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【黒くて巨大な生物】アリは群れで一つの生き物と言うべきだ

 畑の横に長い間放置してあったものをどけると、その下に無数のアリの卵があって仰天した。その数1万個は下らなかっただろう。しかし驚いたのは私よりもアリたちの方だ。突然安全だった場所が白日の下にさらされたのである。アリたちは目が回るような速さで動き回る。「蜂の巣をつついたような騒ぎ」とはこのことだ。

 ところがアリたちはすぐに秩序を取り戻し、無数の卵を一斉に安全な場所に移動させ始めた。誰が号令をかけたわけでもないのに、彼らは▽1匹もサボることなく▽自分の体ほどもある卵を抱えて▽迷うことなく然るべき場所に▽一カ所に殺到することなく▽この膨大な数の移動に絶望することなく▽驚異的な速さで一個残らず―移動してのけたのである。

 私は、この移動劇があまりに見事だったのでビデオ撮影したのだが、あとでそれを高速再生してみると、彼らは卵を最短距離のルートで運ぶのではなく、絶妙に分散した場所に移動させているのがわかった。人間に同じことをやらせたら最短ルートを選んで一カ所に殺到するはずだ。どちらが効率的かは言うまでもない。

 一部始終を見て私は感動した。アリは集団全体でひとつの生命体なのだと確信した。彼ら一匹一匹には自他の区別はなく、全体の生存と維持のために働いている。全体の意志が個を動かしているのだ。言わば「黒くて巨大な生物」と呼ぶべきものである。それは、人体に侵入した異物を白血球が取り囲んで殺すようなものだ。白血球の一つひとつには意志はなく、人体としての意志がそうさせる。さらに言えば、人を生存させようとする何かの意志が働いている。宇宙の意志と言うべきか。ちっぽけなアリたちの姿を見ながら、思考は無限大に広がった。

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