小説 第一回AI Selection (37) 武田朋美

武田が高台に向かって急いでいたところ、目の前を行く夫婦の背中が見えた。先ほど聞いたご夫婦だわと思った朋美は、足を急いだ。

「こんにちは。高台に向かわれるのですか?」と武田は声をかけた。

「こんにちは。」ご婦人の方が武田に向かって、返事を返した。

ご主人の方は、手に子供用の砂遊びの道具を持っていた。

「それは?」と武田が尋ねた。

「これは、孫の。」とご婦人が、それを見て答えた。

「お孫さんの?」と武田は2人に追いつき、並んで歩きながら聞いた。

「これは、孫たちがうちにおいて行った唯一のおもちゃなんだ。」とご主人が答えた。

武田は、お孫さんを亡くされたんだなと思った。

「私の方は、両親と弟を」と武田は言った。

「そうでしたか?おいくつだったの?」とご婦人が聞いた。

「60代です。まだ元気でした。2つ下の弟と暮らしていました」と武田は答えた。

「そうだったの。津波で。」とご婦人が言った。

「はい。私も東京で、津波に流されて、でも自衛隊の人たちに助けてもらいました。もしかしたら、両親や弟もと思ったんだけど。」と武田は言った。

「多くの人がなくなったからな。うちの子供や孫も。」とご主人が言った。

30メートルほど進んだところなひらけた場所があるのが見えた。そして、そこには幾人かの人影も見えた。

「みんなここにきているのね。」とご婦人が言った。

「みんな自宅には戻れんからな。ここから眺めるしかないんだ。」とご主人が言った。

「少しでも良いから、自宅に帰って、両親や弟を探したいんです。思い出のものも、」と武田が涙ぐみながら言った。

「わしは、これを孫のところに届けたいんだ。お気に入りだったから、向こうでも遊べるように。」とご主人が言った。

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