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ゴシック・ロリィタ・ロックンロール・エチケット〜今ここで、時代をなんとかしろ〜
机の中の未処理の伝票をシュレッダーにかけた。開けてみたらそれは別に処理をしなくても良さそうな、どうでもいいものばかりだった。
好きなアーティストが活動休止を発表した。
ふとした時に聞いて、みんなから愛されていたのを見てきた人だった。
なんで、こんな。あなたは愛されているのに。
少し前、彼女が愛されている街に帰っていた。
新幹線で2時間半。たくさんの荷物と、ベースを背負って。
下北沢で受け入れられなかった音楽を引っ提げた。
ふと見渡したらわかりにくいものが評価される時代だった。直球はダサいと鼻で笑われて。汚い金髪。下品に笑うボーカリスト。
湾曲した自称ロック。前向きなものを嘲笑する文化は一部の自称社会不適合者にもてはやされていた。
下品で奇天烈なものが評価される。なぁ。少しおかしなことを言わないと。少し、おかしなことをしないと。
逃げて来た。そんな気分だった。
真面目にやればやるほど、ダメになりそうだ。
私が人生で出会った2人の神様はどこか品があった。自嘲しても強くて、奇天烈なナリでしゃがんで誰かを励ますような気さくさがある神様と、緩く笑いながらもどこか尖っていて、気高い神様がいた。
2人とも愛に溢れて品があった。
ロックンロールというものが、今難しくなっている気がする。
某フェスのオーディションにギャンギャンにうるさいギターや歪んだボーカル、唸るベースとバカスカのドラムが無くて。
悲しくて悲しくて、私が大好きなロックンロールはこの先どうなっていくんだろうかと。朝5時、寝ぼけた頭でそう思った。
親父がアイスコーヒーを淹れてくれた。ごめん頑張るよ、って言って飲み干してみた。
きゅっと締めたミホマツダのビスチェは緩かった。アトリエピエロのスカートはいつもふわふわでかわいい。
朝ごはんを作って、ライブに向かった。
出演者全員の曲を一通り聴いてから今日を迎えた。いつも通り、いつもと違うのはそれを外に出したこと。なんて言われるんだろう、どうなっちゃうんだろう。
でも今日は絶対それをした方がいい、と思った。
このシーンはこんなに楽しいよ!ってみんなに伝えたかった。
真面目にやろうと思っていた。盛り上がらないらなら、誰かがやれることをやればいい。
うちのバンドはトリ前だった。なんで。
ずっと胃が痛いまま、会場1発目のバンドが始まった。
ずいぶん男臭いギターを弾く女の子、すごいぞこれ、purple hazeやんけ。
今日絶対楽しくなるぞ!って思った。
東京組のバンドのライブ。何度も観たはずだったけど、ここに一緒に来て、気合いバチバチのライブが見れて本当に良かった。
その後も映像を撮ったり、Twitterをシバいたり。
お客さんや演者さんから「Twitterみました!」と声かけられることもあった。アレを見て、誰かが色んなバンドに出会える機会が出来たなら嬉しい。
あっという間に出番は来た。衣装に着替える。ライブ前にチョイスクローゼットに行って弾丸で買ったディーンジャケットワンピースと迷ったが。いつもの方にした。
客入りはそこそこ。いける。大丈夫。
ステージに立てばもう平気。
いつものモヒカンがしばき倒すドラムに乗っかればいつも通りかっこいい赤花ハガレでいれる。今日一番かっこいいバンドになりたい。みんなそうだと思う。でもうちが一番だって、私だけは言ってあげたい。
最新の曲、私の速弾きリフを見てくれ。聴いてくれ。すごいと言ってくれ。
モヒカンがソロを全部キックのみでやった。
流石にちょっと怖すぎる。
終わった後、拍手が聞こえた。止まらなかった。安堵した。
「早く行かないと次の会場始まっちゃうよ!」って言ってけど。物販を買うためにお客さんが待っていてくれた。
やっと周りが見えた気がした。
長年の友人が来て、CDを買ってくれた。嬉しい。
ロックンロールの未来と、ロックンロールへの愛を貫いたバンドと、そのサウンドを信じたお客さん、スタッフが居た。
やっぱ、ロックが鳴るシーンは減ったし、未来に要らないと突きつけられても、まだやりたいと思った。
ロックバンドが変なパフォーマンス重視の下品で奇天烈なものに成り下がらないように。祈った。
かっこよくて気高くて、そんな姿をステージで見せ続けるぞという意志を感じるバンドがたくさん居た。
ここでシーンをひっくり返さないと、日本の音楽は終わると本気で思った。でも絶対ひっくり返せる。
同じ会場のトリのバンドと乾杯した。
2度目の安堵。
色々な人と色んな話をした。楽しかった。
打ち上げを終え、家の近くの駅は終電が終わっていた為、途中からタクシーを使う。
「満足した?」
深夜のタクシー、助手席に座っていたのは金髪をツインテールにしたシュガーブーケだった。
「まぁ。今回は」
「売れたいなら早くギター入れてボーカル入れて下品なこと歌いなよ」
「死んでもやだよ」
「あんたはそう言うと思ってたよ。今回は本当周りに助けられてたよ。だって、あんたは他の共演者を使って人を呼んだ」
「そんなつもりはないけど」
「見る人が見たら売名だよ。周りから気に入られようと取り入ろうとめちゃくちゃやったカスだよ。あんたが考えた感想が作った人にとって的外れだったら?どうしたの?今回は周りが優しくてよかったね、満足した?いいことしたと思った??」
「何というか、危なかったよな。」
「本当はあんたが、あんたの力だけで、あんたのバンドに人を呼ばないとダメだよ」
「そんなことは分かってる。でも、わざわざ東京で見れるバンドのライブを30分見に来るために関西に来る?来ないでしょ」
「呼べてるバンドは居たよ。」
「そうだね、、、」
「あんたが本当にやらないといけないことはあんた自身のファンをつけることだよ、他のバンドを見るついで、とかじゃなくて、あんたらを見に来たお客さんがもっとついてないと、この先ないよ」
「分かってる」
「どうすんの、ちょっとサーカス近づいたと思ったでしょ。確かにちょっとは近づいたよ、でもあんたまだまだ遠いよ、この先どうすんの?」
「ロックを見に来たお客さんにロックを提供したらそりゃ満足してもらえるよ、でも、そうじゃないお客さんにあんたはロックンロールの目を開かせないといけない」
「まだまだ出来てないよね」
「そうだよ、あんたがあんたの嫌いな街で受け入れられないのは、そこ。あんたはシーンをひっくり返したい取り返したいなんだかんだ言ってるけど、本当に何様なの?あんたが嫌いな音楽も好きで聴いてる人、沢山いるんだけど」
「嫌だな」
「どうしたいの?本当は」
「本当は、品がなくて芯もない音楽ごと、無かったことにしたい。存在を消したい」
「馬鹿じゃないの。あるものはもうあるんだよ」
「絶対、絶対、一番かっこいいのは私たちだから、シーンをもっと盛り上げて、こっちにもかっこいいのあんじゃん!って思ってもらいたい。あと、バンドに興味持ってない人にも、こんなかっこいいエンタメがあるよ!!って」
「本当に何様なの、他の音楽こき下ろすのはやめなよ。それよりもかっこいいことしないと、意味ないんだから」
「分かってる」
「呪われてるよ」
「奴らも私らも、互い呪われてんだよ。」
「無謀な」
家に着くとシュガーブーケは呆れ返ったのか消えていた。
風呂に直行するモヒカンを横目に、カップラーメンに熱湯を注いだ。