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アキレスと神

科学的な仮説は実験によって初めて実証されます。

The test of all knowledge is experiment.

おもしろいのは、実験の技術が発達してくると、従来まで実験によって正しいとされてきた理論が不正確だとみなされるようになる点です。

これは従来の実験対象が特殊なケースしか扱っていなかったか、実験の精度の向上によって、今までみえなかった「理論と観測のずれ」がみえるようになったかのどちらかでしょう。

ここで理論の適用できる限界が明らかになり、食い違いを埋めるための新しい理論の構築が始まります。ニュートンの運動方程式とマクスウェルの電磁場の方程式は今では古典物理学と呼ばれますが、それはミクロな物理の観測が可能になり、古典的理論から予想される結果と実際の観測にずれが生じ始めて、量子力学というまったく新しい枠組みを構築する必要に迫られたという経緯があるためです。

量子力学の本質は、物理量が関数ではなく演算子(関数の関数)であるということを明らかにした点にあります。例えば物質の位置座標という物理量は、従来までは時間の関数として表されると考えられていました。典型的なのはデカルト座標(x(t), y(t), z(t))ですね。ところが量子力学では位置は、観測対象の置かれている状態関数(これは時間変化する関数)の関数となっています。

ある偏微分方程式(シュレーディンガー方程式)に従う時空間上で定義された関数があって、この関数の関数が物理量と呼ばれるものの正体であるらしい、というのが20世紀の前半に見いだされた。この時期には多くの独創的な物理学者が独自の貢献をすることで、少しずつ今の量子論の理論的枠組みがつくられていきました。

このパラダイム変化の時期では、今までの決定論的世界観(→波動関数の確率解釈)や、観測者と観測対象の独立性(→量子力学の枠組みにおいては観測という行為そのものが観測結果に影響します)、物理量の連続性(→量子化)などの概念が、根本的に見直されることとなります。

同様に、アインシュタインの相対性理論は、時空と重力の概念を完全に覆しました。

これらの実例にみられるように、観測結果で見れば微小な補正として現れるだけであったとしても、理論的には根本から建て直す必要があります。これをファインマンは次のように表現しています。

Philosophically we are completely wrong with the approximate law.

アインシュタインはこのパラダイムシフトの両方に根本的な寄与をしました。アインシュタインはよく天才の代名詞とされますが、それ以上に奇跡的な存在だと私は考えています。

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