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イッキューパイセン短編SP SNSの合戦編

 厄介な仙人がいた。
 聞くところによればその仙人、【対象がもっとも嫌う人物に姿を変え、執拗に煽り続けることで暴力を促し、奉行所に訴えて賠償金をせしめる】という手口を繰り返しているという。

 市民の陳情・苦情と仙人からの訴訟処理で奉行所はパンク寸前。
 だが仙人は法を犯しているわけでもなく、お上が取り締まることは不可能であり、領主はすっかり頭を抱えることとなった。
 
 そこで、近隣では一番の頓智者と噂されるイッキューパイセンに知恵を仰ぐことにしたのである。

 呼び出しに応じ奉行所に現れた僧は異様な風体であった。
 闇のように黒い袈裟には金糸で【お前が来い】【出張費二千両】【知力5武力98】【たまねぎ】などの恐ろしい経文が刺繍されており、袖から見える前腕は槍を数本束ねたような太さ。
 
 目は手負いの獣のような怒気に猛り、眉間には峡谷めいた皺が何本も伸び、歯を食いしばった口から洩れる吐息はまるで蒸気のような熱を帯びていた。
 これはここまでの道中で財布と水筒を落としたためだ。

 パイセンに対峙するように白州に立っている男、自身を仙人を名乗るその老人は、パイセンとはまるで対照的であった。
 肩まで伸びた虱だらけのボサボサ白髪。
 地面につかんばかりの長さの顎ヒゲ。
 ツギハギだらけのボロを身にまとい、腰を曲げて杖をついている。

 老人は歯が数本残っただけの口をわずかに開け大きく笑った。
 「ふひゃひゃひゃ、賠償金が貰えると聞いてきてみれば、どこの拝み屋の類か知らぬがワシを退治しようてか!ふひゃひゃひゃ!」

 瞬く間に老人の体が白い煙に包まれる!
 パイセンは腕を組んだまま微動だにせず!

 数秒後、煙の晴れたところに居たのは、先ほどの老人とは打って変わって、身なりのパリッとした、眼鏡をかけた30代くらいの中肉中背の男性だった。

 「何だあれは」
 「いったい何に変わったんだ」

 周囲を囲む奉行所の役人たちがざわめき立つが、パイセンが掌を向けそれを制する。

 メガネ男性は中指でメガネをくいっと上げ言った。
 「俺は【『明日エヴァ観に行く』ってツイートにネタバレリプを送る奴】だ!!!」

 「うわームカつく!」
 「殺してえ!」
 「我慢しろ賠償金を取られるぞ!」
 役人たちも一斉にヒートを高める!
 「しかしこんなムカつく奴を暴力を振るわず倒すなんてどうする気だ?」

 次の瞬間!

 「イヤーッ!!!!」
 パイセンの振り下ろしチョップがメガネ野郎の鎖骨を直撃!

 「グワーーッ!!!!」
 のたうち回る!

 しかし激痛に耐えながらも口元には笑み!
 「ほら見ろ手を出したな!これで俺は被害者だ!」

 さらにしかし!
 「イヤーーーーーッ!!!!」
 パイセンの振り下ろしチョップが反対側の鎖骨を直撃!

 「グワーーッ!!!!」
 のたうち回る!

 「ば...馬鹿め!ここまでやってタダで済むと思うなよ文字どお...」

 「イヤーーーッ!!!」
 パイセンエルボードロップが顔面にめり込む!

 「グワーーッ!!!!」
 のたうち回る!

 「イ...イッキュー殿、いったい何を...」
 「いくら金があっても足らんぞ!」
 役人たちは困惑!

 しかししかし!
 「イヤーーーーーッ!!!!」
 脇腹に蹴りを入れると鞠のようにメガネ男性が宙に浮き、地面へ叩きつけられる! 

 「グワーーッ!!!!」
 もはや悲鳴を上げることしかできない!

 
 「イッキュー殿そこまでだ!これ以上はオヌシの懐具合などではなく、こやつが死んでしまう!!」
 役人頭が背後からパイセンを羽交い絞めにして止めようとする。
 
 パイセンは役人を振り払うと、振り返ることなくこう尋ねた。

 「この奉行所は地獄からの訴えも聞くのか!?」

 


 【おわり】
 

 

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