏が聡子のイメージを増村保造作品からと明かしていて、ものすごく合点がいった。
あのエキセントリックさは、なるほど……
精神病院のシーンのどこか『赤い天使』〔1965〕感……
(ということは満州の軍医は芦田伸介……!)


Q:いまお話しいただいた部分含め、濱口さんが携わられた脚本は、女性の描き方が興味深いなと感じています。どのようにして、このようなキャラクター描写が生まれるのでしょうか。

濱口:これはですね……こんなことを言わないほうがいいのかもしれませんが(笑)、レファレンスの一つは増村保造監督的です。まあ、私、とても好きでして。愛ひとつで行動して、他は全部破壊する――こんなに世の中の道理を壊していいものか、という人物と出会う驚きを自分の作品でもいつかは、と思っています。今回は増村作品への愛情が如実に出てしまっているような気はしますね。現代を舞台にするとあまりに飛躍がすごすぎるんですが、時代ものになるとうまく合致した感はありましたね。こちらも筆が走ってしまったところはありました(笑)。

黒沢:いま初めて聞いたんですが、聞きたくなかったです(笑)。「増村をやれ」と言われたら、僕はできませんから(笑)。

濱口:言わなくてよかった……。

黒沢:確かにちょっと「増村作品かな……?」と薄々思った瞬間はありましたよ。ただ、僕もそれは考えないように言い聞かせていました。だって若尾文子はいないしな……となりますしね。


清監督の若尾文子はいないしな……の返しは笑う(笑い)。


予告編 赤い天使 1966 增村保造 - YouTube


撮影がNHK大河のスタッフだったということで、貨物船内のシーンなんかにはNHKドラマのこじんまり臭を感じたりしてしまったが、清監督的には小津が『宗方姉妹』〔1950〕『浮草』〔1959〕『小早川家の秋』〔1961〕などを撮ったときのそれと自身をダブらせていたのでは?とか想像したりした。


あと、『風立ちぬ』〔2013〕との類似に気づいて、時代はもちろん、その主要登場人物の少なさ、ベタなメロドラマ、ほとんど同じ作品では?などと思った。

ラストの空襲は1945/3/17の神戸大空襲かと思うが、ラストシ-ンの海岸はもちろん此岸と彼岸の狭間としての抽象空間――「三途の川」であり『風立ちぬ』のラストシーンのノモンハンの丘陵とまったく同義であり、黒沢作品では『トウキョウソナタ』〔2008〕『岸辺の旅』〔2015〕などでもおなじみの舞台装置?である。


蒼井優&高橋一生、和気あいあいから一変 迫真の演技合戦 メイキング映像が公開  映画『スパイの妻<劇場版>』 - YouTube






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