歯科矯正デジタルワークフロー日記その3            インハウスアライナー

 久しぶりのnoteです…無事に元気な男の子が生まれました。こんな時代だからこそ強い心を持った心優しい人間に育って欲しいと願っています。

それでは、

 いま矯正歯科界はコロナ禍によるマスク、リモートワーク需要によってカウンセリング予約が取れない!なんていうクリニックが増えてるとか増えてないとか。本当にこの状況を予測出来た人は少ないと思います。ただ、残念なことにマウスピース型(アライナー)矯正治療を希望する方の割合は2022年に入ってから減少傾向にあるというのが私の肌感です。原因は色々と考えられますが、しばしば耳にするのはアライナーでは、なかなか治らないという情報をネットで見た、マスクだから表側の矯正装置で「確実に」治したい。と言った内容です。これはアライナー矯正治療に対する不安、不信感が以前より増してきている可能性が考えられます。流行りに乗ってアライナーに手を出した先生方の治療が上手くいってない、そして治療が終わらずリファイメント(追加アライナー)だらけとなり回らなくなる、それに伴い患者とのトラブルが表に出てきたというのもあると思います。実は矯正歯科は患者の治療を始めることよりも、いかに綺麗に効率的に終わらせていくか?が大事なんです。

そのように自信を持って矯正治療を完了させていくには最低でもマルチブラケットで10年、アライナーでも10年の経験と学びが必要なんじゃないか?と私は考えていますが、今はウェビナーなど色々な方法で学ぶ機会がありますから、もっと早く自信を持てるようになるかもしれません。

 そして、マルチブラケットはもちろん、アライナー矯正治療もやったことがない…という方は、すぐにこのnoteから離れて頂けたら幸いです。まずは矯正治療の基礎を学んで来て下さい。それはご本人のため、エンドユーザーとなる患者さんのためと考えています。

矯正治療、そしてアライナー矯正治療は本当に簡単ではないからです。私自身、20年以上の臨床経験でもまだまだ学びの只中ですから。

インハウスアライナー

    デジタル&アナログワークフロー

 ここから端的に説明したいために文体を変えています。。偉そうで申し訳ないですが、丁寧な言葉は長文になってしまいますので。それでは本題へ。

 昔、矯正治療をアートと表現した大家がいる。数年前も舌側矯正関係でアートというワードが入った本が出版された。アート?あのアート?それとインハウスアライナーと関係あんの?!

矯正治療はアート?デザイン?の要素、どちらが強いのか??勿論、矯正は医療ではある。しかし、矯正をどう考えるかは、特にアライナー矯正治療で歯の移動、プランニングを行うに当たって大事なファクターとなる。

結論から言えば、アートではなくデザインという表現の方が矯正治療を正しく表していると考える。

それでは2つの定義を対比的に要約すると、

アートとは:

 "制限がない"中で自由に美を表現する

デザインとは:

 "一定の制限"の中で美を表現する

と言える。勿論アートやデザインについて掘り下げていけば複雑な概念や哲学的な考えがある。

 アートなのか?デザインなのか?まぁ医療なんだから、そのどちらでもない!もってのほかである!

しかし、矯正治療を他の医療と比較した場合の決定的な違いは"美"という要素を抜きに語れない治療だということだ。そして、不正咬合を改善することにより、美や機能が伴った咬合を”一定の制限”の中で多様で複雑な装置や器具を用いて構築するのである。解剖学的にも生理学的にも、骨という制限の中でしか歯を動かしてはならない、いや動かない。矯正治療は、制限の中で機能が伴った美を構築するデザインと言える。更に患者の希望を無視することも出来ない。すべて患者の言うがままはあり得ないが、これからの医療における指標として重視されてきているペイシェントエクスペリエンス(PX)の概念でも言われているように、患者のNEEDSとエビデンスを考慮しながら診断、治療方針を立てる事が今後は必要になってくる。その患者のNEEDSもまた、制限の一つと言える。そして、どこまでも歯は自由に動かせない。

ところがである。私たちが普段使用しているインビザラインのクリンチェック上における3Dコントロールやインハウスアライナーのプランニングソフト上では、歯は骨を超えて自由に動かせてしまう。ソフトによっては歯と歯が重なったりする…3次元的どこまでも…これは恐ろしい。。と思って頂きたい。

そう、ソフトウェア上の仮想世界において矯正治療は制限がない自由なアートになってしまうのである。

あなたは制限なく自由に歯を移動させ、どんな咬合も構築できる。しかし、実際において矯正治療は制限がある中での治療なのだから、ノールールはあり得ない。特に歯科医が自ら考えプランニングを行うインハウスアライナーにおいては、制限を自分で設ける必要があるのだ。インビザラインのようにテクニシャンが助けてくれないし、ビッグデータによるアルゴリズムもない。そのために歯科矯正学は勿論、解剖学的限界を知り、精密検査から得られた情報を把握して、プランニングに生かしていかなければならない。

これから、インハウスアライナーを始める方々はそのことを肝に銘じて欲しい。私たちが作り出したアライナーを用いて、"制限"がある生身の患者の歯を動かすのであるから。

それでは、

インハウスアライナーの完成までのおおまかなワークフローを図にしてみる。以下のようなワークフローを辿ってアライナーは患者に手渡され、装着してもらう事によって歯が動き出す。

インハウスアライナーワークフロー

画像1

1.Scan

まずはIOS(口腔内スキャナー)によるスキャン、ここから全ては始まる。患者の口腔内、歯列を精密にスキャンし歯列をデジタル化していく。どこまでをスキャンするべきか?については、以前ツィッターでツィートしたABOのIOSガイドラインを参考にされたい。ここまではインビザラインのオーダーと同じ。ただ、インハウスアライナーでは、IOSはiTeroである必要はない。しかし、インハウスアライナーを作製しようという先生はすでにインビザラインを経験していて、iTeroをお持ちだろうから、ファーストチョイスになると思われる。勿論、口腔内をスキャンしたSTLデータさえ抽出できればインハウスアライナーは作製が可能で、primescan、TRIOSシリーズやmeditでも問題ない。ここでは歯列を精密にスキャンするのは勿論、大事な上下顎歯列のバイトがズレないように注意されたい。

2.Digitl set-up


ここからが、インハウスアライナーの重要なパートになっていく。使用するソフトは?

いま、日本で使用可能なソフトをリストアップ。

ortho stadio

blue sky plan

ortho up

nemo  

 etc…今後はsure smileもインハウスアライナーの機能をアップデートしていくようである。

 もっと素晴らしいソフト(AIによるプランニング、ステージングが可能)、ulab などがあるが、日本では諸事情により使用できないので省略する。本当はこのあたりのソフトを紹介したいが…私は個人として日本で唯一このソフトのアカウントを持っていますが皆さんが使えないと意味がない。

 日本で使用可能なソフトを用いた基本的なデジタルセットアップの方法は様々で、その詳細はハンズオンセミナーで。勿論、インビザラインのクリンチェックは参考になるはずだ。というよりインビザラインでプランニングができる人には簡単であるが、プランニングの前の事前準備が色々と大変で、セグメンテーションなとが必要。これはインビザラインにはない過程である。

3.Print

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 そしてここからは、デジタルというより実はアナログの世界。3Dプリンターと言うとデジタル機器!という感じがするが、初めて使った時の印象は…え?ローテク…プラットフォームに上手くレジンが付かないで剥がれる。など色々あったりする。。(いまはあまりありませんが)

現在、当院で使っているメインプリンターは

sprintray pro

uniz slash2 

矯正分野では、積層ピッチは100μmで十分でform3のような高精度だか出力が遅いプリンターではなく、早いプリントスピードとある程度の精度があるプリンターが推奨される。いわゆるプロジェクター方式のプリンターがスピード、精度ともにバランスが取れていると考える。LED方式も良い。そして何よりエラーが少ないプリンターがベストだ。現在、8サプライが販売しているsprintrayがそのような基準を満たし、コストパフォーマンスが良いと考える。プリンターはお金を出せば、もう少しハイスピード、高精度モデルもあるが…それよりも2ー3台、この位のスペックのプリンターをサブプリンターとして持っていた方が同時に多くのプリントモデルを出力でき、壊れた場合の保険にもなり安心と思われる。

4.Fabricate

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 次にプリンターより出力したステージ毎のプリントモデルにアライナーシートをプレスする段階。

いまのところ、シートプレスに使用するのはミニスターかバイオスターの二択ではないだろうか?そのうち、大量同時にプレスが可能な機器も出てくるだろう。シートマテリアルの詳しい説明はそのうちするが熱可塑性樹脂の種類として大きく分けて、

ポリエチレン製

ポリウレタン製

がある。そして、構造として一層から三層に分かれている。スマートトラックは三層構造のポリウレタンである。

私はワイヤーのように、シートの種類を動かし方やステージによって使い分ける

シートマテリアルシークエンス

という概念を考えている。

側方拡大などトランスバースの移動ではポリエチレン、垂直的な移動ではポリウレタンなど、シートの硬さや弾性の違うシートを使い分ける。今後、これができるのもインハウスアライナーの大きなメリットになってくると思われる。そのうちインビザラインなど、アウトソーシングのメーカーでもシートが選べるようになってくるかもしれない。

5.package

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当院では、念のため紫外線、空気を出来るだけ遮断するビニールパックに上下ワンセットにしてパッケージ、そこに患者の名前や症例番号、ステージ数、使用したシートマテリアルの種類を記載したシールを貼り患者に渡している。

実はここからブランディングも入ってくる。クリニック独自のケースやアライナーBOXを作るなど。なぜなら、あなたが作ったアライナーはあなたのクリニックだけのアライナーとなるからです。

以上

 ここまでが大まかなインハウスアライナー作製のプロセスであります(文体を戻します🙇‍♂️)

より具体的な作製方法は今後も開催するハンズオンセミナーで説明をしていきます。3月に行うセミナーは満席となりました。また、インハウスアライナーの新しい情報はこちらのnoteに随時更新していきたいと思います。それ以外にも新しいプロダクトやティップスなども紹介していきます。

 追加

米国にて新しい素材を用いたアライナーがスタートしました。より予測実現性の高いものになるのでは?と期待しています。アライナーの内面構造に工夫があるようで、今後はスマートトラックと比較した研究や臨床報告も出てくると思います。

それでは、また。。。









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