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グループ通算制度導入に伴う解散時の期限切れ欠損金への意図せざる悪影響?

先日少しツイートした件の纏めです。ズバリ、令和2年税制改正による連結納税からグループ通算制度への移行により、いわゆる期限切れ欠損金の取扱いに意図せざる重大な不備が生じているのでは??という問題提起になります。

1. 期限切れ欠損金の損金算入とは

内国法人が解散した際、残余財産がないと見込まれる場合、いわゆる期限切れ欠損金の損金算入が認められます(新法法59④/旧法法59③。尚、令和2年改正後を新、同改正前を旧と記載)。

これは、債務超過の会社を解散・清算するときに、債権者からの債権放棄によって債務免除益が発生し、残余財産がないにも拘らず法人税の納税義務が発生してしまうという不都合を回避するため、通常の繰越欠損金の損金算入に加えて、過年度の欠損金額について損金算入を認めるものです。

例えば、債務超過100の会社の清算で、繰越欠損金は既に期限切れとなっていてゼロ、債務免除益100が発生する場合、過年度の欠損に相当する期限切れ欠損金100を損金算入することで課税所得がゼロになるわけです。

具体的な法令等の規定を引用しておきます。

旧法法59③
内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度(前二項の規定の適用を受ける事業年度を除く。以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第八十一条の十八第一項に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に相当する金額(当該相当する金額がこの項及び第六十二条の五第五項の規定を適用しないものとして計算した場合における当該適用年度の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
旧法令118
法第五十九条第三項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)に規定する欠損金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額は、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額とする。
一 法第五十九条第三項に規定する適用年度(以下この条において「適用年度」という。)終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額(当該適用年度終了の時における資本金等の額が零以下である場合には、当該欠損金額の合計額から当該資本金等の額を減算した金額)
二 法第五十七条第一項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)又は第五十八条第一項(青色申告書を提出しなかつた事業年度の災害による損失金の繰越し)の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額
法基通12-3-2
令第116条の3《会社更生等の場合の欠損金額の範囲》、第117条の2第1号《民事再生等の場合の欠損金額の範囲》及び第118条第1号《解散の場合の欠損金額の範囲》に規定する「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額(同項に規定する個別欠損金額を含む。)の合計額」とは、当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による

以上より、この期限切れ欠損金の具体的な金額は、「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額」から当期に損金算入する通常の繰越欠損金を控除した金額として規定されており(旧法令118。新法令117⑤も同様)、更に通達において、これは適用年度の期首の利益積立金額のマイナス残高によるとされています(法基通12-3-2)。

「繰り越された欠損金額」という表現が紛らわしいですが、これはいわゆる繰越欠損金のことではなく、過去に計上されて繰り越されてきた欠損の金額、いわば累積損失を指しており、過去に遡って厳密な計算をする実務上の負担・困難性に鑑み、通達において、期首の利益積立金のマイナス残高を参照すればよいことになっており、これは合理的な規定と思われます。

上記の数値例の債務超過100が、例えば、資本金等0、利益積立金▲100だとすれば、過年度から繰り越してきた欠損金額は100ということです。従って、債務免除益100にこれを充てることで課税所得はゼロになるわけです。


2. 連結納税制度における取扱い

それでは、解散する法人が連結納税を採用していた場合にはどうなるのでしょうか。

連結法人の場合でも基本的な考え方は同じで、上記旧法法59③のカッコ書きをきちんと見ると、「適用年度前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第八十一条の十八第一項に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)」とされています。

ここで引用されている旧法法81の18①はこちらです。

旧法法81の18①
連結法人に各連結事業年度の連結所得に対する法人税の負担額として帰せられ、又は当該法人税の減少額として帰せられる金額は、当該連結法人の当該連結事業年度の個別所得金額(当該連結事業年度の益金の額のうち当該連結法人に帰せられるものの合計額(以下この項において「個別帰属益金額」という。)が当該連結事業年度の損金の額のうち当該連結法人に帰せられるものの合計額(以下この項において「個別帰属損金額」という。)を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)がある場合にはそれぞれ当該個別所得金額に当該連結事業年度の連結所得に対して適用される法人税の税率を乗じて計算した金額と加算調整額(当該連結法人に係る第一号に掲げる金額をいう。以下この項において同じ。)とを合計した金額から減算調整額(当該連結法人に係る第二号から第五号までに掲げる金額の合計額をいう。以下この項において同じ。)を控除した金額又は減算調整額から当該合計した金額を控除した金額とし、当該連結法人の当該連結事業年度の個別欠損金額(個別帰属損金額が個別帰属益金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいい、当該連結事業年度に連結欠損金額が生ずる場合には当該超える部分の金額から当該連結欠損金額のうち当該連結法人に帰せられるものを控除した金額とする。)がある場合にはそれぞれ加算調整額から当該個別欠損金額に当該税率を乗じて計算した金額と減算調整額とを合計した金額を控除した金額又は当該合計した金額から加算調整額を控除した金額とする。

つまり、過年度が単体納税の事業年度ではなく連結納税の連結事業年度だった場合の「個別欠損金額」を含むこととされています。この個別欠損金額は、旧法法81の18①では連結納税で所得/欠損を通算する前の個社の欠損金額から連結欠損金となる部分を除いた金額とされていますが、期限切れ欠損金の規定では、これに連結欠損金となる部分を加算した金額とされているので、つまりは、単純な個社ベースの欠損金額ということになります。

例えば、連結グループで、清算するA社の単体の欠損金額が▲100、B社の単体の所得が70で、連結欠損金▲30の場合、旧法法81の18①におけるA社の個別欠損金額は▲70ですが(個社の欠損金▲100の内、連結欠損金となる金額▲30を除く)、期限切れ欠損金の規定における個別欠損金額は▲100(連結欠損金▲30を加算する)ということになります。

この年度だけだったとすると、A社の利益積立金は▲100ということになりますので(連結納税による法人税の受払いは考慮外)、A社の清算に際して100の債務免除益が生じても、期限切れ欠損金100を控除することで、単体納税での取扱いと同様にA社には課税は生じないことになります。

尚、連結納税の場合の政令は旧法令155の2、通達は連基通11-2-2ですが、内容は基本的に同じです。


3. グループ通算制度導入の影響

令和2年改正では、連結納税の廃止に伴い、連結納税制度を前提とした条文が削除されています。旧法法81の18はもちろん、旧法法59③における個別欠損金額への言及も削除されています。

一方、新たに導入されるグループ通算制度は、あくまで単体納税を前提に、グループ他社の通算前所得/欠損を自社の通算前欠損/所得と通算し、個社の通算後の所得/欠損を算定する仕組みになっています。

この改正後、期限切れ欠損金関係の法令の規定は以下の通りとなりました(条文番号も一部変更あり)。

新法法59④
内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度(前三項の規定の適用を受ける事業年度を除く。以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に相当する金額(当該相当する金額がこの項及び第六十二条の五第五項の規定を適用しないものとして計算した場合における当該適用年度の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
新法令117⑤
法第五十九条第四項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)に規定する欠損金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額は、第一号に掲げる金額から第二号(同項に規定する適用年度(以下この条において「適用年度」という。)が法第六十四条の七第一項第一号から第三号まで(欠損金の通算)の規定の適用を受ける事業年度である場合には、第三号)に掲げる金額を控除した金額とする。
一 適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額(当該適用年度終了の時における資本金等の額が零以下である場合には、当該欠損金額の合計額から当該資本金等の額を減算した金額)
二 法第五十七条第一項(欠損金の繰越し)の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額
三 適用年度に係る法第六十四条の七第一項第四号に規定する損金算入欠損金額の合計額

過年度から繰り越された欠損金額について、連結納税固有の「個別欠損金額」を含むという文言が削除されているのがわかります。つまり、グループ通算を行っていてもいなくても、あくまで過年度から繰り越された個社の欠損金額が期限切れ欠損金ということになります。

しかし、ここには、連結納税における個別欠損金額とのコンセプトの違いに起因する重大な落とし穴があるのです。

上記と同じ数値例で、清算するA社の通算前欠損金額が▲100、B社の通算前所得が70の場合、A社の欠損金額(=通算後欠損金額)は▲30ということになります。但し、A社個社としてはあくまで▲100の欠損(つまり損失)が発生しており、通算によって益金算入される70は、それに見合う資産を受け取るわけではなく、利益積立金も構成しないこととされています。 (尚、通算税効果相当額は考慮外)

つまり、このA社は100の債務超過で利益積立金も▲100の状態ですが、過年度から繰り越された欠損金額は▲30しかないことになります。従って、解散年度に100の債務免除益が発生した場合でも期限切れ欠損金の損金算入は30で、残余財産がないにも拘らず70の課税所得に対する納税義務が発生するように思われるのです。

もしこの理解が正しいとすると、かなり重要で且つ悪影響のある改正なのではないでしょうか。


4. これは意図した改正なのか?

しかし、この理解は本当に正しいのでしょうか。

この点、グループ通算制度の導入に伴う通達の改正においては、上記の法基通12-3-2は改正されておらず、引き続き利益積立金のマイナス残高を参照するようになっています。また、財務省の税制改正の解説においても、このような期限切れ欠損金についての取扱いの変更についての説明はありません。

とすると、考えられるのは、①当方の理解が誤っている、或いは、②財務省/国税庁が意図しない改正になってしまっている、ということでしょうか。さすがに意図的に黙って改正している、とは思えないのですよね。

①の可能性は大いにありますので、お恥ずかしながら、その場合は是非ご指摘頂きたいところです。

一方、②の場合は、財務省や国税庁が意図していなかったからといって安心はできません。法令が「繰り越された欠損金額」と規定している以上、利益積立金のマイナス残高で代用するのは法令の規定に照らして過大であり、万が一争いになった場合、通達の法令解釈が誤っていると認定される可能性もあるかも知れません。

ということで、もし②なのであれば、グループ通算制度が実際に適用される前に、再度改正によってこの不備を是正頂きたいと思います。

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ということで、今回はここまでです。

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