やすとたけし

やす「ええか。こんなこともあるねん。」
たけし「どんなこと?」
やす「例えばやな。ここに5000万あるとするやろ。これは、誰の金や?」
たけし「やすのやろ?」
やす「それじゃあ面白ろうないやないか。わし以外の誰かや。誰かいうてみ。」
たけし「やす以外やったら、誰やろ。わしか?わしの金か?」
やす「そうや。お前の金や。仰山持っとるかな。」
たけし「そりゃあ、5000万言うたら大金や。何に使うねん。そんな金。」
やす「好きに使えばええがな。家を買うでもええし、車、こうてもええし。若い子を仰山連れて飲み歩いてもええし。」
たけし「ほんまや。何でも出来るわ。でも、そもそもどうしてわしの金なん?その金は。わし、ようかせがんで。そんな金。」
やす「宝くじに当たったとかでもええやないか。なんかええことしてもろうたんかも知れん。拾うたカバンに入っとって、警察に届けたけど、持ち主が現れんかったんかも知れん。何でもええねん。金には名前は書いてないんやから。」
たけし「そりゃそうや。じゃあありがたくいただいておくわ。」
やす「そや、考えんと正直に生きるのが一番やで。」
たけし「ほんまや。わいは、馬鹿正直で通っとる男やさかい、何かが助けやろうと思うたんかもしれん。」
やす「そやろ。誰かみとんねん。ええ人間には何らかええことも起きるちゅうことや。それはそうと、今日の飯代、出しといてくれんかな。この前の分も合わせて、今度払うさかい。今日は、5000万のたけしに少しだけ恵んでもらいたい気分やねん。」
たけし「もちろんや。わいは、大金持ちやさかい。飯くらい出してやるわ。」
やす「いつもおおきに。」


例えばの話やで。
やす「ええか、例えばの話やで。
例えばやな。ここに一本の木があるとする。
小さい木や。葉っぱはそれほど多くないねん。
まだ生えて数年たったくらいの木や。わかるか?」
たけし「さー。でも何と無くわかる気もするわ。」
やす「せやろ。なんて名前の木や?」
たけし「名前か。そやな、やすの木でどうや?」
やす「なんやねん。それ。そのままやないか。まあええわ。やすの木や。」
たけし「やすの木。」
やす「そや、やすの木や。やすの木はな。珍しいねん。何年かに、一度奇妙な花が咲くねん。で、その後、変わった実がなる。わかるか?」
たけし「何と無くわかるわ。それでその奇妙な花いうのはどういうものなん?」
やす「色が黒いねん。黒の花やねん。見たことあるか?黒い花は。」
たけし「黒の花はみたことないな。確かに奇妙な花やわ。」
やす「せやろ。しかもええ匂いがするねん。ええ匂いは普通のように思うやろ。でも違うねん。ごっつーえー匂いやねん。信じられんくらい。信じられるか?」
たけし「何のなくわかる気がするわ。ごっつ〜ええ匂いやねんな。黒い花が」
やす「そやねん。ごっついねん。まあええわ。その後、実が出来るんやけど、それも変わってんねん。黒い花の実は、何色かわかるか?」
たけし「黒い花の実か〜。何色やろな。普通は黒やと思うけど、もしかして、白か?」
やす「スイカやねん。」
たけし「西瓜?あのシマシマのか。緑と黒の。夏に食べる中の赤い、あれか?」
やす「そうや。それや。でも見た目はそうやけど、全然違うねん。それがごっつ〜臭いねん。ドリアンいうて聞いたことあるか?世界一臭いちゅうあれや。でもやすの木の実は、比べもんならんくらい臭いねん。どうしてや思う?」
たけし「どうしてやろな。もしかしたら、花がごっつ〜ええ匂いなせいかも知れんな。ようわからんけど。」
やす「その可能性もあるけど、説得力にかけるな。それだと意味がわからん。答えを教えてやろうか。シンプルに考えるとすぐにわかることや。」
たけし「シンプルか。形はスイカやけど、ごっつ〜臭いんやろ。」
やす「そや。もう答えをいうとるようなものやないか。西瓜と間違えんようにごっつ〜臭いねん。ガスだって、わかるようにワザワザ臭い匂いをつけとるのと同じや。」
たけし「さすが物知りやな。確かに匂いがせんと間違うことがあるわな。で、味も違うんか。」
やす「味は同じや。甘くて美味しい西瓜や。違うのは匂いだけや。」
たけし「そうなんか。じゃあ匂いを我慢すれば、食えるんやな。」
やす「死ぬけどな。」
たけし「食ったら死ぬんか?じゃあ食われへんやないか。」
やす「食ったら犬死や。」
たけし「怖いがな。」
やす「せやろ。怖いやろ。で、冷蔵庫に入っているやつ、実はやすの実やねん。匂いは抑えてるから、西瓜と区別がつかんけどな。」
たけし「ほんまか。よう教えてくれたわ。他のやつにも食べんように言わんといけんな。」
やす「よかったな。命拾いしたな。犬時にするところやったで。」
たけし「ほんまや。助かったわ。ありがとな。」
やす「ええねん。いつも世話してもらっとるから。」


やす「たけし、そろそろクリスマスやな。去年は何しとった?」
たけし「忘れたわ。そんなん。覚えてないくらいやから、たいしたこと、しとらんかったと思うで。」
やす「そんなんやから、うだつが上がらん言われるねん。わしなんか。。。覚えとらんわ。同じやな。」
たけし「人のこと言えんわ。クリスマスの思い出なんか、ほとんどないわ。小学校のクリスマス会くらいかな。」
やす「わしも似たようなもんや。よう、サンタをバカにしとったわ。捕まえて、プレゼントを全部盗んだるとか言うとったり。」
たけし「そんなん、サンタも物騒でプレゼントを抱えて歩けんがな。」
やす「空飛ぶそりやから、大丈夫やろ。まあ、煙突言うても、風呂屋か町工場の煙突くらいしかあらへんかったけど。」
たけし「あん中、入ったら、ススだらけや。髭まで真っ黒や。」
やす「せやな。」
たけし「そういえば、近所のおばはん、何とか詐欺に騙されたっていうとったで。あのぎょうさん金をためとるようたおばはんや。ケチで有名な。」
やす「それは災難やったな。何とか詐欺言うて、息子か誰かのマネして電話を掛けてくるやつか?」
たけし「よう知らんけど、たぶんそんな感じのやつやないか?かわいそうやな。ケチで他人にはびた一文ださんって言われようたのに、やっぱり人の子やな。身内のことやったら、つい出してしもうたんやろ」
やす「貯め込んでも、思いも寄らんのことで、なくなるもんやな。金は足りんくらいがちょうどええんかもしれん。」
たけし「最近、コミュニケーション能力の本を読んだんや。コミュニケーション能力が高ければ、伝えたいことをきちんと伝えられて、相手に言うことを聞いてもらえるらしいで。」
やす「わしには、そんなん、全然ないわ。よう、意味わからんこと、言うないうて、怒られること、ばかりや。」
たけし「わしもや。ちゃんと話そうと思えば、思うほど、伝わらん。難しいもんやな。」
やす「でも考えてみい?電話で息子のふりをして、金を盗むんも、伝えたいことを伝えて、相手に言うことを聞いてもらうのと同じことやないか?ほんなら、そいつはコミュニケーション能力が高いんか?」
たけし「ちゃうな〜。なんか、ちゃうわ。どこが違うんかわからんけど、同じにはなりたないわ。」
やす「わしもや。同じにはなりとうない。なかなか難しいな。答えがわからん。」
たけし「わしらには、わからんくらいが、丁度ええんかもしれん。わかってもらえんでも、わかったふりをされるよりはええしな。」
やす「珍しくええこと言うたわ。それはそうと、去年の正月は何をしとった?」

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