栄光の名文たち 追悼かなざわいっせい氏 第1回

タイトルはグリーンチャンネルで流れている「栄光の名馬たち」のパクりです。

競馬ブックで馬券オヤジの生活を赤裸々にする連載を持っていたかなざわいっせい氏が3月5日に亡くなったのは既報のとおり。その連載をまとめた書籍を本棚から引っ張り出してきてパラパラと読んでいますが、なかなか心に刺さる文章も多いです。というわけで、どこまで続くか分かりませんが、そういった文章を紹介していく企画の第1回です。

その延長として、出版されていない原稿をまとめて、ぜひ本にして欲しいという願いがあります。そんなことにつながればと思います。

今回は1998年に出版された3冊目の『続々・七転び八つアタリ』から紹介します。

「わしのスタンド・バイ・ミー」(本誌掲載1996/2/17・18号)

直接、馬券に関連しない文章も想定していたよりも多く(といっても、ほとんどは馬券絡みですが)、この話はそれにあたります。これはけっこうしんみりする話です。

おおまかな内容は、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を何気なく読み返していたときに思い出した話で、中学生の時、下校途中にあまり親しくない同級生に声を掛けられて関東煮(かんとだき、おでんのこと)を食べに行かないかと誘われた。ただし運がよければという条件つきだったが、運よく関東煮にありつけた折りのエピソードです。

運よくというのは何かというと、かなざわ氏の通っていた中学校のそばにこの前復活した姫路競馬場があり、その友人Sの父親がそこで勝つとおでんを食べさせてくれるという意味で、運よくということだったそうです。で、その日は競馬に勝つと必ずいるという飲み屋にSの父親はいたというわけです。

そして普段生意気な友人Sが父親の前では素直だったこと、それはSの両親が離婚しており普段は父親と一緒に生活してないからだということなどが綴られています。さらにはSの父親に勧められて酒を飲んだこと、帰りに酔って自転車ですっころんで運悪く落ちてたガラスの破片で膝の肉がえぐれるくらいの怪我をしたこと、病院に連れいてってくれたSが今度は競馬に連れてってくれると言ったことが紹介されています。

今でも残る膝の怪我を見ながらそんな思い出が蘇ったが、結局、Sとは競馬に行かなかった、なぜならSは高校生の時にシンナーでラリって川に転落して死んでしまったからだ、Sは大人の世界を早く知りすぎて自分が何ものかよく分からないままそんな自分をごまかすためにシンナーに手を出してしまったのではないか、Sよ生き返ってみろ、そしたらわしが競馬に連れて行っておでんを食わせてやる、という形で締めくくられます。

『スタンド・バイ・ミー』をネタにしながらも、文章の構成もそのスタンド・バイ・ミーと同じような感じになっているところがいいですね。

次回はジェット噴射騎手初登場の回でも紹介しましょうか。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?