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精密切断砥石で試料を切る理由

扱い難い精密切断砥石

精密切断砥石は150~300mm程度と外径が大きい上、補強材も無く、薄く柔らかく作られる性質上、硬度の調整が難しく製造時の気温や湿度、保管時の期間や状態により、砥石の硬度が大きく変わってしまうという欠点があります。通常は気付かないレベルの差ですが、今まで問題なく切断出来ていたものが、同じ条件で新品の砥石に変えて切断したら切断面が焼ける、刃先がブレて斜めに切断されるといった事が起きたら、砥石の硬度不良を疑います。この場合、不良はロット単位で発生することが多いので、砥石に書かれた同じロット番号(製造した日時で付けられる番号)も使わない方が良いです。ロット番号を控えてメーカーに連絡をして下さい。
つまり、精密切断砥石は割れ易く、製造時や保管状況が悪ければ不良も起きやすいのです。精密切断砥石を使用するには、砥石が割れても問題が無いよう設計された、全面をカバーで覆われた精密切断機でないと、使用は出来ません。

精密切断砥石がなぜ使われるのか?

同じ切断砥石でグラインダーや高速切断機(丸鋸切断機)で使用される砥石があります。グラインダー等で使用される砥石は、切断時に高い負荷が掛かっても割れ難いように補強材を入れた硬い砥石になっています。保管にも精密切断砥石ほど気を付ける必要もなく、使い勝手の良い砥石です。

では、組織観察用の試料をグラインダーで切断した場合どうなるかというと、切断面の組織は変形してしまい、分析が出来ないという結果になります。組織観察の最初の工程である切断に求められるものは、観察面の組織を壊さず、出来るだけ元の状態で切り出すという点です。取扱い難い精密切断砥石ですが、唯一その点だけにおいて他の砥石、他の切断方法に比べ優れているのです。組織観察等の分析分野では精密切断砥石は欠かせないアイテムになっています。

精密切断砥石の切断は、湿式方式(クーラントで冷やしながら)で、小さな砥粒で少しずつ削りながら切り出していくという切断方法です。砥石は試料を削りながら、砥石自身も減ることで、常に新しい砥粒で切削できる構造になっていますが、精密切断砥石は柔らかいのでこのサイクルが非常に活発です。このことが、極力試料に負荷を掛けずに切断が出来る理由です。切断中に大きな負荷が掛かった時には、砥石の方が削れていく、もしくは割れるという砥石が負ける状態になり、試料と装置のダメージを最小限に抑える設計になっています。

試料切断の注意

精密切断砥石で切断した場合、試料に掛かる負荷を抑えることが出来ます。とは言え、全く負荷が掛からないわけではありません。どんなに負荷を掛けずに切断したとしても、材質や大きさにもよりますが、少なくとも切断面から1mm以上は組織に多少の変形が起きる相変態が発生します。この相変態を研磨で除去することになるのですが、切断時の負荷が大きければ相変態の除去が難しくなります。まず、このことを認識したうえで切断を行わなければなりません。
試料切断において、早く切断するという事はナンセンスです。生産性を上げるために切断工程を早くした結果、研磨で時間が掛かったり、正しい分析結果が得られないとなっては元も子もありません。まずは、負荷が掛からない試料に優しい切断を目指しましょう。切断が上手く出来た試料は、研磨で時間が掛りません。生産性の効率を上げたいのであれば、切断では負荷を掛けない砥石選定、パラメータの設定に時間を掛け、最も時間の掛かる研磨工程での時間短縮を図ることが理想的です。

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