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CULLEN THE TRANSPORTER EXTRA STAGE #6

 前 回 

 ───学校が嫌いだ。
 ───学校が、大嫌いだ。

 ドッジボールなんてやりたくない。
 サッカーなんてやりたくない。
 足の速いアイツより頭の良い僕のほうがえらくなるに決まってるのに。

 ────学校が嫌いだ。
 ────学校が、本当に大嫌いだ。

 宿題を済ませるとパソコンのスイッチを入れる。
 王都の一等地にある高級宿屋。
 そのベッドの上で”僕”は目を覚ます。
 
 聖樹の枝を加工した杖。
 マンティコアのたてがみで編んだローブ。
 オリハルコン製の指輪の数々。
 
 どれもこれも★10の極レア品だ。
 ドッジボールで避けるのが上手かったり、サッカーでハットトリックやったり、100M走で一等取ったりしても絶対手に入らないやつだ。

 フレンドが1人ロストした報せが入っている。
 対策はきちんと取ってあったと思うんだけどな。
 向こうも何かずるいことをやっているのかもしれない。

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 謎のお面の力もあって無事アサシンを退けた翌日。
 俺たちは馬車の中にいた。
 馬車、と聞いたときにはさぞかし揺れてケツが痛くなるようなものを想像していたが、一部の金持ちが長旅に使う【乗合武装馬車 ドラゴン級】というえらく高級なもので、客席は3人掛けくらいのソファ、それも相当高級な革張り仕様のやつを向かい合わせた作り。電車のボックス席に近く、思ったよりもずっと広く快適で揺れも少ないときてる。
 
 俺はその片側、おそらく3人ぶんをまるまる占拠して横たわっている。
 天井の木目を数えるのはとっくに飽きた。

 なんでこんな状態なのかというとだ。
 全身を凄まじい筋肉痛と倦怠感が襲っていてロクに動けやしないからだ。
 なんでもあの奇妙なマスクの副作用なんだとさ。
 クソッたれめ。二度と被らねぇぞ。

 「それじゃ退屈だろう?少し眠ったらどうなんだい、友よ」
 向かいの席からトーンを落とした声で話しかけてくるのは俺の相棒、イマジナリフレンドのエルフの王子。
 呑気に話しかけてきてるようで、ショートボウの手入れは実に丁寧かつ正確におこなわれている。
 
 あのな。眠れねーから退屈だっつってんだよこっちは。
 抗議の意を込めて眉間に皺を寄せ睨む。
 正直、今は口を開くのすら鬱陶しい。
 
 それに知ってるぞ。
 お前、彼女に水を向けても脈が一向になかったからこっちに構ってきてるんだろうが。
 
 ────『彼女』。
 「運び屋」を名乗り、この妙ちくりんな世界に迷い込んじまった俺たち2人を元の世界に送り届けるって宣うちっこい女エルフ、カレン・キューピッチに出会ってから今日で2日目になる。

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 「あれは何だい?レディ」
 「山でしょ」

 「おや、珍しいものが見えるね」
 「森でしょ」

 「あの向こうは?」
 「谷よ」

 こんなやりとりを何度繰り返しただろうか。
 どれだけ適当にあしらってもちょっかいをかけてきた王子様だったが、私が少し船を漕ぎだすとピタリと黙った。
 なるほど自称王族を名乗るだけはあって最低限の礼儀はあるようだ。
 
 微睡の中で現状を整理する。
 ”ドッペル”の片割れは昨日シャーレが仕留めたことを確認済み。
 どんな悲惨な”処理”をされたのか考えないようにすると逆に頭の中に浮かび出てしまうから厄介だ。
 
  眠気が強くなってきた。
 案内役兼護衛の立場ではあるが、ここは一人頭金貨4枚と銀貨5枚が必要な【タイタン・ニック乗合馬車組合】の武装馬車、それもドラゴン級の中。
 世界で最も...とは言えないだろうが、それでも世界で... うーんと... 30番目くらいには安全な場所といっていいはずだ。
 訓練された組合員と熟練された冒険者のみで構成された護衛。
 馬車の周辺には5重にも及ぶ各種結界。
 トラブルなんぞに巻き込まれようがない約束された豪華な旅!
 はぁー、勤め先の金でラクするのさいこー... ... ... ... zzz...


ガタンッ!!


 突如馬車が大きく揺れる。
 思わず前に倒れ込みそうになる。 
 これが私も応用している【馬車が急に止まると前につんのめる現象】だ。    
 もっと簡単で短い名前がないのだろうか、これ。
 剣を抜く音、マナのざわめき、周囲が騒がしい。
 ともかく、馬車が急停止したのは明らかなようだ。
 
 隣では王子様が弓を手に取り矢筒の中を確認している。
 やっぱり場慣れしている。
 向かいでは3席分を占拠して寝ていたA・Kが、衝撃で床に転がり落ちていた。
 
 こんこんこん、と軽く窓を3回叩く。護衛を呼ぶ合図だ。
 窓の向こう側、馬車の真横に張り付いたのは右目に大きな傷のあるリザードマンの剣士。
 「何があったの?」
 「それが...俄かには信じられんのだが...」
 「言って」
 「騎士団だ!王都の騎士団が街道を塞いでる!」
 「はあ!?」
 
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 どんな乗り物でも急ブレーキはかける。
 事故るより遥かにマシだからだ。
 俺がムカついてるのはそんなことじゃない。
 体が満足に動かずに顔面から床に落ちたことでもない。

 王子も!カレンも!床に転がり落ちる俺を止めようとするどころか、落ちたあとに心配の声すらないことだ!
 人の心とか持てお前らは!

 ん?外が騒がしいが、そちらに気を取られているのだろうか。

 ガチャガチャという金属音、聞いたことのないような甲高い音に馬の嘶き。
 それらが急に静かになったかと思うと、馬車の進行方向からバカでかい男の声が聞こえてきた。

 「運び屋ギルドの構成員に告ぐ!我らは王都第2騎士団である!
 A・Kと名乗る冒険者には大王暗殺未遂の嫌疑がかけられている!
 要求が容れられぬ場合は、王命にかけてこの槍を振るうことになることを申し添える! 繰り返す...」


 「嘘だろ!?」
 「嘘でしょ?」
 「ついにやってしまったか、友よ」

 【続く】

 
 

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