ゲリラ監査役 青海苔のりこ #4
12.AUG.AD2019 トーキョーツインタワー。
オリンピック&パラリンピック開催を翌年に控えたこのメトロポリスでは開催委員会による会議が連日午後1時から午後4時くらいまで続いていた。
豊富な知識や経験、人脈などを駆使し数々の問題をクリアする彼らには当然ながら高額の報酬が支払われている。税金で。
今日もエアコン設定24度の会議室で会議だ! 猛暑日だからね!
「えー、マラソンなど早朝開催競技におけるボランティアの準備についてですが...始発電車での集合は時間的に余裕がないと見込まれます」
進行役のメガネが議題を提案する。
「そんなもん終電で集合させればいいだろう!」
元総理大臣の委員長が一蹴!
「終電では少し早すぎませんかね?宿泊施設の確保も必要ですし」
進行役でないメガネが疑問を呈する。
「その間はボランティア同士の親睦を深める自由時間にすればいい。寝たけりゃそこらへんにベンチでも芝生でもあるだろ!」
元総理大臣の委員長がこれまた一蹴!
「アッハイそうですね委員長さすがです!」
進行役でないメガネも納得!解決!
そう、これは『敏腕委員長が次々と問題を解決していく』という図を自作自演しているに過ぎないのだ!ファッキン!
「では次にー、ボランティアが無給であることへの批判が上がっています。交通費、宿泊費に加えて幾許かは支払ってより多くの人材が応募するようにするべきだと」
進行メガネから次の課題だ!
「キミぃ、ボランティアというのは基本無給だろぉ!」
委員長がまたもバッサリだ!取り付く島がないとかいうレベルではない!
「全くです。世界的、国民的記念行事に参加するという経験ができるんですよ。財布ではなく心が満たされる!愛と平和!記念品にバッヂとかタオルでも配れば黙りますよそういう輩は!」
進行役ではないヒゲが委員長の意見を補強!解決!
「では記念品の贈呈をするということで。またこの問題については専門職的なボランティア、すなわち医師や看護師などについて無給かつ人手不足でもあり、医療体制の確保が課題となっているところでございます」
進行メガネは淀みなく会議を進める。
どれだけ早く会議が終わっても午後4時までの報酬は出るのでウハウハなのだ!
「期間中はアドレナリンが出るから大丈夫でしょう」
委員のひとりである医師会のなんか偉いやつが答える。
なんか難しそうな単語出てきた!科学的にも大丈夫そうだ!
アドレナリンとかいうやつが出るなら過酷無給でもいいのだろう!神経伝達物質だからすごい!
委員は全員わかったふうに頷くだけで異議は出なかった。解決!
「では本日最後の課題です」
進行メガネが告げる。
「入場待機列や手荷物検査場の暑さ対策についてです」
「ミストは金がかかるからねぇ」
「団扇を配るのは?」
「結構な人数でやっぱりお金かかるよキミぃ」
「ではアサガオを植えるのはどうでしょうか」
「アサガオ?」
「はい、気温を下げるわけではありませんが視覚的に涼しければよいでしょう。植物なヒーリングの効果もあり待機時間のイライラが40%抑えられるといいですね」
「いいね!」
「いいね!」
「外国人が見てアサガオ涼しいと思いますかね?」
絶賛の中、not進行役メガネが口を挟み、ちらっと委員長席を見やる。
「キミぃ!和の心は世界に通じるんだよ!クールJAPANだろ!涼しいんだ!」
すかさず委員長の一言!
「おぉー」
「さすが委員長だ」
「決断力がある」
「イカす」
委員が口々に讃える!クレイジーJAPAN!
「では...『早朝競技のボランティアは終電で来させ、空き時間は親睦を深め連携を高めさせる』、『報酬については記念品を配布』、『医療関係者はアドレナリンの分泌を義務付ける』ということで」
進行メガネがまとめる! まだ午後2時半だ!
「それでは今日はここまで!おいビアガーデン行こうビアガーデン!」
委員長がジョッキを呷る仕草で皆を誘う。
「いいですね」
「さすが委員長だ」
「財力がある」
「ゴチ」
委員が次々と賛同!ビールJAPAN!
そそくさと資料や荷物をまとめ解散準備だ!
コンコン
そのとき、会議室の外から窓を叩く音!
ここはトーキョーツインタワーの45階である!
委員たちが驚き窓を見やると、そこには清掃用のゴンドラ。
乗り込んでいるのは細身のアスリート体型をスーツで包んだ褐色金髪の美女!しかし表情は人形のようで思考は一切うかがい知れない!
コンコン
女はもう一度窓を叩くと、懐からプラスチック爆弾を取り出した。
窓に接着させゴンドラ上昇!
KABOOOOOOM!
爆発! 窓ガラスが粉々に砕け散る!
入ってきた風に煽られ資料やカツラが飛ぶ!
ゴンドラが下降してきて、女が室内へと飛び移りそのまま一礼。
「こんにちは。私はゲリラ監査役青海苔のりこです。五輪組織委員会の監査役に就任しました」
本格的なかき氷屋の地下で保存されてる天然氷のような冷たい声だ。
「か...監査役!?」
「委員長どういうことですか」
「ワシは聞いとらんぞ!」
「財力がある」
「ゴチ」
委員は全員狼狽!
「ゲリラなので突然です。貴方たちが聞いていなくても知ったことではありません。ゲリラだからです。」
「おい誰か警備員を呼べ!」
委員長の指示に進行メガネが内線ダイヤルしようとするが先ほどの爆破で電話機破壊!不可能!
「おい貴様何者だ!何が目的だ!」
委員長が怒鳴る!
「さすが委員長」
「度胸がある」
「財力がある」
「ゴチ」
委員どもも囃し立てる!
「では監査の結果と対応策を併せてお伝えします」
のりこは話を聞かない!ゲリラだからだ!
「おいお前いい加減にしろ!」
委員の一人、元クイズ研究会のドブニシ議員がのりこに襲い掛かる!
2m38㎏の長身から繰り出すロシアンフックはこれまでに数多くの秘書を沈めてきた。
空から落ちてくるような恐怖の拳をのりこは肩口で受け止めると、その腕を取って思い切り内側へ捻る!
ペキボキリバキッ!
「ギョバーーーーーッ!」
ドブニシの肘がなんかとんでもない方向を向く!
「ドブニシ委員!」
同期の元バレー部、ゲスダネ議員が助けに入る!
ゲスダネは1m180㎏の巨体でこれまでに数多くの秘書を仕留めてきた。
大型猪の突進にも等しいぶちかましが炸裂!
だがのりこ微動だにせず!
剥き出しの延髄に真っ直ぐ肘を振り下ろす!
「オボゴーーーッ!」
ゲスダネは白目を剥き失神!
突然の暴力の嵐に対し、他の委員は恐怖で立ちすくむしかできない!
のりこは全く意に介せずに懐から今度は書類の束を取り出し、敵全体に約120~18000ダメージを与える『かがやくいき』よりも冷たい声で告げる。
「えーまず、エアコン使用による電気料金を節約するために会議時間を午前3時30分から午前5時30分までとします。」
「は?」
「何いってんだお前」
「始発でも間に合わないじゃないか」
「財力がある」
委員が口々に反論!
「終電を使っておいでください。開始時間までは親睦を深め連携を高める時間です」
のりこは淡々と答える。
「ふざけんなーッ!」
ドブニシが立ち上がり折られていない方の腕で再度のロシアンフックだ!
ガッツがある!
だが同じように受け止められまた肘の向きがナビゲート範囲外!
「ヒボエーーーーッ!」
今度こそ戦闘不能!
「それから、組織委員会の報酬が五輪財政を圧迫しているため、無給とし、記念品を贈呈します」
「無給で働けるわけないだろ!」
「記念品が腹の足しになるのか!」
委員はブーイングするがのりこは完全にシカト!
「俺には妻と子と3人の愛人がいるんだぞ!」
元飲みサー主催のドロヌマ委員激昂!
1.8㎥70㎏のマッスルボディで殴り掛かる!
のりこは低空前蹴りで応戦!
ドロヌマ委員のドロヌマ製造装置破壊!悶絶!
「だ…誰か救急車...」
「アドレナリンが分泌されるので大丈夫です。神経伝達物質なのですごいです」
ドロヌマの訴えを一蹴!
「い...委員長...どうしましょう」
「うろたえるなすぐに警備員がくる」
「さすが監査役」
「暴力がある」
委員ますます混乱!
「では監査はここまでです。明日からは提示したとおりに会議をおこなってください」
のりこの声に委員長がはっと我に返り声を荒げる。
「ふざけるな!いきなりそんなこと言われて受け入れるわけがないだろう!我々にこんなことしてただで済むと思っとるのか貴様!これは犯罪だぞ!」
自身に詰め寄る委員長に対し、のりこは三度懐から何かを取り出すと、それを顔面へと叩きつけた。
「ヴォギョブーーーーッ!!!」
アサガオの鉢植えである!
「植物なのでヒーリング効果があります。アサガオは視覚的にも涼しくヒートした頭が冷えます」
アサガオよりずっと冷えそうな声でのりこが言った。
───翌日。
委員会は解散し再度人選がおこなわれることが決定した。
のりこは抽選漏れお知らせメールの画面を見つめ続けていた。
【おわり】
※作者は2020東京オリンピック、パラリンピックを心の底から応援しています!
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