小説 第一回AI Selection (34) エリー・マルキマ・パジャーブ・シン
エリーの乗った船は神戸に着いた。エリーは鈴木さんと神戸で下船し、スズキさんが住んでいた神戸の街を歩いた。
スズキ「私が住んでいた頃とこの辺りは、あんまり変わっていないみたい。震災があったなんて感じないです。」
エリー「そう言えば、ずいぶん昔に神戸でも大きな地震がありませんでした?」
スズキ「ありました。でも私が生まれる前で、港には、その地震で崩れたところが、そのままの状態で残してあることろはあったんだけど、それ以外は、すっかり復興してました。」
エリー「今回の地震の復興にはどのくらい時間がかかるんだろう。日本だけでは人も予算も足りないから、外国の支援も必要となりそう。」と呟いた。
スズキさんも歩きながら頷いた。
町では、避難してきた人たちと何人もすれ違った。スズキさんは、彼らから目を逸らしながら歩いた。
エリーは、道の端に腰を下ろした小学校低学年の女の子を連れたお母さんを見かけて、近くに寄って行った。スズキさんは、少し離れたところに止まって、エリーが近づいていくのを眺めていた。
エリーは、お母さんに声をかけた。
エリー「こんにちは。こちらには避難してこられたのね。」
お母さんは、少しゆっくりと顔を上げた。お母さんの横に座った女の子は、下を向いたままだった。
お母さん「あの。どうしましたか?」
日本人には見えないエリーから声をかけられた彼女は、道でも尋ねられるのではないかと思った。
エリー「こちらには、震災から避難してこられたのですか?今は、避難所にお住まいなのですか?」
エリーは、流暢な日本語で聞いた。
お母さん「あのー。そうです。堺から避難してきました。こちらの避難所はいっぱいで、入ることができないので、娘と近くの公園で寝泊まりしています。」
そう言って娘を見た。お母さんは、エリーとスズキさんを交互に見て、誰かを探して、神戸にきたのではないかと思った。
エリーもスズキさんも、その夜、泊まる場所の予約を取っていなかった。エリーは、その親子を見ながら、1日だけでも一緒に泊まれないかと思った。
エリーは、少し待っててとお母さんに告げて、スズキさんのところに戻って、スズキさんに聞いた。
エリー「あの2人は堺から逃げてきて、今は公園で野宿をしているみたい。今夜くらいホテルかどこかに一緒に泊めてあげたいんだけど、どう思う?」
スズキは、少し顔を顰めて言った。「似たように、避難している方は、きっとたくさんいると思うの。だから1日だけあの2人を助けて上げられたとしても、あまり意味がないんじゃないかな。あなたは自分の泊まるところもまだ決まってないんじゃない?」
エリー「ホテルの予約は、まだだけど、あの2人分を出すくらいの余裕はあるし、あのままには出来ないじゃない。」と言った。
スズキは、2人を目の端で確認した。
エリー「そう言えば、あなたはどうするの?」
スズキ「私は神戸の知り合いに自動車を借りて、今夜、名古屋に向かうことにしているんだけど、話してなかった?」とスズキは言った。
エリー「それは1人で?」
スズキ「そのつもり、何日かかるかも、どこまでいけるかもわからないけどね。」
エリー「私も一緒できる?」
スズキ「いいよ。1人だと心細いと思ってたから、一緒に来てくれるなら、その方が嬉しいかも。」
エリーは、微笑んだ。しかし親子のことも気がかりだった。エリーは親子のもとに戻って言った。
エリー「ごめんなさい。実は、私が泊まるホテルに2人も一緒に泊まれないかと思ったんだけど、あそこにいるスズキさんが今夜、車で名古屋に向かうというから、一緒に行くことにしたの。」そう言って、エリーはカバンから、何かを出そうとした。
お母さん「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。同じようにこっちに避難してきている方も多いし、そのうち、行政の支援もあると思うから。」
エリーがカバンから取り出したのは、船で朝食に出たパンとメモだった。エリーはメモに、携帯の番号と銀河での連絡先を書いて、お母さんに渡した。
エリー「少ししかないんだけど、これを食べて、何か困ったことがあれば、ここに連絡して。」
お母さんは、少しの間エリーが出したものを見ていたが、そのあと、お礼を言って、それを受け取った。