蛇口は一つが　ありがたい

君の家の洗面所には、いくつ蛇口がある？　俺の家の洗面所は一つだ。口のひねり方で水温を調節できるし、湯沸かし器の温度設定をいじれば湯温も調節できる。だが、イギリスはやばい。危険だ。奴らの洗面所には２つ蛇口があり、それは罠である。日本にも２つ蛇口のある物件はもちろんあるが、赤い方をひねっても、あたたかいお湯が出るはずだ。イギリスの赤蛇口はやばい。まさにサラマンダーの口である。沙羅曼蛇マウスだ。

97年9月。渡英したばかりの俺は、最初の数ヶ月、ゲームズワークショップのアメリカ支社長（当時）ジョン・マシューズが所有している空き家をあてがわれ、ノッティンガムでの暮らしをスタートさせたが、洗面所で驚いたのは蛇口の数だ。いやなんで二つあるんだよ。一つじゃねえのかよ。

ファッキン・ブリティッシュ・ガッデム・タップス。
アイ・ファッキン・ヘイテッド・ザット・シット。
ヒダリ・ネットー。ミギ・レイスイ。

イギリスの蛇口はやばい。左に赤い印のついた蛇口と、右は青い印のついた蛇口。なんだよ掃除の手間が２倍じゃねーか。一つで済むのにわざわざ別にするとか、イギリス人は何を考えているのか。そして風呂じゃないのになぜか洗面器が置いてある。銭湯かよ。洗面器をどかして顔を洗おうとした俺は、蛇口をひねってドギモを抜かれた。