3Dスキャナの計測精度に関する工業規格(ISO&JIS)

 3Dスキャナの「性能」や「計測精度」ってどうやって比較評価したらいいんやろね?という課題があります。

  異なるメーカーの低価格3Dスキャナが2台手元にあり、適当に比較してみたが、計測項目や計測条件は勘で決めたもので根拠はなかった。評価方法をブラッシュアップするにあたって、まずは3Dスキャナの計測精度に関する工業規格をチェックしましょう、という記事です。

3Dスキャナの計測精度に関する工業規格

結論から言うと、この2つが該当する。
 
ISO 10360-8    (JIS 7440-8 が対応)
 ISO 10360-13  (該当JIS無し)

これらの関係性はISO制定を主導した委員が解説している。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/85/5/85_388/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/54/10/54_738/_pdf

 ISO 10360-8はいわゆる三次元測定器、接触式の測定器を念頭に制定されており3Dスキャナ(非直交光学式CMS)には適していない部分がある。それを踏まえて3Dスキャナの特性に合わせた評価法として ISO 10360-13が制定された。

ISO 10360-8 (JIS B7440-8):従来規格

ISO 10360-8:2013  Geometrical product specifications (GPS) — Acceptance and reverification tests for coordinate measuring systems (CMS) — Part 8: CMMs with optical distance sensors

このISO規格を和訳されたものがJISとして制定されており

JIS B7440-8:2015  製品の幾何特性仕様(GPS)-座標測定システム(CMS)の受入検査及び定期検査- 第8部:光学式距離センサ付き座標測定機

として読むことができる。ただし付随書JA~JEは ISO 10360-8にはないJIS独自の記述だ。ISO 10360-13が発行されるのと合わせて付随書JA~JEは改定されるだろう。ともあれ、これあh2021年まで光学式CMSにも適用されており便宜上従来規格と呼ぶ。

具体的にどのような検査を規定しているかというと

引用: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/85/5/85_388/_pdf

こういう校正済み検査器具を測定可能範囲(下図枠)のXYZ各軸+対角線 計7パターンに設置して計測し長さを比較する、ということになっている。

枠は計測器の計測可能最大範囲。

さらに、平面が出ている検査器具を平面と対角線の2パターン設置して計測しする、ということになっている。

オプションとして、溝やエッジを計測して実物と形状を比較する分解能試験も規定されている。

形状はあくまで例。

測定結果例
http://www.maruso-ms.co.jp/3dscanner4.html#spb-block-container-4

これらの評価は3Dスキャナにも適用できるが、不十分な点がある。次は光学式3Dスキャナを念頭に制定された ISO 10360-13の中身を簡単に見ていく。

ISO10360-13:新規格

ISO 10360-13:2021 Geometrical product specifications (GPS) — Acceptance and reverification tests for coordinate measuring systems (CMS) — Part 13: Optical 3D CMS
 これは2021年9月制定のできたてほやほや規格。まだJIS化されていないがそのうち和訳されてJIS B7440-13が制定されるだろう。便宜上新規格と呼ぶ。

ISO 10360-8 / -13の差異

表面特性に関する記述が追加
 ・検査器具の表面特性についての記録する規定が追加
 ・付随書に測定に影響を与える可能性がある表面特性について追加
複数位置で測定した点群を繋ぎ合わせる方法に対応した規定、測定が追加
 ・付随書に点群をつなぎ合わせた場合の評価手順が追加
 ・単一ビュー/複数ビューの区別が明確に

計測範囲を8分割したボクセル単位の導入

検査器具の配置が対角線上配置から異なるボクセルに配置する形に
 ・ボクセル8つから2つ選び、重複を削除し12パターン。
検査器具が5球→2球に。繋ぎ合わせ検査では6個以上に。

低価格3Dスキャナ/ 趣味用途への適用

課題
◆安価で再現可能な検査方法を作る必要がある
・検査器具が入手できない

 - 平面検査器具はブロックゲージが推奨されているが高価。
 - POM板の6F材をミスミで仕入れるのが現実的
 - 表面は Ra 6.3程度、寸法精度も1/100mm程度あればよさそう

 - 精度よく加工された球を入手することは難しい
 - 全く無いわけではない 
   https://www.monotaro.com/g/01139079/?displayId=20
 - 球を入手できても精度を出しながら決まった位置に配置するのが難しい
 - 球間距離が離れれば離れるほど検査が難しい
   大きなマイクロメータ買えば解決するが高価

・色の影響を極限する必要がある
 
- 理想は ・白色 ・表面が滑らか ・光沢無し ・透過率低
 - 色と寸法、形状がどちらも安定した製品はすくない
 - 寸法以上に製品の色管理は難しく定義しづらい
 - 経年劣化しづらいとうれしい
・スキャナのスペックが不明
 - 精度測定の前に、各種測定条件を自ら設定する必要がある
 
- 少なくとも最大スキャン範囲を測定して定義する必要がある
・ 測定条件の定義が難しい
 - ソフトウェアの設定項目がスキャナメーカによって異なる
・ターンテーブルの扱い
 - 実際はターンテーブル撮影が多いがISOは固定撮影が念頭にある
・定量化できても感覚的に理解しづらい
 - 精度 0.1mm/100mm と 0.2mm/100mmの違いってどれくらい?
 - 「ネジ山が撮れる」「手のしわが撮れる」とかのほうが理解しやすい

ISOの規定自体は参考になるけど、正直どう進めていこうかな・・・

おまけ 規格はどこで読めるの

JIS 7440-8 : JISのwebで無料で読める
https://www.jisc.go.jp/index.html

ISO 10360-8、ISO 10360-13
 :図書館行くか公式webでPDF買う(2.5万)
国会図書館関西館にはISO規格がすべて所蔵されている。
運が良ければ近くの図書館にも収蔵されているかも。

日本規格協会でも閲覧できるが、コピーはできない。閲覧のみ。
https://www.jsa.or.jp/jsa/jsa_lib


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